最後の関門:見えない道を歩け
語り手は明日谷大和君で、一人称は「俺」です。彼が変身すると「キラナデシコ」に化け、一人称は「私」に代わります。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。今後、あなたに良きできごとが起こりますよう、心からお祈りします。
頂上まで後少し、なぞなぞは一問だけであり、私たちは走った。ナデシコに化けているせいか、走ってもほとんど疲れやおなかの痛みが生じない。
「道がありません」
マナテがカナセに抱き着く。
「どうなっているの?」
およそ50メートル、透明で道がどこにも見られない。頂上だけ浮いた形となっている。初め、私たちがエンタ山を登っている時、道はあったはずなのに。
「どこかに見えない道があるのかもしれませんね」
マナテがかがんで、何も見えない道に対し、払いのけるように手を動かした。しかしつっかかりはない。
「4人でどこかに道がないか、手探りで探してみましょ」
私たちは山の頂上を囲うように大地と空間の裂け目を手でまさぐり、地面がないかを探すけれど、ついに見つからなかった。
「こ、これってどこも道がないの?」
カナセが口を開ける。
「マナテ、頂上に咲くエンタメンゼンを取れなくても、シミ病は治るの?」
「無理です。エンタメンゼンを取らないと治りませんし、回復が遅ければ、アルムの世界だけでなく、大和さんの人生にも悪い影響を与えてしまいます」
「悪い影響って?」
「例えば大和さんのお父さんやお母さんが不幸な事故にあいます。例えば」
「ありがとう、マナテ。なんとしてでも取らないといけないわね」
おおおおおおおお、おおおおおおおおおお。
牙をとがらせ、私たちを食べようと企む獣の声が、大きな谷に響き渡る。頂上に生えている草たちは風と反対方向に揺らいでいる。びゅううっと風が吹いた。私たちは風に押され、体を動かされるが、草は動じてない。
「あの草、すごい」
「ナデシコ、エンタメンゼンが語りかけたのですか?」
姫がお尋ねになった。マナテとカナセは抱き合って震えている。絵になる双子姉妹だ。
「いや、あの草、風と反対に揺れて、すごいなって。オマエガイウナさんは言ってたっけ。この惑星は負けん気が強いって」
「彼はそう述べていましたね。恵麻さんも述べていましたね」
私はつばを飲み込み、両足の親指に力をこめ、歩き出す。しかし、道の一歩手前で止まる。
「ひょうが降る場所で頂上を見たとき、道はあったよね、みんな」
「ええ」
「なら、道は確かにある、だから……」
足が動かない。私に勇気があれば、この見えない道を歩めるというのに、もし道がなければ私は奈落の底に落ちる。なぜ、どうして、私の足は動かないの。落ちるからだよね。心は行きたいのに、いや、行きたいといっている時点で本当は行きたくない。早くいかないと由良が、愛良が、何よりも私の人生が、
「情けないな、ナデシコ」
カナセがマナテから離れ、私を見て笑う。
「こんなところ、走れば一発うううう、助けて、マナテ」
カナセは見えない道に向かって走ったものの、落ちてしまうところを私とマナテが彼女の手を引っ張り、救い出した。
「ふああ、はあ、はあ」
カナセは涙をこぼしながら、マナテに抱き着く。
「ナ、ナデシコ。お前ならできるんじゃないのか。生き物のカンというやつだ」
「ナデシコならできます。落ちないと思います」
マナテは私に向かって笑みを浮かべた。
「理由はある?」
「ありません。カナセと同じ、宇宙人のカンです」
私の肩をお叩きになる。
「ナデシコ、いえ、大和さん。一つ言い忘れておりました。シミ病が続くと大和さんの人生のみならず、あなたが好意を寄せている須田愛良さんにも悪い影響を与えます。キラココアこと愛良さんは須田愛良さんとつながっています。何より、須田愛良さんはナデシコの活躍を夢の中から見ております。私が伝えたいこと、わかります?」
うおおおおおおおおおおおおおおお。
愛良ちゃんが? 風の音が獣の雄たけびから闘志に変わった気がする。
「ナデシコ、いえ、大和さん。あなたがエンタメンゼンをとれば、須田愛良さんを救うということにもなり、大和さんとしてかっこいい部分も見せられるのです。取れないということは、須田愛良さんを失望させ」
「行くわ」
ぐぬおおおおおおおおおおおお。行く、行く、走る、考えるな、感じなくていい。見るな、下を見るな、走れ、走れ。怖いなら目を閉じろ。私の中にいる彼は叫んでいる。愛良ちゃんが見ているなら、愛良ちゃんに嫌な、無様な姿は見せたくない。
――馬鹿にして結構。私は、いや、私の中にいる彼は述べている。「好きな子のために走らないで、何が悪い」と。私は今、どの地点にいるのだろう。
「すごい、見えない道を普通に走っている」
「ナデシコの足元にエンタメンゼンがありますよ」
マナテが大声で言い、足元を見れば、エンタメンゼンが咲いていた。花びらが笑顔となって面白い。草を引っこ抜く。なかなか取れない。
「ナデシコ、踊ってください」
姫が手を挙げておっしゃった。カナセはマナテの手をぎゅっと握る。
「あと少しだ、頑張れ、ナデシコ。僕が応援してあげているんだからな、とれよ」
「カナセはどうして上から目線でナデシコに言うの?」
「みんなが下から目線で言うからだ。ほら、ナデシコ、頑張れよ」
マナテは姉の頬をつねながら、笑顔で私に手を振る。双子のやり取りは漫才に通じる。気分が高まってきた、体もどんどん火照ってくるよ。
――後でホテルに行こうって、何を言っているの、あなた。
「エンタメンゼンに陽気な気分を、キラキラ炎の舞」
回り、飛び跳ね、持っている扇子から炎を出すと、草が踊るように飛び跳ねた。すぐさま私はつかむ。
「やりましたね、ナデシコ、さあ、アルムの世界へ戻りましょう」
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