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キラメキDaughters(ドーターズ)  作者: 千賢光太郎
5話 現実世界はわくわくしないが、ドキドキはする
19/55

よっしゃ、ぽえぽえ7ライブに行けた。みんなありがとう、なのに

■ ぽえぽえ7ライブ


ぽえぽえ7のライブ当日、チケットを握る俺、姉と妹。父さんからもらったチケット。まさか当日券を取らずに参加できるとは。当日券は10分で売り切れた。広と愛良ちゃんは良く取れたよ。


「あんた、広君とは出会ったの?」


「広は違うところにいるって。明日会うよ。こんなに人がいると、どこにいるかわからないし」


大きなスタジアムにて、愛良ちゃんを探すが見えない。おそらく大二郎と呼ばれた男性と一緒にいるのだろう。心からやかましい声が聞こえる。


「やまにぃ、好きな人ができたのだよね?」


「美鈴、何を言い出すんだ」


「お姉ちゃんが言っていた、愛良ちゃんだっけ。その子を探しているのかなって」


「ば、馬鹿」


俺の顔を見て、姉と妹がにたーっと笑いを浮かべる。


「仕方ない、私と美鈴で彼女ごっこをしてあげるよ」


「なってくれるの?」


姉の顔が赤くなった。


「やまにぃ、私はいいよ。あ、でも彼氏は嫌、だってやまにぃはなよなよしているもん」


美鈴は首をぶんぶん振り回し、白い歯を見せて微笑んだ。


「俺だって、姉ちゃんや美鈴とは付き合う気、さらっさらないし」


近親が恋人関係になる。『僕は妹に恋をしている:青木琴美著、小学館』といった、漫画の世界だけで十分だ。

――やめてよ、美鈴をくださいって、小学校6年生の妹と結婚するつもりでいるの? え、姉ちゃん? 姉ちゃんはたぶん断ると思うなあ。あんたがカッコイイなら、付き合ってくださいって言うかも。


「いて、姉ちゃん、何をするんだよ、げんこつして」


「座席、ここよ。私が何度も言っているのに、無視をするから叩いたの」


すぐ暴力に訴えるんだ、姉ちゃんは。でも、料理はとてもおいしいし、何かと気にかけてくれるしって、なんで俺が姉ちゃんの擁護をしなければならないんだ。


「大和、さっきから何、独り言をつぶやいているの」


「ブザーが鳴った、始まるよ、るなねぇ、やまにぃ」


美鈴が高く声を上げた。一人の女の子が魔王に捕らわれている。あれ、あの女の子、由良にそっくりだ。


「ふにゃふにゃ魔王、今すぐ放せ」


「お姫をこうしてやるわ」


「そんなことさせない、いくよ、みんな、きらめけ、私たちの希望」


様々な光が入り乱れ、ぽえぽえ7が現れた。父さん、ありがとう。ぽえぽえ7の歌はいい。一流の歌手に比べたら下手だけど、代わりに元気をもらえる。

……なんで今、俺はぽえぽえ7の歌を下手って言ったのだろう。ダンスも気になる。なるほど、サビの部分でみんなガッツポーズをすれば、盛り上がるのか。間奏中の動き、アスナとココアで飛び跳ねると面白そうだ。アルムの世界から由良が来たら、二人に提案をしてみようか。

……あ、あれ、なんでぽえぽえ7を俺は観ているんだ?




■ ライブが終わった翌日


昨日の夜、由良は現れなかった。合宿を終えて疲れているのかもしれない。中学校について、教室に向かい、自分の席に座る。


「おはよう、大和」


「広、おはよう」


風間広、俺の友達。あ、もう紹介したか。悪い。


「大和、昨日のライブは良かったな。まさかガマリッシャー(ぽえぽえ7で一番人気のある曲)で、みんながスタジアムを突き破るとは思わなかった」


「本当だよ、あのとき、僕たちも飛んだ気分になったよね」


「や、大和君」


優しい声に素早く振り向く。愛良ちゃんだ。


「や、大和君もい、行ったの?」


俺はうなずく。力強くうなずく。


「あ、愛良ちゃん」


さあ、愛良ちゃんと話をするチャンスだ。大和、尋ねろ。背中に妙な刺激が走る。広が俺の背中を軽くたたいていた。


「愛良ちゃん、一人でいったの?」


馬鹿、何を聞いているんだ、俺は。でも、気になる。


「いとこと行ったんだよ」


「あのかっこいい人?」


小野田英子(おのだえいこ)が尋ね、愛良ちゃんはうなずいだ。そうか大学、じゃなくて、あの人、いとこだったのか。少しほっとしている。


「大二郎君は私のいとこだよ、野球部で次期キャプテンなんだ。それに彼女もいるし」


「へえ、愛良こそお似合いだと思ったのに」


英子が俺を見ながら言った。あまり言いたくないけれど、嫌な女だ。


「い、いとこだよ。大二郎君はがさつすぎて、私には合わないよ」


「合わないって、じゃあ誰が合うの? 愛良の好きな人は誰、誰?」


英子が愛良ちゃんに顔を近づける。心臓がうるさい。お、落ち着いていいんだ、俺の心臓。


「大和じゃないの?」


広が俺の頭を軽く叩いた。


「ち、ちが」


太陽が厚い雲にさえぎられる。


「血がついているよ、大和君」


俺の手、握った。


「はあうあああうあああう」


「愛良、落ち着きなさい」


握った、握った。


「お、おい、大和、しっかりしろよ」




■ 愛良が英子に語る(語り:愛良)


「ご、ごめん」


飲料水のある場所で、私は何度も手を洗う。英子が呆れた顔を浮かべている。


「あんた、大和みたいな男がタイプなわけ?」


「ちちちちち、ち」


違うとは言えない、でも人前で、友達の前で「私は大和君が好き」と言えない。言ったら私はあらゆる秘密を英子に知られてしまう。友達でも知られたくない秘密だってある。


「あんな、はっきりしない、なよなよした男のどこがいいの? 男のくせに髪の毛を女っぽく縛っちゃってさ」


「や、大和君はかっこいいよ」


私のだめなところ、ちょっと不安なところを指摘して、支えてくれる英子でも、今の発言は許せない。


「どういうところがいいの? 私はああいう男、一番大っ嫌い。愛良が好きなのだろうけれど、愛良の前で何も言えないのだもん。あいつ、男じゃないよ。広君がいなければ、今頃ぶっ倒れて保健室に直行よ」


「そ、そこまでき、嫌いになることはないんじゃ」


「嫌いなものは嫌い。愛良、好きなら早く好きっていった方がいい。ま、私は言えない愛良を見て、ニヤニヤするけれど」


「い、言いたいけれど、こ、声が」


しまった。英子に秘密をもらしてしまった。スマホの着信音が鳴る。英子が電話に出る。


「どうしたの、ロロナ。今、学校だから……うん、帰ったらそっちに行く。間に合うでしょ」


英子は窓から見える景色を見た。私も見る。いつもと同じ空。


「ああ、空が少し曇り始めている」


英子はつぶやいた。

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