こぼれ話~3日目以降の特訓~
さて、ここでは合宿中のこぼれ話をあんたに伝えたい。俺らの愚痴を聞いてもらいたいだけなんだ。いやだったら聞かなくていいからさ、もしよかったら付き合ってほしいんだ。あんたの運気を落とさないよう、汚い部分はなるべく話をしないからさ。
■ 歌のトレーニング裏話
「やっぱりずれるね」
ココアと私はそろうが、アスナと私はわずかにずれる。
「合わせるって、本当に大変だね。植物さんをなだめるときは合うのにね」
「おそらく」
カエル先生がイゴイゴ言いながら、お茶を飲んでいる。
「イザ、という場面でないからだろう。初日に比べると、君たちはとても良くなっているよ」
「本当ですか、全く気が付かないのですが」
カエル先生はうなずき、座った。
「データがないから、育っているとわからない。一応、君たちの歌声をこれにとってある」
先生は一枚の音符葉っぱを取り、指で鳴らした。私たちの声が聞こえた。こんな恥ずかしい声をしていたのか。あなたは自分の声を聴いたことがある? 普段話す自分の声とかけ離れて、大変驚くわ。
「そろっていませんわ」
「いやあ、キャピっとした声」
カエル先生は私たちの反応を見て、イゴイゴッと笑った。
「己に気づくのが成長なんだ。君たちは若い。だからものを知っているようで、奥深さを知らない。一つの単純な部分を追いかけてごらん。特にみんながまねできる分野ほど、細かい技が必要なのだよ」
音符植物は私たちの声をただ、繰り返した。
「後、君たちはファンとアンチを知らなければならん」
ファンとアンチ。よく聞く言葉だ。私たちを応援するか誹謗中傷を行うか。
「ファンもアンチも紙一重。ちょっとしたきっかけと感動で、ファンにもなれば、アンチにもなる。私も音楽家を目指してライブ活動をしていたころ、よくアンチから叩かれていた。私もゲコゲコ言いながら、腹がたったものだ」
音符植物がちりんちりんとなる。
「でもな、私もある偉大な歌手のアンチだった。みんながメロメロだったから、私は反抗心がでた。まあ、アンチもファンもこんなもの。彼らも感動を欲する人たちだと思って、ワクワクを与える。さ、休憩を終えよう」
私たちは立ち上がり、再び歌のトレーニングを始めた。
■ 新しい歌の作詞について
「新曲の歌詞を作りなさい、曲は私が作っておくから」
恵麻さんが指を鳴らすと、ノートとペンが渡された。歌詞と言われても、私は歌を作った経験などない。リズム、感情の揺らぎ。どうやってつければよいの。
「師匠、歌を作るコツを教えてください」
「そんなものはないよ。装飾は後回しでいい。まずは言葉をたくさん書きなさい。その後、大切な言葉、流れをまとめ、声に出し、リズムをつけてみなさい」
わからないなあ。適当に私たちは歌を作る。
「できた」
「じゃあ由良、声に出してしゃべりなさい」
由良はうなずき、詩の内容を語った。
「由良、キミの前で咲いた花びらって歌詞があるね。キミって誰?」
「え、わかんない」
「それじゃあ人に伝えられないよ。きちんと考える。ココア、ナデシコ、途中でいいから読んでもらおうか」
私は心をびくびくさせながら、詩の内容を語った。
「ナデシコ、リズムは取れているけれど、全体から見て詩の内容に関係ないじゃないか」
「こ、これは言葉遊びで」
「なら、関連した言葉を使うのだね。ココア、全くできていないね」
「思いつかなくて」
厳しい時間が流れる。マナテとカナセは外でポンポンを持ち、ダンスをしていた。
「三人で会議をしながら、歌を決めなさい。私はちょっと仕事をしてくるよ」
恵麻さんが目の前から消えた。
「歌を作るって簡単に見えたけれど、難しいね」
私が寝転がる。アスナもごろごろ転がる。ココアは座っていた。
「トレーニングよりも汗をかきましたわ」
「はあ、みんなはどういう気持ちで書いているの?」
アスナは私に抱き着きながら尋ねた。
「適当」
「私もです」
ココアは空に向かって息を吐いた。空は今、紫色に染まる。
「私も適当。何を考えればいいんだろうね」
「それは、歌を聞く人への気遣いじゃないですか」
ココアも寝転がる。
「歌じゃなければできるのになあ」
ぼーっとしていたら、恵麻さんが戻ってきた。
「お前たち、歌が思いつかないのかい」
「はい」
私たちは頭を下げる。恵麻さんがふうっと息を吐いた。
「まあ、思いつくときは自然と出るか。私が悪かったよ」
恵麻さんが指を鳴らすと、ノートとペンが消えた。どうしてだろう。恵麻さんに見放された気持ちがする。そのとき、私はふっと歌詞が思いついた。
「恵麻さん、私たちにもう一度ペンを」
「なんだい、あきらめたのかと思ったよ」
アスナとココアは私を見る。
「あきらめきれません」
「ほれ、じゃあ書きな」
恵麻さんがふふっと微笑み、再び紙とペンが出た。想いや言葉が、どういうわけか出て来るのだ。そのとき生まれた歌詞は、ヤナミが出したクスミ鳥人間を封じるとき、歌った。