合宿後のライブと、キラメキを奪うクスミ女、ヤナミ登場
■ 3日目から6日目まで
3日目から6日目まで、1日目と2日目の復習を行った。カエル先生のもとで歌い、崖のぼりなどの体力トレーニングを行い、ダンスもする。基礎トレーニングはきつい。食事はもっとつらい。辛いという言葉しが出ない。私はアルムの世界から出ていない。現実では今頃、姉や妹、友達は私、いや、大和に対して何を思っているのだろう。愛良ちゃんは私を忘れているの?
――そんなこと言わないで、頼むから。
■ 今度こそ乙女惑星スピカでライブを
アルムの世界で、とうとう6日がすぎた。恵麻さんは私たちを乙女惑星スピカに飛ばし、コンサートを開かせた。うげ、あのお姉さんだ。
「いらっしゃいませ。あら、今日はきちんと女の子なのね」
「いいでしょ、お姉さん」
「合格です」
お姉さんがにやりと微笑んだ。とても怖い。控室につき、部屋に入る。
「みんな、特訓の成果を出すよ」
アスナがぶんぶん腕を振り回す。
「ナデシコ、そして大和様」
ココアは私の胸を軽くたたいた。ぽよんと音を立てた。
「このライブがうまくいけば、大和様の運気も少し上がります。そうなると、大和様にとって良い未来が一つ訪れます」
「ええ、頑張りましょ」
私の中にいる彼は何かを言いたそうだが、耳に入らない。
「お前ら、頑張れよ。僕たちもバックできちんと踊るから」
「皆さま、成功させましょう」
マナテとカナセが手を握る。カナセの胸には恵麻さんが調達したスライムがいる。おかげでマナテよりも大きい。私たちもアスナ、ココアと手を握る。
控室から歩いて3メートル先に大きな扉があった。
「ではお入りください」
金髪のお姉さんが大きな扉を開けた。揺れる、大歓声が耳を体を揺らす。私の中にいる彼はとても騒いでいるが、声は聞こえない。
「いっせーの」
私が歌う。ココアとアスナが次に歌い、双子がポンポンをもってまわる。飛び跳ねると、大歓声が沸き上がった。完璧かどうかわからない。音程やリズムが少しずれた。踊って歌い終えると、「きゅああああ」みんなが叫んだ。
「ありがとう」
私たちは手を振った。なんかわからないけれど、最高。歌い終えて、私たちはサインをねだられる。一人、また一人とサイン色紙を渡す。うち、一人がとても印象に残っている。
「近いうちに、あなたたちと出会うかも。キラナデシコ」
全身、紫色に染まった化け物だった。あの子はいったい?
「ライブ、終わったね」
サイン会を終え、控室にいる私たち。
「ナデシコたちと歌えてよかった」
アスナは私の手を握る。
「あの、ドーターズ様」
金髪のお姉さんが勢いよくドアを開けた。汗をかいて頬が光っている。
「どうしたのですか」
「クスミが現れたのです、あなたたちの力でキラメキの力を満たしてあげてください」
「クスミ?」
私は聞いたことがない。どんな奴らなの。私たちはそのクスミとやらを追い出せるの? お姉さんが案内する。ピンクで花柄のドレスを着た女の子が、苦しんでいる。
「これは」
「クスミってやつよ」
女の子の後ろから、一人の少女が現れた。
■ ヤナミとクスミ
カナセと同じ背丈にマナテと同じ胸の大きさ、髪の毛の形はココアにそっくり、色はアスナと同じ。サングラスをかけている。太ももがちらりと見える、真っ赤なチャイナドレス。パンツは履いていないと思う。赤いハイヒールがまぶしく、彼女はくすっと微笑む。
「さあ、クスミよ、あいつらに怒りをぶつけなさい。キラメキなんて消えてしまえ」
「あなたは誰」
「私、ヤナミっていうの。ま、あんたたちの敵ってところかしら」
彼女は頭を下げた。瞳が見えないので、どんな感情で私たちを見下しているか、わからない。
「いいわよね。たいした特訓もせずに、ライブを成功させちゃうんだから。だから痛い目に会いな」
クスミと呼ばれる怪物はみるみる頭の悪そうな鳥人間に変わった。くちばしがメガホンになっている。
「おーい、ブスども、へったくそな歌だな」
クスミが大笑いする。腹の底が燃える。
「ねえねえ、アイドルを目指すつもりなの? のうのう、お前らプロをなめすぎていない? かあかあ、もう一回小学校からやり直せ、ブスブス、おおんおおん。あ、それは狂言のぶすだった、ぎゃはは」
鳥人間は飛んだ。私たちから逃げるように飛び去る。
「早く追いかけたら?」
ヤナミが手を叩くと、クスミが彼女の前に立った。
「お前もなかなかのブスだな、厚化粧してもどうどうとブスには変わりないな」
「なんで私の悪口まで言うんだい。お前はクスミとして仕事をしていればいいんだよ」
「へ、お菓子を食べすぎてぶくぶく太った関取の分際で、よく言うわ」
「黙れ」
ヤナミが顔を真っ赤に染め、蹴っ飛ばした。やっぱり履いていない。
「は、早く追いかけな、じゃないとあんたたちの悪口を言いまくるんだよ」
「追いかけるよ、ナデシコ、ココア。マナカナ、あいつをお願い」
マナテとカナセはヤナミの前に立つ。
「お前、本当に嫌な奴だな」
ちらりと後ろを振り返ると、双子とヤナミはどこにいるかわからなかった。
「いたわ」
ココアが指をさすと、あちこちで真っ黒い煙が現れた。
「せっかくライブでキラメキを広めたのに、このままじゃ現実世界にも影響を与えてしまいますわ」
「こらあああああ」
アスナがツッコミ、クスミに膝けりを入れる。
「いてええ、パンツは白か。黒だったら色っぽかったのに」
「み、見るなあ」
アスナがスカートを手で覆った。かわいい。
「ココア、あいつをどうしたらいいの?」
「キラメキの力を与えるのです。いつものように歌って踊って、あのクスミに別な考えを与えるのです」
「別な考えって?」
「へえ、お前はふんどしなのか」
いつの間にか、クスミは私のパンツ、いや、ふんどしを見ていたようだ。
「いやあ、気持ち悪い」
思わず出た言葉。クスミは大声で叫んだ。
「キラメキドーターズはね、ファンを気持ち悪いブスばっかりだってよ、みんな、もう一回聞いて」
「やめて」
「今、言ったよな、気持ち悪いって。お前、ファンを気持ち悪いって見ているんだろ。だから広めてやった」
■ アンチに癒しを
あのクスミ、なんでそんなことを言うの? 私たちはただ、頑張っているのに、どうして、嫌なことを広めて笑っているの?
「ナデシコ、怒ったらあいつの思う通りよ。私たちの役割は怒ることでない、元気を与えることだから」
ココアが私の手を握る。アスナの手も握った。
「で、でもあいつ」
「気持ちはわかる。わかるわ。私だって、苦しい。でもカエル先生もおっしゃっていた。ファンもアンチも結局は人。あのクスミだって斜めに見ているだけ。さあ、みんな、心を入れ替え、盛り上がりましょ。これは生きたライブよ」
ココアが鳴子に命を吹き込んだ。カシャンと響きの良い音が世界中に伝わる。扇子を持つ手に力が入る。
「アスナ、ココア、新曲を歌おう。私たち三人で力を合わせ、くすんだ闇を追っ払うよ」
「わかった。みんな、ついてきてね、トッキメッキ ココロにファー」
「ファー、隣の席で ちらりと見る 可愛い女の子」
私たちは歌いだす。声があっている。ライブじゃ少しずれたのに。
「ほら、手をつなごう、アイスクリームを一緒に食べよう♪」
アスナは私から見て右、ココアは私から見て左、私はその場に立ち止まり、三角形を作った。新曲を歌い終え、私たちはそれぞれ扇子、マイク、鳴子をクスミに向けた。
「「「キラ・ホーピングスター」」」
無数のきらめく星が奴に降り注ぐ。
「いい歌だな、感動すらしたよ。だが、全く響かない」
クスミが天に上った。黒い煙も消えた。
「あ、浄化したのですか」
マナテがカナセの手を握り、飛んできた。
「あいつは」
「逃げました。言葉だけは達者なくせに、弱いのです。今度会ったら、たっぷりいじってあげますわ」
マナテが不気味にほほ笑んだ。カナセは顔を真っ赤に染め、目がうつろになっている。
■ 合宿が終わって
「合宿を終えて、どうだった」
恵麻さんの家にて、彼女が私に尋ねる。
「うーん、きついというか、何がなんだかわからなかった」
「そうだね、色々ありすぎて、頭の整理が追いつかないもんね」
アスナたちは桃色のジュースを飲んでいた。緑色の空がまぶしく輝く。
「それでいいのさ。どうして合宿をしているのだろう。そもそも何をやっているのだろう。思っただろ、大和」
私は無理やり変身を解かれた。俺に戻り、一気に疑問と気持ち悪さが押し寄せ、頭が痛くなる。
「はい、どうしてアイドル活動をしているのか。そもそも何が何だか、よくわかりませんでした」
「まあ、この世界に来た時点で、お前はそういう運命を能わっている。覚悟しておきな」
パチンと、恵麻さんが指を鳴らした。ああ、目の前が真っ暗になる――。