歌のトレーニングって○○で歌うと鍛えられるんだって。知らなかった
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■ 双子の優しい気づかい
「おはようございます」
俺が目を覚ますと、隣にマナテがいた。浴衣をきて、谷間が見える。
「マ~ママ、マナテ」
「逃げなくていいのですよ、大和さん」
マナテが俺の腕を握り、自分の体にたぐりよせる。腕が彼女の谷間に挟まる。
「昨日は私とカナセが喧嘩をして、のぼせたようですね」
「う、うん、た、頼むからう、腕を放してくれないか。ぼ、僕はその」
俺は布団にもぐっている。彼が立ち上がった。彼女がちらっと見た。
「あら、大和さんもカナセのように立つのですね」
「マ、マナテ、見ないでよ」
「見るなと言われましても、見てしまいますの」
寝相がとても悪いアスナはココアを蹴っ飛ばし、俺に抱き着くように転がる。口づけまであと10センチ。彼はさらに立ち上がった。
「まあ、大和さん」
マナテが起き上がった。浴衣がだらけており、鎖骨、胸の谷間、白いショーツを履き、肌はうっすら紅色。彼女は彼を覆うように、俺の前に座った。ぐう、痛いけれど気持ちいい。
「や、やめよう、マナテ」
「カナセも同じことを言ってましたわ。その後、出すのですよ」
マナテが少しだけ動き、胸を俺の体に当て、耳元で囁いた。
「彼は元気ですね。暴れたいのですね。いいですよ。ほら、1.2.3.はい、でた~」
あ、愛良ちゃん、ご、ごめん。
「起きろ、起きろったら」
目を開けると、カナセが俺の彼を優しく踏みつけていた。彼女は裸だった。朝日のような丸い光がぐんぐん立ち上る。
「い、痛いって」
「やっと起きたか。お前がぶっ倒れて、僕とマナテで魔法をかけていたんだぞ。僕たちに感謝しろよ」
俺の隣にマナテが浴衣を着て眠っている。と、目を覚ました。帯がほどけて、なめらかなへそが見える。
「大和さん、おはようございます」
「う、うん、おはよう、ふ、二人とも、ふ、服を着てほしいな」
「後で着るよ。言っておくが、全裸で魔法をかけたわけじゃない。僕は全裸で寝ているだけだからな、か、勘違いするなよ。ぼ、僕はお前のことなんか、これっぽっちしか好きじゃないんだからな」
「私はこ~~れくらい好きですよ」
マナテが俺の腕を体全身で握る。腕が谷間に挟まる。夢で見たような光景だ。
「あ、マナテ、やめろ、こんな奴に抱き着くな」
■ 音楽植物と歌う訓練
数分後、俺たちは朝食をとった。おにぎり3つ(中身は梅干し)に漬物とみそ汁、お肉にキャベツの千切り、納豆と大根おろしの混ぜ物。
「さすがに食べられないかも」
「合宿中は食事もトレーニングだと思って、きちんととってください」
野球やサッカー、バスケといった部活漫画では、食事も体を鍛えるためのトレーニングだとあった。俺たちは一応、アイドルとしてこの世界を過ごしている。いつ俺はアイドルになった、させられた?わけがわからなくなった。由良と愛良はおにぎりを4個、カナセは5個、マナテは3個も食べている。。
「よく食べれるな」
2個目のおにぎりに手を出した。
「おっぱいが大きくなるって言われたら、食べるに決まっているだろ。ああ、苦しい」
「カナセに必要なのはご飯でなく」
言おうと思ったが、彼女がぎろっと俺をにらむから、言葉をひっこめた。
飯を食べた後、俺たちは掃除を始める。
「大和君、掃除も合宿の一部だから、変身しなよ」
「由良は今からするの?」
由良はうなずき、愛良もやってきた。俺たちは変身した。
「さて、床拭き負けないよ」
端から端まで歩いて30秒かかる廊下を、私たちはぞうきんを使ってふき取る。懐かしい、小学校にいるとき、床を拭いて掃除をしていたっけ。私が「大和」として自室を片付けるとき、いつも掃除機を使ってごみを吸い取る。こういう時、掃除機のありがたさに気づく。
■ 音楽惑星ミューズでカエルと歌のトレーニング
「さて、少しでも心に響く歌を届けられるように、お前たちには音楽惑星ミューズに向かってもらう。それ」
恵麻さんが扉に魔法をかけた。私たちは向かう。音楽惑星ともあり、木々がすべて記号になっていた。木の葉を揺らすと、ピアノの「ドレドレ」が鳴り響く。アスナが声に出すと、木の葉も乱れ、様々な雑音が流れた。
「それじゃあダメ」
と、大きなカエルがはねながらやってきた。大体身長は130センチ、体重は60キロというところか。
「先生、よろしくお願いします」
ココアが頭を下げると、先生はイゴッとうなずいた。
「キラメキドーターズ、恵麻さんから話は聞いている、今から母音だけで歌おう。歌はこちら」
カエル先生が歌いだした。あおえおお おえおあえ おおああえ……あいうえおがつながっている。子音だと歌いにくくても、母音だとつながりをはっきりつかめる。
――(あなたが一言)
そうだったの。私は知らなかった。よく知っているわね。
「もっと、腹に手を当てて声を出す」
アスナはところどころ音程がずれている。ココアは声が小さい。アスナの歌い方に気を許し、私も音程が狂い始める。
「うまい、下手よりも体全身で気持ちを出す。アスナちゃん、音程だけは整えよう」
腹が痛い。
「ナデシコちゃん、余計なことを考えない。もしかして、なんでアイドルなんかやっているのだろう? 疑問に思っているよね」
「ど、どうしてそれを」
「声に表れているんだよ。声一つで本震も大体わかる。でなければ、私は先生をやっていない」
1時間後、声を出すトレーニングを終えた。一つの歌詞を渡される。
ひらひらと 花びら散って
くやしいよ 私だけ
周りはみんな 喜んでいる
私だけが 落ちてしまった
もう嫌だ どうして私だけ?
そんなとき キミの声を聴いた
キミの声がなければ 私は空へ上った
地に足をつけ 明日を向け 今を作れ
キミが伝えた 明日への未来
「ナデシコ、この歌詞から誰がどんな状態になったのか。そしてどうなったのか。読み取れる?」
「うーん、試験か何かに落ちた人が、落ち込んでもあきらめない気持ちでいるってことでしょうか」
「そうだね。じゃあキミって誰だろう」
私は答えられなかった。あなたは誰だと思う?
「そりゃ私たちでしょ」
アスナが手を上げる。カエル先生はうなずいた。
「この歌はドーターズとして、落ち込んでいる人がより落ち込まないよう、陰から支えてあげる目的を持っている。カラオケで歌う場合、ドーターズでなく、歌い手が誰かに向けて、陰から支える歌として作った。そこでだ」
イゴッと鳴いて、指をさす。
「ただ歌うだけでなく、君たちが誰か一人を思い浮かべ、その子が絶望に陥らないよう、体で理解して歌うのだ。はじめ」
誰か一人を思い浮かべる。誰を思い浮かべるべき?
「ほら、気持ちがこもっていない。それじゃあただ声に出しているだけだ。人の心には届かない。うまく歌おうなんて考えなくていい。一人の人間を救うという気持ちで声に出すのだ。そこの双子」
「「はい」」
「試験に落ち込んで、死のうと思っている状態を演じて」
「え、演じろってぼ、僕らは」
「やれ」
のどが痛くなったら休憩をする。回復するジュースを飲み、歌い、飲み、歌い……
■ なぜアイドルをやっているの?
気づけば時色相が紫に染まっていた。歌のトレーニングを終え、私たちは食事をとる。恵麻さんがすべて作ってくれた。カレーライスだ。のどの痛みは魔法で何とか回復したものの、なかなか喉にご飯が入らない。辛くはない。むしろ甘い。しかし3杯も食べなければならない。
「食べるって大変だ」
「どうしましょう。食べ過ぎたら太るかも」
カナセがつぶやき、マナテは自分のおなかを抑えた。
「大丈夫、みんなはそれだけ動いているから。体力を作っておかないと、歌っている最中に倒れるからね。大和、キラメキの力を与えるとき、時々意識が吹っ飛んだ記憶はない?」
恵麻さんが尋ねると、私は思い出す。踊っている時、気持ちよくて、全身に快楽を感じたような……
「ナデシコに抱き着きたくなる~」
「そう、力を与えている時、余計なことをやったら危ない。少しでも防ぐために力をつける。ご飯を食べるのも力をつけるトレーニングだと思いなさい」
何とかカレーライスを食べ終えた。私は気持ちを静めていると、ココアとアスナが話しかけてきた。
「カエル先生のトレーニングはかなり大変でしたね」
「うん、歌って奥が深いなあと思った」
「二人とも、私、どうしてアイドルをやっているのかしら? 状況が全く呑み込めないまま、アイドルになって、うーん。それ以外、本当は考えたいことが山ほどあるのに、出てこない」
二人が私の顔をじいっと見る。
「そんなの、キラメキの力を多くの人と分かち合うためじゃん」
「ええ、キラメキの力を多くの人に与えられれば、私たちもよりきらめきます。すると、希望も叶う。単純ですよ」
私は「キラメキの力」だけで片づけていいのかな、不安に思った。
「ナデシコは私たちと同じ、宇宙アイドルになる素質があった。アスナは将来、ライブ会場の一つに由良アスナという名前で、コンサートを開きたいのですって。私も応援していますのよ」
「わーい、ココア、大好き」
アスナがココアの唇にキスをする。
「由良アスナとして活躍するためにも、キラメキの力を多くの人に降り注ぐ。そうすれば、キラメキの力を欲する人が現れて、その人が新しい希望を運んでくれますの。ね、アスナ」
「うん」
二人は手をつなぎ、和気あいあいと話をしている。あまり難しいこと、考える必要ないのかな。あなたはどう思う?