一つの未来を取りこぼしても、次の未来がある
語り手は明日谷大和君、変身をする前の一人称は「俺」で、人前だと「僕」に、「キラナデシコ」に化けると「私」に代わります。
ではきらめく世界をお楽しみください。本日もお読みいただき、ありがとうございます。あなたに良きできごとが起こりますよう、心からお祈りします。
「大和君、大和君」
綺麗な月を見ていたら、由良がテレビから空間を割って入るように現れた。いつものように、ニコニコしておらず、涙を流して俺に抱き着く。
「由良」
「ごめんなさい、ごめんなさい。会いたかった」
由良は俺を抱きしめる。ぐるぐる回る。おっぱいが俺の顔を覆う。
「どうしたの、大和君、まだ怒っているの?」
「く、苦しい」
ごめん、正座をする由良。
「大和、どうしたの」
姉がやってくる。
「由良、隠れて」
「なんで」
「なんでって」
やばい、姉がすぐ近くに!
「大和、開けていい?」
「なんでもないよ、大丈夫だよ」
「……ふうん、何かあったらすぐ呼んでね」
俺は由良の口をふさぐ。何か話をしそうだったから。姉が自室に戻った。
「別に言ってもいいんだよ、大和君。あ、ごめん、師匠が呼んでいるんだ」
由良は俺の手を握り、アルムの世界へ飛んだ。アルムにたどり着くと、愛良が抱き着いた。ふんわりとした風が俺と愛良を包む。
「大和様、ごめんなさい。あの時、私が」
「い、いいよ」
愛良の顔を見て、俺は思い出す。週末のライブにて、ぽえぽえ7のチケットが取れるか?
当日券が出て、入れたらいいなあ。広や愛良ちゃんとはおそらく違う場所になるだろうけれど、それでもいい。
「大和さん」
マナテが手を振る。俺も答えた。
「大和、お前のだらしない姿、見ていたぞ。なんだい。ライブチケットが取れないからって、落ち込みやがって。それだから須田愛良も他の男に」
「カナセ、それ以上言って、大和さんを傷つけるのやめなさい」
マナテとカナセがにらみ合う。
「チケット一つ取れなかったからって、いじいじしてんじゃねえよ。次があるだろ、次が」
カナセの言葉が心臓にくる。
「大和君、私のせい」
由良が俺に抱き着いた。
「こら、カナセ、お仕置き」
マナテが姉の体をつねった。特に下半身をぎゅうっと握っている。むくむく膨らむ短パン。なんて幸せな顔をしているんだ、マナテの姉は。いや、そもそも「姉」なのか?
「大和」
恵麻はふふっと微笑んだ。
「カナセの言うことも一理ある。お前は一つがダメならすべてがダメとこだわりすぎだ。確かにチケットに行けず、悔しい思いをしているだろう。現実の愛良と一緒にイベントがいけない、行ったとしても席が離れている。いや、ほかの男に取られるかもしれない。焦る気持ちはわかる」
他の男という言葉に、俺の中にある心臓やかんが音を立てた。
「でも、一つの機会を逃したからといって、一生失うわけではない。今係いだめでも次がある。逃してはならないタイミングはここが知っている」
恵麻さんはおへそをさすった。
「ここらは丹田という。丹田が騒ぎ出したとき、お前は必ず言わねばならん。それを逃したら、しばらく大きなチャンスはなくなる。ま、いい勉強になったじゃないか。これも青春よ。ああ、懐かしい」
恵麻さんは空を見上げた。シアン色から少しずつ青色に向かおうとしていた。
「当日、ぽえぽえ7のチケットをとるのかい?」
恵麻さんが尋ねる。まさか彼女の口から「ぽえぽえ7」の名前が出るとは。心の中で笑いが起きる。
「はい。とれるかどうかわかりませんが」
「とれる。そう思いなさい。とれるかどうかでなく、取れると。取れなかったら、取れなかったとき。取れると考えなさい」
「師匠、強~い」
由良が俺の肩に手を当て、恵麻さんに目を向けた。キラキラ輝き、むふふと微笑む。
「人の幸運・不運を分ける体験根拠を述べたまで。いつどこで何がやってくるかわからない世の中だ。現実はもちろん、夢の世界でもそうだ。未来を考えても笑うのは鬼だけ。ただね、何かが起きてしまったとき、どう考えるかが今後を左右するのさ」
彼女がコンコンと杖で棒状の草を叩く。叩かれた彼はとても細く、折れたと思ったら、跳ね返して凛々しく立ち上がった。
「何かが起きたとき、もうだめだといえば、ダメな視点や考え方しか得られない。何とかなるといえば、何とかなる理由を探していく。チャンスといえばチャンスに気づく。自分にとって嫌なことが起きたとき、嫌だなあといえば嫌なことしか見ない。その気持ちが人生を大きく分けるのさ。大和、お前はぜひこの観方をつけてもらうから」
俺は足が震えている。嫉妬とは違う「清らかなマグマ」が沈んで情けない心を溶かしていく。恵麻さんは微笑んだ。
「覚えておきな、大和。それが大人になるってことだ。この草のように折れても学び、しぶとく生きな」
草は折れるたびに恵麻さんが持つ杖を叩き、立派に立った。俺、草に何を思っていたのだろう。詩人でもないのに。
3話が終わりました。次回は特訓になります。大和君が落ち込むと、アルムの世界にも影響を与える。困ったものですね。でもこれは私たちにも言えること。私やあなたが生きている裏で、誰かが頑張った結果が、あなたにも良い影響を与えようとしている、目に見えない、聞こえない存在の活躍に目を向けると、良いことが起きると考えていますよ。
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