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冒険者タグ

 疲れた。アベルはそう思いながら、いつのまにか用意されていた水を飲み干した。疲れた頭をなんとか絞り、これはタリアさんがそっと用意してくれたものだと思い出すことに成功した。それでなんとなく、タリアさんはミルリーの師匠っぽくないなぁと、アベルはふと思った。

「コーンウェル村のアベルさん、ミルリー・アルデーグさん、窓口にお越しください。」

 そうこうしているうちに、窓口からお呼びがかかった。アベルは助かったとばかりにさっと立ち上がり、そそくさと窓口に向かったところで、ミルリーに名字があることに気がついた。名字があるのは貴族か、何かしらの栄誉を授かった一部の人たちだけである。ミルリーは実はいいところのお嬢様なのかも、とアベルは窓口に向かいながらも、ちらりとミルリーの様子を伺った。

「あら、もうできたのね。」

 アベルに続くように、ミルリーも席を立った。あれだけ話していたのに疲れを微塵も見せない様子に、どれだけ話好きなのかと、アベルは呆れを通り越して少し感心してしまった。そして、タリアさんの方をなんとなく見ると、にこにこしながら小さく手を振っているのが見えた。やっぱり師匠っぽくないよなぁ、とアベルは思った。

 窓口に近づくと、脇に見覚えのある兎人とじん族の女性が立っていた。試験を担当してくれた人だった。担当者はこちらを見つけると、

「こちらにきてください。」

と声をかけてきた。

 担当者の前にアベルたちが近づくと、担当者は小さめの金属の板を差し出した。

「これがあなた方の冒険者タグです。無くさないようにしてくださいね。」

 アベルは冒険者タグを受け取ると、まじまじと見た。中央に名前が、下の方に何やら記号と番号が小さく彫ってある、とてもシンプルなものだった。革紐がついていたので、アベルは早速首にかけた。これで今日から冒険者になったのだ、そう考えるとなんだか興奮してきて走り回りたくなってきたが、よく考えると恥ずかしい気もして、アベルは何とか我慢した。

「うふふふふ...」

 ふと気がつくと、アベルの隣でミルリーがニヤニヤしていた。タグを揺らしたり、頬ずりしたり、じっと眺めては薄笑いをしたりと、側から見るとちょっとアレな感じなのを見て、アベルは自重してよかったとつくづく思った。

 担当者は、そんな二人をにこにこと眺めながら、落ち着くのを待ってくれていた。

 ミルリーがようやく一息ついて落ち着いたのを見極めると、担当者が声をかけてきた。

「話を続けてよろしいでしょうか?」

 ミルリーはハッと我に帰り、アベルが自分のことを見ていたのに気がつくと、真っ赤になって固まってしまった。アベルはミルリーをちょっとかわいいかも、と思いながら、

「よろしくお願いします。」

と返事をした。

「では...」

 担当者は、脇に抱えていたボードから、紙を三枚取り出した。

「これらは確保しておいた初心者向けの依頼書です。まずは、この中から依頼を受けるのをお勧めします。腕に覚えがあるなら下水のジャイアントラットの駆除が、足に自信があるならギルドの書類運搬が、どちらでもないなら遺跡付近に生えている薬草の収集がいいと思います。」

 アベルは三枚の紙を見比べたあと、ミルリーを見た。自分なら迷わず薬草の収集からかなと思ったが、ミルリーとタリアさんならどれを受けても大丈夫そうだし、むしろ戦闘とか好きそうなミルリーならジャイアントラットの駆除を選びそうだなと思った。

「この紙、借りて仲間と検討してきていいかしら?」

 アベルの予想を裏切って、ミルリーは即決しなかった。

「ええ、構いません。決まり次第、受付に来てくださいね。」

 担当者はにこりと笑ってそう答え、受付内に戻っていった。

「意外...」

 アベルは思わず声に出してしまっていた。

「何よ。」

 しっかり聞かれてしまったらしく、アベルはミルリーに睨まれてしまった。

「...ミルリーなら、ジャイアントラットの駆除を受けそうだな、と思って。」

「ふーん。まあ、戦闘で派手なデビューというのも悪くないけど、場所が下水だしね。それに、まだ私たちは駆け出しだし、何よりリーダーのタリアに相談してからに決まっているでしょ?」

「...そういえばそうだね。」

 ミルリーはちゃんと考えていたんだなと感心する一方、自分はそういうことを全然考えてなかったことに気づき、アベルはちょっと恥ずかしかった。

「さて、さっさと決めてしまいましょ。」

 ミルリーはさっと身を翻し、さっさとタリアさんの方へ戻っていった。アベルはそんな彼女に遅れないように、慌ててついていった。


 



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