手放せない その手
この「女の子は・・・」は最初は入れないつもりだったのですが
いままでも交互交互にお互いの心情を書いてきたので
せっかくだしと思い入れてみました
肉食系と呼ぶにはまだ幼い感じですが もう少し進むと彼女もスパーク
するかもしれません
私はとても静かな少し薄暗い室内で ときたま通る郵便配達のバイクの音と
田口くん心臓の鼓動に耳を澄ませ 彼の背中に回した手と頬に感じる温もりに
心地よく微睡みながら 遠くから聞こえてくる雷の鳴る音で
近づいてくる雨の気配を感じます
私は昨日 大水槽の前でソファーに二人で座って
彼とお話した古い和歌集の歌を思い出しながら その歌を詠んだ女の人も
きっと今の私のような気持ちだったのだと思うのです
こんな素敵な暖かさに包まれているのに それが離れていくのを
私にはどうしても我慢する事が出来ません
それを何とか引き止めてしまいたくなる気持ちは
今も昔も そして多分この先も ずっと同じだと思うのです
そんな思いに身を浸しつつ 少しだけ姿勢をかえようと身じろぐと
自分の左足の先に 何か硬いものが触れたのを感じて 視線を向けると
彼がお見舞いの品として持ってきてくれた 梨が触れている事に気がつきました
そのすぐ隣にはアイスの包袋も 床に落ちているのがわかり
このままでは彼からの せっかくのお見舞いの品が溶けてしまいます
その事を彼に告げようと思い声を掛けると 彼は身体を私から離そうとするので
その背中に回している手を 少し強めて離れるのをとどめながら
「そうなんだけど そうじゃなくて・・アイスが・・」と
言ってる私でも 何だか良く分からない事を伝えてしまいました
彼に離れて欲しくはないけれど アイスが溶けてしまうので・・と
それで こんな変な言い回しになってしまったのです
そんな私の言葉でも 彼はすぐに察してくれて 言葉を返してくれると
その言葉と離れていく自分に回されていた手の温もりを 名残惜しみつつ
私は愚図りそうな気持ちを抑えて 自分の手もモノ惜しげに引っ込めるのでした
そして彼が手早く集めてくれた品を お礼を伝えて冷蔵庫にしまいながら
しまい終わったら 今日は学校をお休みしたため 会えなかったその分の
水族館でしたように色々なお話をしたいと お願いしようと思い
上手なおねだり言葉を あれこれ考えて探していたのです
そんな私に 彼は帰る事を告げるとドアのノブに手をかけるので
思わず手を伸ばし彼の手を握って引き止めてると
その自分の行動に 私は気恥ずかしさを覚え俯いてしまいました
いくら何でもあんまりです お話らしいお話もしていませんし
それに・・と考えて頬が染まるのを感じます
でもそれを自分の言葉で伝えるのは かなり気恥ずかしく
おませな子だと思われたら 事実ではありますが・・少し嫌なのです
なので・・きっと今の私の気持ちと同じ気持ちでいたと思う
あの歌を詠んだ彼女の言葉をお借りしようと思いますが
田口くんが昨日 私が話していた事を覚えていてくれているか
少しだけ不安だったので 彼に小声で尋ねてみました
その言葉に 私の話をきちんと忘れずに覚えてくれていた彼は
「鳴る神の 少し響みて・・」と 答えてくれたので
私は嬉しくて弾みそうな声音を抑えながら 言葉の続きを伝えると
伝えていなかった返し歌まで 彼は気恥ずかしそうに詠んでくれるのです
自分の話をちゃんと覚えていてくれた事と
更にそれに答える歌を優しく詠んでくれた その彼の温かい手を
私には手放すことが どうしても出来ないのでした
でわ次回で