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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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女の子は緊張中

耳に届いた来客を知らせるチャイムの音で 私の心はとても浮き立ちます

自分の会いに来て欲しい人が 会いに来て欲しい時に来てくれる

これより嬉しいことが他にあるのでしょうか


少し・・はしたないのですが湯着姿のまま 玄関口まで向かいます


これでもし来客が宅急便の人だったり 全然違う人だったとしたら

私は床にゴロゴロと転がりながら 泣いてしまうかも知れません


呼吸を整え恐る恐る玄関扉の覗き窓から

少しドキドキしながら外を伺うと 嬉しい予想が当たってくれて 

私は思わず口元がにんまりとしてしまいます


そしてきちんと彼に「会う用意」をしていた自分を 褒めてあげたくなります


「そ・・その 体調崩したって聞いたんで お見舞いに・・」と

伝えてくれた彼の言葉に嬉しく思い つい扉を開けそうになりますが

自分の湯着姿を思い出し 慌てて彼に待っててと告げると急いで部屋に戻ります


身体を清めるのに使っていた風呂桶とタオルをかたし

ちゃんと用意していた小袖に袖を通し 上掛けの長羽織をきちんと身につけると

鏡の前に立って 自分の姿を見てみます


自分で云うのもあれですが なかなか良い感じに思えます

これならば・・と思い 髪を止めようと髪留めに手を伸ばして

少し考えてから前髪は横に流しておくだけにします 


オデコを出すと少し子供っぽく見えるような気がするのです


きちんと準備が整い 田口くんを待たせてしまった事に気が焦り

なるべく早足で玄関扉に向かう途中 私はもうひと工夫ほしくなり 

少し考えて 母が仕事に行くときに付けている 香水の事を思い出しました


ジュイールのオードトワレと 母がいっていたそれは

とても良い香りだった事を思い出し 母の部屋の化粧台にあったそれを 

ひと吹きだけ自分に吹きかけます


香りを確かめてから母の部屋の鏡で もう一度だけ自分の姿を見直し

おかしな所がないか くるっと回って見て大丈夫そうなので

田口くんを待たせている玄関扉を向かったのです


玄関の扉を開いて 少し緊張した表情の田口くんに

お待たせした事を謝り 来てくれた事に 心からのお礼を伝えたのですが

彼は少しだけボーッとした表情で 私を見ているだけなのです


自分の姿がなんか変だったのかな・・と思い 少し不安な気持ちで

小袖の袖を取ると軽く広げて なるべく可愛らしく見える仕草で

「へ・・変かな・・」と小声で 口をすぼめて尋ねてみました


「へ・・変じゃないよ!」と

動揺したような彼の声音と 温かい返事に嬉しく感じていると

「すごく綺麗で・・艶っぽいと思う・・」と

更に嬉しくなることを伝えてくれます。アヒル口効果は抜群のようです


そして私は嬉しさのあまり思わず 彼に見えないように

右手を背中に隠して 小さくガッツポーズを取ってしまったくらいです


お礼を伝えながらも 気恥ずかしさに俯いていると

「これアイスと梨を持ってきたんだけど 良かったら・・」と

彼がお見舞いの品を入れた袋を差し出してくれたので

慌てて両の手で受け取ろうとした私は 身体を支えていた靴箱から離れてしまい

うっかりバランスを崩して倒れそうになってしまいました


慌てて前に飛び出して 私を胸元に抱きしめてくれた彼と

彼に縋り付くように その背中に手を回した私は 自分たちから見ても

傍から見ても抱きしめ合ってるとしか 思えない状態になったのです


これまでも彼の胸元に 頭を少しだけ当てたり手を添えたりはしましたが

今回のように抱きしめ合うのは初めてで 心臓の鼓動が早くなるのを感じます


そして彼が抑えていた事で開いていた 玄関扉はゆっくりと締まり

少し薄暗くなった室内と 私の頭上から聞こえる彼の息遣いに

私は緊張し彼の背中に回した手を ほどく事も出来ません


まあ出来てもほどく気はないのですが・・・・


しかし少しすると彼の私の背中に回っている手が 離れそうになるのを感じ

逃がさないように 私は少しだけ彼の背中に回した手の力を強めると 

頭を横に動かし彼の胸元に頬を添えて また回す手に力を入れるのです


昨日の帰り道もそうだったのですが それ以外でも

彼はすぐに私から触れた身体を離そうとするので

何時も もうちょっと・・と思っていたのです・・


なので今日は逃がさないように

彼に回した自分の手を ほどかないように力を強めてギュとすると

耳に伝わる彼の鼓動に耳を澄ましながら

緊張しているのに不思議と心地よい微睡みの中で


私は目を瞑るのでした




作中で志保子が着ている湯着は 湯浴み着と呼ばれる

薄手の少し透けている白い着物を思い浮かべていただければ

良いかと思います 

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