ゲロだらけの綺麗なお姉さんの下着の色は?
仕方なく201号室の方でも同じように チャイムを鳴らし声を掛けてみるが
こちらも居留守か留守なのか何の反応もない
階段で下に降り 一階にある三部屋でも同じ事を繰り返すが
上の二部屋同様 何の反応も無いので少し迷ったが
アパート周囲の一軒家や他のアパートを当たって見る事にする。
念の為アニメで良く見る「どういう事だ おい・・こんなの聞いてねえぞ!」と
セリフを呟いて周囲をぐるっと見渡す
アニメなら私の声を聞きつけて 黒幕の手下みたいなのが現れて
「魔王様の復活だぞ 恐れ慄け人間ども!」とか笑いつつ
序盤に行った方が良い場所をポロっと教えてくれたり
近くでドカーンと大爆発が起こるなど何らかのリアクションがあるが
現実なので何も起こらない
仕方なく一度階段を上がり部屋へと戻ると 何かあった時に
すぐにでも部屋に逃げ込めるように サンダルからシューズに履き替える
そしてメモ帳とペンやセロテープを戸棚から取り出し
「川田ハイツ202号室の田口です。防災放送を気づくのが遅かった為
現在 何が起こっているのか さっぱり分からなくて困っています。
お手数とは思いますが 帰宅時に訪ねて頂けると助かります」と書く
少し考えて電話番号も記入しておく事にする
「もし私が不在だった場合は メモを残して頂けると有り難く思います
現状では電話の方は使用出来るようなのと 留守番電話機能もありますので
時間など気にせずに 何時でも御連絡頂ければと思います
番号は0294ー52ーXXXXです。何卒宜しくお願い致します」
ここまでやれば私以外は良心の虜となり 行動せざる得ないだろうと考える
同じ内容の物を部屋数分書くと外に出て各部屋の玄関扉にテープで止めていく
そうしてアパートと同じ並びの 一軒家や他アパートの一軒一軒に
チャイムを押し声を掛けて行くが 何処も同じで何の反応も無い
それぞれの玄関扉に アパートの他の部屋に貼ったのと同じメモを貼っていく
住所の方も一応は記載しておく。良心へのダメ押しである
坂の下に降りて来たので そろそろ自宅のアパートが見え無くなってきた
余り自宅から離れるのも良く無いように思えたので
今度は道路の反対側の家々に当たりながら アパートの方に戻ろうと考える
反対側の家々も順に当たっていくが 何処もかしこも無反応である
人の気配というものが まったく感じられずセミの鳴く声しか聞こえない
私にセミと会話する能力があるか 私がセミならば事情を尋ねる事も出来るが
会話能力ならまだしも セミだと寿命もやばいと気が付き考えを改める
そして歩いてきた道には 少しだが車両の壊れた部品と泥だらけの衣服
他にも片方だけの靴などが落ちており不安が増していく
普段は清掃が行き届いた綺麗な町なのだ
ただ都内に住んで居た頃 当時仲が良かった友人宅に泊まった朝の人気のない
帰り道で ゴミ捨て場に寝ていたゲロだらけの綺麗なお姉さんを見て驚愕しつつ
勿体ないからとパンツを覗き込んでいた不動の精神の私にとっては
その程度もので動じる事など無いのである
結局アパートの前まで戻って来たので 向かう先を変えて
今度は幼稚園のある反対の通りの方を確認をする事にする
そちらには確か 何処かの会社の寮である建物があったので
個人の家々を周るより 人が居る可能性が高そうである。
幼稚園は門が閉まっており門の外側から園内を覗き込んで見た感じ
見える限りの室内には 可愛い幼女など人の気配も無いので横の一軒家に向かう
下手に施設内に侵入しようものなら このご時世 別の意味で私が危険である
幼稚園側からだと 庭に植えてある樹木のせいで気が付かなかったが
玄関の扉が開いているのが見えた「やっと人居る所を見つけた」と
足早に近づくと玄関は開いてはいるのだが
それはドア自体が外れて庭に転がっているからだった
かなり強い力でも掛かったのか 真ん中あたりから「く」の字に
ひしゃげた鉄製の扉を横に避けながら 少し狼狽えつつも
チャイムを鳴らし玄関先から 薄暗い室内に声を掛けてみる
しかしここも無反応である。
床に濡れた足跡がいくつもあったので 中に入って確認しようかとも思ったが
ゲームの勇者様御一行ではないのである
勝手に室内に入りタンスを漁ったり 壺を割ったり出来るものではない
この状態でも留守という事は
「もしかしたらここら辺の人はどっかに避難してるのかも知れないな」と
考えつつメモを残し 足早に会社の寮へと向かうのだった