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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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和装美人

夏休みまで後十日に迫った七月のある日の事 


少しずつ日も傾きかけて涼しくなってきた放課後 

僕は体調を崩し学校を休んだ志保子さんをお見舞いする為

自宅から持ってきたアイスと梨が入った袋を手土産に

彼女の住むアパートの前に立っている


深呼吸を一つして呼吸を整えると彼女の家のチャイムを鳴らす 


しかし反応が無いので もしかして病院に行っているのか 

それとも寝てるのかもと思い もう一度チャイムを押そうか迷っていると 

扉の向こう側から人が近づいてくる気配を感じ

留守でなくて良かったと思い少し安堵する


そして扉の向こうから「た・・田口くん ど・・どうしたの?」と

少し弾んだような声音の志保子さんの明るい声が聞こえてくる


僕は彼女が体調が戻ったのかなと考え ほっとすると同時に

濡れタオルで彼女の肢体を拭く事が出来ない事に深い悲しみを感じながら

「そ・・その 体調崩したって聞いたんで お見舞いに・・」と

少し緊張気味な声で答える


すると扉の向こうから 彼女が慌てた声

「ちょ・・ちょっと待ってて いま身体拭いてて・・その・」と

ちょっと待てなくなる事を僕に告げてきたのである


その言葉に僕は瞬時に周囲を確認する


その鷹の目の様なと表現しても可笑しくは無い鋭い眼光で 

どこからか覗ける所が無いか探しまくるが 志村家の防犯意識は高いらしく 

どこからも覗けない事に気付くと 四つん這いになって

「こんなのってないよ!」と叫びたくなる気持ちをグッと堪える


すると扉越しに「ごめんなさい ちょっと待っててね」と

やや慌てた口調で彼女は 僕に断りを入れると足音がして

彼女の気配が扉から遠ざかっていくのが分かる


僕は僕と彼女を遮るこのにっくき扉を破壊する方法を その類まれない頭脳で

瞬時に十の方法は考えついたのだが ここで僕が扉を破壊すれば

志保子さんとの関係も 多分、志保子さんのお母さんに破壊されると思い直し 

涙を飲んでまたグッと堪えるのだった


奥の部屋に行ったとしたら ベランダ側に回り込めば・・と

不屈の精神 もとい諦めの悪い僕はそんな事を思っていると

頭のどこかから「大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない」と

まあまあ落ち着いてな感じのポーズをして 汗だくなキャプテンぽい人の声が

聞こえたような気がしたので 深呼吸をして気持ちを落ち着かせる事にする


そんな邪な考えから解放された僕は志保子さんは

今やっぱり寝巻き姿なのだろうかと 違う方向に邪な考えを発展させていると 

扉に人が近づいてくる気配がして少し表情を改める


お見舞いに来た僕が悪い笑顔でニヤニヤとしていたら可笑しいからだ


「お・・お待たせしました・・」と

扉を開けて顔を出した彼女の姿を見て 僕は思わず息を呑みこむ

正直パジャマ姿や 僕がそうであるようにTシャツに半ズボンくらいの姿を

予想していたのだが その予想は嬉しい方向に覆されたのである


彼女の肌白く小柄で華奢なその肢体を包むそれは

薄橙色の品の良い古典柄が入った 旅館浴衣もしくは温泉浴衣と呼ばれるもので

更にそれの上に薄手の濃緑色の こちらは柄無しの羽織を掛けており

髪もいつもは髪留めて止めて 前髪を横によけてオデコを出しているが

今日は前髪をそのまま右側に流すような感じで 佇んでいる彼女は 

まさに「和装美人」と呼んでも可笑しくない美しさなのである


その儚げで可憐な姿に何も言えずにいる僕に

彼女はその薄紅色の唇を開いて語り掛けてくるのだった



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