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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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お見舞いの品で悩む

先週の「もういい加減にしてよ!」と 

叫びたくなるような真夏日週間とは打って変わって 

気温も控えめな過ごし易い月曜日の放課後の事


僕は飯島先生から授かった最高難易度のクエストである

「志保子さんのお宅にお見舞いゆく!」を大成功に導く為に 

その小学生離れした頭脳をスパークさせ脳内で緻密な計画を立てながら

志保子さんのお家へと向かっている最中だった


昨日行った水族館デートで見る事が出来た

志保子さんのその可愛らしい姿や仕草に更に募った愛情と

それを邪魔しくさった沙智や友美達の

邪悪な言動と悪辣な手口に対する憎しみを募らせつつ 

如何に僕がお見舞いに行く事で志保子さんが元気になって貰えるかを

考えてみるのだが上手く思い浮かばないのである


無駄に元気と言うのは可笑しな話だが物心付いた頃から僕は

病気らしい病気をした記憶が全く無くインフルエンザが大流行していても

僕は毎回元気一杯で たまに学校をズル休みしたくても 

病気の経験がまったく無いので仮病の演技も上手く出来ずに

母親に早く学校に行けと送り出されるのが常であった


なのでお見舞いされた経験もなく 幼稚園の頃から仲良しだった宮田くんが

風邪で学校を休んだのでお見舞いに行った時には 具合が悪く横になっていた

彼を暇だからと叩き起して ヘニョヘニョになっているその肩を掴むと

「寝てれば治ると言うけど 寝てなくても治るかチャレンジしてみよう!」と

現代医学への冒涜とも言える提案をしたくらいである


そして何故かそれに乗ってきた勇敢すぎる宮田くんと 

二人してマリオカートを三時間くらい ぶっ通しでやっていたら 

ちゃんと寝てれば次の日には治っていたであろう風邪をこじらせさせて 

一週間コースに変更させてしまった実績を持つのである


若さゆえの過ち というやつである


このまま志保子さんの家に行ったら彼女も同じ目に・・

僕はそう考えて思い悩みつつも心の何処かから悪魔の囁きが聞こえる


「それも悪くない・・・」


何故ならただでさえ儚げな彼女が病気で寝込んでいる姿は 

さぞかし可憐で それはもう美しい姿であるだろうし

風邪を引いた時などは お風呂に入ると悪化させるから

濡れタオルなどで身体を清めると聞いた覚えがあるからだ


昨日少し家庭の話を聞いたが彼女の母親は仕事で昼間は居ないと聞いている


僕が毎日のようにお見舞いに行くとして 志保子さんから

「田口くん ちょっと身体拭いてもらっていいかな・・」

などと頼まれる事だって必ずあるはずだ むしろ無いとおかしいレベル!


そんな素晴らしい夢のようなシチュエーションは 

きっとねずみの国でも用意出来ないはずである


邪な思いで胸を膨らませつつ 彼女の家に向かう途中にある我が家に到着する


とりあえずランドセルを下ろし 汗で汚れた服を着替えると

何か手土産になる物はないかと家探しを始める事にした


僕の両親は共働きで帰宅が遅いので

二人に良い感じのお見舞い品を尋ねる事も出来ず 少し悩んだが 

確か風邪を引くと 喉が痛くなり口の中が乾くとは聞いていたので

水気がある果物やアイスが良さそうだと思いつき それを探し出す事にする


冷凍庫からスイカバーを一本取り出し 少し悩んでもう一本取り出す

彼女が食べているのを見て 自分が食べたくなったら困る

誰かが食べてるものは 自分も食べたくなる法則を思い出したからでもある


続けて冷蔵庫を開けると 梨が四個あったので全部持って行く事にする

僕の母親は梨が大好きで毎日のように食べているのだが

今日は梨だけに無しにしてもらう事にした


何故なら僕の母親は「お母さん銀行」なる謎の組織を設立すると

お正月のお年玉や たまに親戚が遊びに来た時に おこずかいを貰って

歓喜にうち震える僕から その半分以上は徴収し

僕が「お金を使う喜び」を味わうのを我慢させるからである


なのでここは一つ母親にも「梨を食べる喜び」を我慢してもらう事にする


手土産も出来たので サンダルに履き替えて家の戸締りをすると

志保子さんの家に向かう事にする


その道中 そういえば宮田くんのお見舞いの時には

僕は何を持っていったのかなと考える


そして確かバームクーヘンを持っていったら 

味が全然しなくてパサパサして口がすごい乾くって嘆いていたなと思い出す


もしやあれも彼の病状を悪化させたのかと思うと

僕の幼い胸は ほんの少し痛むのであった


そんな事を考えながら歩いていると 志保子さんの家に到着し

僕は深呼吸を一つすると 彼女の家のチャイムにこの手を伸ばすのだった




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