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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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自然と溢れる言葉

「沙智や友美達なら良い奴らだから 仲良くなれると思うけど」


そう田口くんから耳打ちされて私は 少しでも彼が掛けてくれた期待に

答えようと 沙智さんや友美さん達の質問に私達から距離をあけて

後ろからついてくる 彼の事を気にしつつ何とか頑張って答えます


学校の休憩時間のように限られた時間ではない 今日のゆっくりとした会話は

私にも何とか間に合う速度で 話しが出来るので思いのほか弾み嬉しくなります


普段は聞かれた事に返事を返すのがやっとな私が

自分から相手に質問をする事が出来たのですから

小さいですが大きな一歩とも言えるような気がするのです


ただ多人数での会話に慣れていない私には まだまだ難易度が高く

他のみんなと出口でお別れした時は少々疲れていたのは

仕方のない事なのかも知れません


それでもクラスの皆との会話の切っ掛けを作ってくれた彼には

心からの感謝の気持ちが湧いてくるのです


夏の夕暮れ迫る帰り道 途中で終わってしまった二人きりの時間を

少しでも取り戻したい私は 彼に歩いて帰ろうと提案しました


頷いてくれた彼の暖かい手を握りながら 沈んでいく太陽を眺めつつ

上手く会話が出来た事を 彼に少し褒めて欲しかった気持ちもあり

四人と楽しく話した内容を一つ一つと語っていきます


ただ私が話すにつれて 落ちていく彼の表情に

少しだけ気まずくなった私は「なんか少し疲れたね・・」と

彼との会話の切っ掛けを掴もうとしたのですが

彼の「僕も とても疲れたよ・・」の

声に少しだけ不安な気持ちになってしまいます


なので努めて明るく聞こえる声で上手く出来た事を伝えるために

「でも沙智さんや友美さん達と一杯話せて楽しかったよ」と

伝えたのですが 彼はさらに落ちた表情で

「僕は志保子さんと全然話せなくって 悲しかったよ・・」と

悲しげな口調で伝えてくるのです


その言葉自体は嬉しいのですが 彼の沈んだ声音と表情に

更に不安を覚えた私は 彼の足を止めるため向かいに立つと

その胸元に左手をそっと置いて不安が顔に出ているので

それを隠すように俯きながら

「これから毎日二人で一杯お話出来るよね?」と

不安に感じてた思いを小さな声で尋ねます 


そうしてもしかしたら教室で彼が他のクラスメイト達と話して居る時に

私が感じている気持ちで居てくれてるのかも思い 付け足すように

「もしかして他の子と話してばかりだったから 拗ねてくれてるの?」と

さらに小声で聞いてみるのです


彼の「もちろん一杯お話するよ」の声に嬉しくなり続く

「少し・・その焼き餅を・・」の言葉に不思議に思い顔をあげ

「でも みんな女の子だったよ?」と尋ねてみました


すると彼は 私の頭を軽く自分の胸に押し当てるように手を添えて

「男ならそもそも話してるだけで嫌だし 女の子でもその・・嫌かも」と

口篭りつつも伝えてくれ「志保子さんを 僕は独り占めしたい・・」と

少し掠れた声で囁いてくれるのです


人の輪に上手く入る事が出来ずに 孤独を抱えていた私に

優しく好意を伝えてくれたばかりでなく 

自分だけの私になって欲しいと求めてくれる彼に 

私の口からは自然と言葉が溢れてくるのです


そうして私達を赤く照らす夏の夕暮れの沈んでいく太陽を 

彼の温かな胸に抱かれながら 私は静かに見つめるのでした




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