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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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見つけられない言葉

「僕が上手く間に入れば それなりに打ち解けられるとも思う」


そんな風に考えていた時が僕にもありました 


間に入るどころか会話にすら入り難い現状の僕は 

優雅に魚たちが泳ぐ水槽や ぴょこぴょこ歩くペンギンたちを眺めながら 

自分がそんな馬鹿な事を考えていた事を思い出すと

漏れそうになる悲しみに満ちた溜め息をグッと我慢する


僕達一行の一番前で沙智と友美に挟まれて 

悪人に連れ去られる可憐な美少女の様にも見える志保子さんと 

その間に立ち塞がる陽子と若菜の更にその後ろを歩く僕は

女の子を引き連れて歩くハーレム系アニメの主人公というより 

女性が多い家族のお父さんのような女の子達の後を付いて行く

ていのいいお供的ポジションだった


六人組と言うよりは五人とプラス一人な状態で 館内を散策しながら

お昼どきに入ったフードコートでは店員のおじちゃんに

「可愛い女の子一杯連れて お兄ちゃんモテモテだな!」と

「お前に俺の一体何がわかるんだよ!」と叫びたくなる事を言われ

水族館の出口で五年四組のトロールどもと別れた時には

夏の夕暮れ迫る赤い空を眺めて「そらきれい」と呟きかねないほど

僕は心身共に疲労困憊していたのである


僕と同じようにトロールどもに囲まれて 遠慮も何もない質問攻めで

同じように疲れた表情の志保子さんと 帰りはゆっくり歩いて帰ろうと

彼女の家へと続く歩道を自転車を押しながら二人で並んで歩く


そして僕は彼女が沙智達と会話した内容を 一つ一つと話してくれる事に

耳を傾けながら ほんの少し気持ちが落ちていくのを感じる


気持ちと同じように俯きがちになる僕に「なんか・・少し疲れたね・・」と

彼女はとても少しとは思えない疲れきった声で話し掛けてきた


その声に僕は自分が考えていた展開と余りにも違う方向に突き進んだ事を

謝りながらも つい「僕も とても疲れたよ・・」と愚痴を零してしまう


そんな僕の顔を下から覗き込むように彼女は顔を向けながら

「でも沙智さんや友美さん達と一杯話せて楽しかったよ」と

微笑みながら 柔らかい声音で返してくれたのだが

ポケモンならぬ除けモン扱いで少し拗ねていた僕は

「僕は 志保子さんと全然話せなくって 悲しかったよ・・」と

さらに拗ねた口調で愚痴を零してしまう


その僕の拗ねた言葉に彼女は少し考える仕草をすると足を止めて

僕の向かいに立つと 僕の胸元に左手をそっと置き

その小さなおつむも僕の胸に少し当てながら

「これからも 毎日二人で一杯お話出来るよね?」と俯いたまま

小さな声で尋ねてくれる 


そしてほんの少し間を置いてから

「もしかして他の子と話してばかりだったから拗ねてくれてるの?」と

付け足すように さっきよりも小声で聞いてきたのだった


僕は最初の彼女の質問には「もちろん一杯 お話するよ」と答え

二つ目の質問には気恥ずかしさで少し口篭もりながらも

「少し・・その・・焼き餅を・・」と答えると

彼女は不思議そうな表情をしながら顔をあげて僕を見つめ

「でも みんな女の子だったよ?」と聞いてくるのである


僕は顔を見られないように彼女の頭を軽く自分の胸に

押し当てるように手を添えて自分の表情が見られないようにすると

「男ならそもそも話してるだけで嫌だし女の子でもその・・嫌かも」と

口篭りつつ伝え少し掠れそうになる声で

「志保子さんを・・僕は独り占めしたい・・」と何とか言い切る


他の皆と仲良くして欲しいと思いつつも 実際仲良くしている所を見ただけで

つまらない嫉妬と下らない独占欲で僕の心は溢れてしまう


そんな自分の小ささに嫌気が差してくる気持ちはあるが

胸の奥から湧いてくるその気持ちは 止めどがなくて

自分にもどうにもしようが無く 自己嫌悪と自己弁護で 

僕の頭の中は一杯一杯になってしまうのである


そんな僕の胸元で 志保子さんは杖を持たない左手を そっと僕の背中に回し

僕の胸元に自分の頬を当てながら

「もう・・独り占めされてます・・」と呟いてくれる


その言葉に返す言葉がどうしても見つけられない僕は

僕達を赤く照らす夏の夕暮れの沈んでいく太陽を 


ただ眺めていることしか出来ずにいた





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