表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
83/126

水槽の明かりに照らされた彼女は

「新婚さんいらっしゃい!」


そんな感じで僕たちは 腕を組み寄り添うようにしながら 

薄暗い通路を志保子さんの歩調に合わせてゆっくりと抜けると

「出会いの海の大水槽」と案内掲示板にあった大きな水槽が 

僕たちの目の前に広がってくる。


それは文字通りの大水槽で 二階建ての建物位の高さに 

横幅三十メートルくらいの壁一面が全て強化ガラス製の 

まさに海の中にいるような と言いたくなる 

そんな素晴らしい光景に僕も彼女も思わず感嘆の声をあげる 


慌てて水槽に駆け寄ろうとしてバランスを崩し転びそうになった

彼女を支えながら僕は周囲を見回し座れる場所を確認すると 


「慌てちゃダメ!」と いつも自分が大人達に言われているセリフを

ここぞとばかりに彼女に言うと ちょっとむくれた顔の彼女を

苦笑しつつゆっくりと水槽の前にいざな


そうして薄暗く照明が落とされたホールから ライトアップされた大水槽を

目を輝かせて見入っている彼女の横顔を眺めつつ 初めてのデートに

ここに連れて来れた事に僕は心からほっとしていた


デートの行き先を水路の橋に腰掛けながら二人であれこれ話し合っていた昨日も

ここに来る途中で行き先に胸を躍らせるように はしゃいでいた彼女が

がっかりしないと良いな・・と僕は思っていたからだ


途中で少し焼きもち焼かせてしまったが 

逆に嬉しかったので問題なしである。機会があればもう一度でもある


そんな考えに気を取られていたため 彼女がこちらに顔を向けているのに

僕は気が付くのが少し遅れてしまい 絡み合った視線につい気恥ずかしくなり

視線を逸らそうとしたが 彼女の薄暗いホールの暗さに隠れたその半面と 

水槽から漏れる明かりで照らされた白く整った顔立ちの

絶妙な明暗に思わず息を飲み込む


僕が余りにも彼女の顔を見入っていたため 彼女も恥ずかしくなったのか

僕の肩口に小さく形のよいおつむを押し付けて顔を隠しながら

小声で「そんな見られたら・・恥ずかしいです」と可愛らしく伝えてくる


またしても「くふぅ~!」と漏れてしまいそうになる吐息を 何とか堪えながら

「ご・・ごめんなさい つい・・」と少し狼狽え気味に答えていると

僕の頭より少し高い位置から「仲良しだね 兄妹?」と僕達の隣で

水槽を眺めていた高校生カップルの女の人が笑顔で話し掛けてきた


僕達の仲を少々あなどっている お姉さんのその言葉に「夫婦です!」と

キリッとした表情で僕が答えると 高校生二人は驚いた表情で顔を見合わせ

二人して志保子さんに視線を移し 志保子さんも僕の言葉を肯定するように

頷いてくれたので少しほっとする


ここで「こんな人知りません!」などと冷たい口調で言われたら

僕は泣いてしまうかも知れない。


そんな僕の言葉に驚いた表情のまま お姉さんがさらに

「じゃあ今日はデートなの?」と尋ねてきたので

「は・・初めての・・」と 少し照れもあり口篭もりつつ答えると

「じゃあ新婚旅行だね!」と気の利いた なかなかナイスな事を言ってくれる


すると彼女さんは彼氏さんと何やら耳打ちをして「ちょっと待っててね!」と

笑顔で僕に言うと どっかにスタコラサッサと走って行ってしまったのである


「なんだよ邪魔すんじゃねーよ!」と僕が心の中で毒づいていると

「すぐ来るから待っててあげてね」と彼氏さんが笑顔で言うので

愛想良く「はい!」と返事をする事にした。


それからすぐに彼女さんが戻ってくると 水族館のロゴが入った袋を

僕に手渡してくるので中を覗いてみたらジュースやお菓子が入っており 

なんですかこれ?な顔で彼女さんを見ると お姉さんは満面の笑みで

「私達からのお祝い!」と素敵な言葉を返してくれる


「無料より嬉しいことはない」を座右の銘にしている僕である

さっきまでの毒づいていた内面など明後日の方向に吹き飛ばし

心からのお礼を言うと 二人は笑顔で手を振りつつ去っていった


そうして「せっかくだし頂きますか」と志保子さんを言うと

笑顔で頷いてくれた彼女を連れて 大水槽を眺めたままでいられる


二人掛けのソファーに足を運ぶのだった





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ