僕の出来る事
「志保子さんと二人で写真が撮りたい」
そう彼女に告げると志保子さんは注意して見ていなければ
気がつかない程度の仕草で一度だけ自分の右足と
手に持った歩行杖に視線を泳がせる
そして僕の方を見ると「その・・私で良ければ・・」と
少しかすれ気味な小声で返事をしてくれた
「貴方がいいんですよ!」と
大声で叫びたくなる気持ちをグッと抑えながら
僕は今しがた志保子さんがした仕草の事を少し考える
その仕草を見て僕は志保子さんに出会ってから まだ数日しか経っていないが
その間に彼女を見ていて「もしかして?」と思っていた事が
やっぱりそうだったのか・・と思い 写真を撮る事を提案したのは
失敗だったかもと少し悔やんだ。
しかし言ってしまった手前「今の無しで」と言うのも気が引けたので
志保子さんを入口ホールのソファーまで手をひいて連れて行き座らせると
「頼んでくるから 待ってて!」と告げてから 入口付近で入館者の
写真を撮るサービスをしているスタッフの人に声をかけてみる事にした
丁度、入館者が途切れていたため 少し暇そうな様子のスタッフさんを見て
これなら考えていた事も頼み易いと思い
僕は一番感じの良さそうな女性のスタッフさんに声を掛けてみる
僕がデジカメを片手に近づいてきた事に気が付いた
そのスタッフのお姉さんは少し屈んで僕に視線を合わせると
「写真ですか?」と優しく尋ねてきてくれた
僕は頷きつつ 少しだけ自分のこれから話す言葉に迷いながらも
「あの申し訳ないんですけど 一緒に来ている女の子が
右足が悪くって歩行杖を突いているんですけど・・」と言葉で告げ
「それで・・・気のせいかもですけど
自分の立ち姿を余り好きじゃないみたいなんです」と心の中で付け足す
もし当たっていたとしても口に出す言葉じゃない
スタッフのお姉さんは少しだけ表情を引き締めながら頷きつつ
先程と同じ優しい口調で「それで?続けて」と促してくれた
僕は写真を撮るために綺麗に飾りつけされた場所を手でさしながら
「なので座らせてあげて写真を撮りたいと思うんですが・・」
と口ごもりながら告げてみる
お姉さんは僕の頭に手を添えて「ちょと待っててくださいね」と言うと
一緒にいたスタッフの人達と少し話した後 もう一人のスタッフの人を連れて
場を離れた
少し気まずい気持ちで待っていると残っているスタッフのお姉さんが
「すぐ来るから もう少し待っててくださいね」と
優しい声音で告げてくれたのでお礼を言い頭を下げる。
その言葉通りすぐに先程のお姉さんと もう一人のスタッフの人が
デザインの良い二人掛けのソファーを運んできてくれて
撮影場所に置いてくれると彼女を連れてくる様に促してくれた
僕はお礼をいいつつ志保子さんの所に戻ると何故か少しジト目の彼女に
「あの・・余計なお世話だったかもだけど椅子を用意してもらったから
座って一緒に写真を撮ろう」と伝える
すると彼女はとても驚いた表情をしてから 顔を赤くしつつ頷きながら
僕の手を取って「気を遣ってくれて ありがとう」と耳元で
嬉しそうに告げてくれ 二人で用意してもらったソファーに場所を移した
そうしてスタッフのお姉さんに何枚か写真を撮ってもらい二人でお礼を言うと
最初に話しかけたお姉さんが志保子さんに何かを耳打ちしており
戻ってきた志保子さんに「何話してたの?」と尋ねると
彼女は嬉しそうな表情で明るい声で「内緒です!」と言うと
僕の手を握り先を促すのだった
促されながら僕は彼女に対して してあげたい何かすら
誰かに頼まないといけない自分に少しがっかりしつつ
彼女の嬉しそうな笑顔を見れて良かったと思うのだった