ちゃんとした大人
「飯島先生か・・」
その名前で あの大柄な体格と厳つい顔
よく叱られた僕をゲンコツする大きな手と
よく出来た時は自分の事のように喜んでくれた笑顔
そして少しかすれ気味なダミ声を思い出す。
幼い時分に家族以外で意識して大人と感じ接するのは
多分だが学校の教師だと思う
大学は少し勝手が違うので省くが 小学校から高校までの十二年間で
数々の教師と呼ばれる大人たちを見てきた中の 志保子と出会い親睦を
深めていた最初の過程の中で それを見守る大人達の中に
彼がいた事に私は今でも大変感謝をしている
志保子はあまり体が丈夫ではなく 学校を休んだ時のお見舞いや授業中に
体調を崩し保健室などへの付き添いに 毎回私に行くように促してくれたのだ。
それ以外もなにくれと 私と志保子がともにいられる時間を
学校の中でも もてるようにしてくれていたように感じる。
性を意識し始めた男の子と女の子という。
成長し急激に違っていく自分達の身体に気づき始めた 子供たちの社会の中で
私と志保子がそうしていても からかいやちゃかされたりする事もなく
過ごす事が出来たのは 先生の気遣いだったと今にして分かる
まぁ当時は「言われなくて 僕の役目だ!」くらいの感じだったのだが・・
そして中学卒業の時 家の事情で東京に引っ越す事になった私が
お世話になったご挨拶に先生を訪ねた時に話してくれた
中学校に入学した時やクラス替えの時期に わざわざ連絡を入れて
私と志保子を同じクラスにしてもらえるように頼んでいた事を聞いて
自分が思わず泣き出してしまった事を思い出す
足に身障を抱える志保子の手助けを 私に期待していたと告げてくれた彼に
私は彼の手を取って頭を下げることしか出来なかった
今年も同じクラスだと喜んでいたのは
なんて事はない僕達を見守ってくれていた 飯島先生の尽力のお陰だったのだ
そしてたぶん私が両親以外で最初に出会った「ちゃんとした大人」だったと思う
そうして最近のまあ昔からあったとは思うが いじめられている生徒が
教師に助けを求めても「やりすぎるなよ!」や「余計なこと言うな!」など
流石にそれは・・と思わざる得ない教師では無く そこいたのが飯島先生なら
もっと違う形になっていたのではと思ってしまう
まあそんな良い先生に出会って いま現在無職な私が言うのもあれだが・・
「今更だが教師を目指すのも悪くないかも知れない・・」
彼のようには出来なくても彼に少しでも近い形で
誰かに手を差しのべられるなら自分がそうしてもらえたように
そんな事を思いつつ ほんの少し外れてしまった追憶に私はまた耽るのだった。