飛脚スタイルで帰宅
出来上がった一章を何度も読み直し重複している表現や
似たような語尾というか文章の締めの部分の修正をしていると
書いてる時より時間が掛かって仕方ないものです
本業作家さんとか大変だなと思いました
太陽もだいぶ落ちてきて道路を照らす日差しが少し薄暗く感じてきた頃
壊れた車の部品やら割れたフロントガラスの破片など散乱している歩道を
私はそれらを避けながら たまに目に映る人間の一部分に目を背けながら歩く
普段ならゆっくり歩いても十分もあれば到着する目的地の十字路まで
倍は掛かってしまい 着いた頃には軽い疲労感を感じていたくらいである
仕事を辞めてから考えてみれば こんなに外に出ている事など無かったのだ
趣味が狭いというのもあるが 大体欲しい物はアマゾンでポチッとすれば
ヤマトか佐川のお兄ちゃんが持ってきてくれるので
アマゾンで買う必要もない日用品の買出し程度にしか 外に出なかった事もある
こんな状況じゃ もう来てくれないかも知れない・・
そんな事を考えながら到着した十字路を見渡すと
嫌な予想の通りに こちらも最後尾で見たような惨状が広がっている
引っくり返っていたり横倒しの車や 多分ガソリン引火の火災で真っ黒焦げな車
後ろから横から追突されて 半分くらいの大きさにペチャンコになってる車が
十字路を埋め尽くしており 道路にはその時出来た破片で滅茶苦茶な状態である
私は周囲に転がっている人間の一部分を なるべくまともに見ないで済むように
遠目で観察しながら 何か状況が少しでもわかるものが残されていないか
注意深く伺うと 初めて人間の形のままの死体を見つけたのだった
それは車両火災が発生した車内に取り残された焼身死体である
前方から追突されフロントガラスを突き破った上半身を
潰された車体に挟まれて火災から逃げられなかった下半身から
出来るだけ離れようとしたかの様に ボンネットの方に身体を伸ばしている
言い方は良くないが水気のない生々しさの欠けているそれは
縮こまり小さくなった人の形をした 黒焦げた人形のようにも見えて
まだ直視する事に抵抗がなく それでも少しだけ距離をおいて観察してみる
以前に読んだ本で 焼身よる死亡は多くは肉体の焼損が直接の死因とはならず
全身の大部分の皮膚が火傷して喪失する事によって 人体から急激に水分が流失
(各種体液を含む)していく事による脱水症状からくる衰弱死であると
読んだ事を思い出す
ただこれ程までに炭化している状態だと どう何だろうと考えつつ
なるべく目を合わさないようにしていた顔に目を向ける
顔というのは表情もそうだが こちらにあらゆる情報を投げかけてくる
それは炭化して黒焦げになっても変わらず 少し気分が悪くなり吐き気がする
眼球が溶け落ちて黒い穴としか表現できない眼窩に思わず目を逸らし
半分ほど開けられた口に視線を落とすと 何やら奇妙な物が口内から
少しだけハミ出しているのが見えた
気になって恐る恐る死体の傍に近づき目を凝らして観察する
「それ」はカマキリやバッタなどの昆虫の脚のような 何やら節くれだった
細長い物であり それが二本 口から飛び出しているのである
また少しだけ傍に近づき 申し訳ない気持ちはあるのだが「ひのきのぼう」で
少しつついてみても 動く気配はないので「ごめんなさい・・・」と呟きつつ
焼死体の口に棒を引っ掛けると上に持ち上げてみる
口が開いた事で支えを失った「それ」は焼死体の口からボンネットに落ちる
少し飛び退いて離れた場所から「それ」を 棒でつついたり叩いたりしても
動かない事を確認すると 棒でこちらに引き寄せて ボンネットから地面に
落としてみる。多少ましなだけで死体に余り近づきたくは無いからだ
落ちた「それ」を一メートル程は気持ち悪いので 距離をあけて観察して見ると
大きさは小学校の頃に帰り道 志保子と見たダンボール箱に入っていた
生後一週間前後の子猫くらいの大きさで 見た目は確か等脚目と
称される フナムシやダンゴムシのような形状で 短い脚が一杯付いてる以外に
それらには見た事が無い長い脚が四本付いているのが分かる
白っぽい外殻と節くれだった体に丸い小さな目が付いており
何時だったか何処かで見た覚えがあり少し思案する
記憶を探り何とか思い出そうと 頭を捻ってウンウン唸りつつ考えていると
やっと思い出すことが出来た
「ウオノエ」である。
釣りが趣味な人なら 多分良くご存知の存在だと思うが 知らない人のために
補足すると 等脚目に属する魚の寄生虫の科の一つで漢字で書くと
「魚の餌」と書き お魚であるアジ・タイ・サヨリなどの
口内やエラや体表面にへばりつき 体液を吸って生活する生物である
親のすねを齧って生活するニートの生き様を
文字通り体現したライフスタイルを持つ生物であり
気になった人はグーグル先生に尋ねれば すぐに画像が見れると思う
多分だが後悔して魚を食べる気持ちが激減するかも知れない
私も昔はアウトドアな少年だったのと 海が近い場所に住んでいたため
良く当時の友人達と海釣りしている時に見たものだが
それはこんなビックな大きさでは無かった筈なのだが・・
脚もこんなに長いの付いてなかったし
詳しく調べてみたいが日も落ちて来たため 仕方なく持って帰ろうと思い
十字路沿いにあるお弁当屋さんに侵入して 大きめのタッパと長い菜箸を
持ってくると 菜箸で「ウオノエ(仮)」を挟んでタッパに入れる
そして同じく拝借してきた布製のバックにしまい「ひのきのぼう」の先っぽに
引っ掛けると 小学生の頃に教科書で見た飛脚のようなスタイルで
私は日も暮れてきた薄暗い家路を急ぐのだった
でわ次回で