生々しい現実感
余分な文章をなるべく削り 話数を少し抑えるため再掲載しました
私は夏の夕暮れが迫る日差しに照らされながら
渋滞し鮨詰め状態の車に埋め尽くされた車両道路を横目に
その脇の歩道を周囲に気を配りながら歩いている
最後尾がダムのように折り重なっている車両に封鎖され
多分だが前方の目指す十字路も 似たように封鎖されていると思われるが
念のため確認しておこうと考え足を進める
その歩く道も歩道にまで乗り上げている車が多いので
歩きにくい事この上なく足の踏み場に困るくらいである
そこで下手に車両道路にまで乗り込んで車の屋根を歩くのも
自分の位置が見つけられやすい高い場所に行く事や
歩くときに出るであろうベコベコ音の事を考えると 少し躊躇を覚えてしまう
そう気付いて鮨詰め状態の車を見てみると 屋根やボンネットを
大勢の人が踏んで渡った跡のように ヘコんでいる車両があるのが分かった
車に乗っていた人や歩いていた人が 車両が傷付くのもお構いなしで
恐らくだが事故火災や「何か」から逃げ出した感じにも見える
もう少し良く観察しようと 足元に転がる色々な物を避けながら
車列に近づくと車のドアを バールの様な物で無理やり押し開いた感じの
ドアがあったので さらに近づいて車内に顔を突っ込み覗くと
肌色と赤とピンクの色をした物体が 車内のすぐ手前に落ちているのが見えた
気になった私は少し体を近づけると その物体を目を細めて良く観察し
そしてそれが何かに気付いて思わず仰け反ってしまう
それは多分だが人間の皮と肉であり
ミンチ状態と表現しても良い状態で 絡まり固まっている肉塊だと気が付く
多分とは言ったものの 少し目を細め遠目でじっくりと見直すと
やはり人間の皮と肉の塊だと思われる
そして気付いた瞬間に 思わず仰け反って目を背けてしまったが
手首や手のひらが そして五本の指先さえも
少しおかしな方向に曲がっていたり 一部分が欠けていたり
血まみれで見難くはあったが きちんと視認する事が出来たのだ
恐らくだが肘から少し下の部分のように思える
そう認識すると 思わず腹の奥底からあふれる吐き気に口元を押さえるが
吐き気はそんな事では、全く抑えられず指の隙間から腹に収まっていた
内容物が胃液と混じってどんどん零れ落ちる
その人の皮と肉が絡み混じりあった肉塊に背中を向け
私は四つん這いになると 抑えきれない吐き気を我慢する事は諦めて
出来るだけ吐瀉音が出ないようにする事しか出来なかった
周囲に漂うガソリンの油臭い臭いで誤魔化されていたが
油断して顔を近づけたとき 臭いを嗅いでしまった事を悔やむ
肉が腐ったような臭いと 血生臭い臭いが混じったそれは
鼻からなかなか抜けず それがさらに吐き気を誘うのである
収まらない吐き気と鼻に残る悪臭で フラつく足を使って何とか立ち上がると
取り敢えずは安全だと思える場所に移動しておこうと考える。
よくあるホラー系のアニメや漫画や映画だと
主人公が事件事故の原因や出来事に気が付き
思案したりショックを受けていると
「それ」の視点に画面が切り替わり
主人公を背後からぐわってな感じで襲いかかるものだ。
バイオハザードやSIRENシリーズを全てクリアーしている
私の経験がそう告げるのである。間違いはない
いまだに湧き上がる吐き気と鼻に残っている悪臭で フラフラになった頭を抱え
涙目で霞む視界と 鼻水と吐瀉物で汚れた口元を拭う余裕もないままに
覚束無い足を引き摺るようにして 私はすぐ傍にある建物の入口に向かう
散らばる車のガラス片や部品と折れて歩道に倒れ込んでいる街路樹を避けながら
何とか建物の入口に近づくと 寮の入ったビルのように粉々に砕け散った
ガラス扉を落ちたガラスの破片を避けながらくぐり抜ける
自分の姿を隠し 少しでも今見た出来事を落ち着いて思案する事が
出来る場所を探さなくてはと思い 周囲を伺うと二階に上がる階段の下に
空いた隙間を見つけ そこに潜り込むと座り込んで呼吸を整える
そして半ズボンの後ろポケットに入れておいた エビアンのボトルを取り出し
少し口をゆすいでから汚れを床に吐き出し 口元を拭ってから一口飲む
五分ほど気持ちと呼吸を落ち着かせる事に集中して
ほんの少しだか呼吸も気持ちも落ち着いたので
先程この目で見た物について少し思案しようと目を瞑る
さっきの光景を思い出し 再び込み上げる吐き気を何とか抑えると
あれは恐らく車のドアに挟まれた腕を 力ずくで無理やり引き抜いたときに
骨に付いていた皮と肉が剥げ落ちて出来たぐちゃぐちゃの肉塊と
その先の部分である手首が混ざったものだと考える
私はホラーゲームを良くプレイするが ソレで見る飛び散る血や肉片など
それがどんなにリアルに見えて良く出来ていたとしても
所詮はモニター越しに見るポリゴンの塊で造り物でしかなく
現実で見たそれの生々しさにくらべればお話にならないのである
渋滞の最後尾での惨状を見ても余り感じなかったが 血まみれの肉塊と
その先の人間を感じさせる部分を見た事と いまだ鼻に残る血生臭い匂いで
「生々しさ」が加わった事で一気に現実感が湧いてくる
もちろんそんな嫌な現実感は 私が別に頼んだ訳ではないので
勘弁して欲しい所であり 見なかった事にし記憶から消し去りたい思いと
家に帰りたい気持ちで胸が一杯になる
逃げ帰って布団に包まろうかと考えるが 流石にこの現状を考えると
逃げてどうなるものではないのは いかに不真面目な私でも理解できる
もう少しだけ頑張ろうと気持ちを固めると 頬を叩き気合を入れ直す
そして私は立ち上がり目的の十字路に向かうため
逃げ出そうとする両足を気力で抑えながら
なんとか歩き出すのだった
でわ次回で