何時も一人で今も一人
チャイムが鳴り終わると二度目の防災放送が流れる。
内容は先程と同じようだが忘れたりしない為にも ベランダの手摺りの上に
アマゾンの梱包箱を置くと下敷きにしてノートに放送内容を記入していく。
放送終了のチャイム音が鳴り放送が終わると室内に戻る前に
ベランダから周囲の景色を眺める。
鼻に付く悪臭を除けば 何時もと代わり映えしない町並が広がっている
雨上がりで少し湿気があるが普段通りである。
空の青空を見ると「今日はいい天気~!」と歌い出したくなるが
そんな事をしている場合でも無いので 室内に戻りガラス戸を閉め
テーブルの上にノートを置くと そのまま部屋を突っ切り
玄関横にある台所の曇りガラスの窓を少し開けて反対側の景色も確認してみる
こちらも何時通りで代わり映えしない事を確認すると
窓を閉め鍵を掛け直しノートをおいたテーブルの前に座り直す
放送内容が書かれたノートを何度か読み直しながら
今回の放送で気が付いた点を付け足していく。
一つ目に前回の放送と同じ放送開始チャイムから かなり間をあけてから
同じ人の声で動揺した感じの上擦った口調であった事 多分だが録音である。
録音音声て今まであったか?と少し考え 次に気が付いた事を記入する。
二つ目は一時間毎というかなり短いスパンで放送が繰り返されている点である
内容が内容だけに こちら仕方ないかも知れないので保留にしておく。
まあアニメでも「大事な事なので二回言いました!」は良くあるし
なので一つ目の件に思案を傾ける事にする。
同じ内容なら録音しておいた音声で問題ないようにも思うが
聞いているだけで動揺し慌てているのが分かるほど
つっかえたりどもったりし早口な部分も多く聞き取りづらい物を
そのまま使うのだろうかと思う。あれでは聞くほど不安になってくる。
まさかワザと不安にさせる為の口調なら 声優さんクラスの演技力だが
公共放送である事と放送内容から考えて流石にそれは有り得ないと思う。
それについてもう少し思案し あれこれ考えるが思いついた中で
可能性が高いのは次の二点だと思う。
まず録音し直す余裕がないほど忙しい か
そもそも録音し直せる人がいない である
非常事態宣言の発令や移動制限区域地域の指定など出されている状態である
大げさかもしれないが可能性として書いておく事にする。
本当に何が起こったんだろう・・・
確認しようにもテレビは映らずネットも繋がらない状態では 確かめようが無く
携帯電話も先月の更新の際に出費を抑える為と 誰からも掛かって来る事も無く
掛けるべき相手もいない自分には不用と思い解約したのが悔やまれる。
家の固定電話は有るのだが 両親を事故で亡くしており他の血縁とは縁が薄く
元々少なかった友人達も就職で地方勤務になったお陰で連絡は途絶え
その就職した会社の方も倒産で辞めていたので 付き合いらしい付き合いが無く
こういう時に連絡する相手が一人もいない有様である。
普段ならテレビやネットである程度の情報を仕入れる事が出来るが
そのどちらも今は繋がらず どうにもしようがない状態である。
困ってはいるが具体的にどういう問題が起こっているのか
分からないので困り方に困る。情報が無さ過ぎる。
それにしても自分は本当に孤独なんだな・・と しみじみ思う
この一年間を振り返って見ても他人と話した記憶がほとんど無い
行きつけのスーパーの店員さんと たまに挨拶を交わすくらいで
「会話」と呼べるような事は全くしていない事に気が付く
こんな時に誰かを心配する事も誰かに心配される事も無い自分を
改めて見つめ直すと何とも言えない気持ちになる。
一人だけ心配な人がいるのだが自分が心配をして良いのか分からない
寂しいと感じるかというと そういう訳では無い
「みんなの中で一人」ならそう感じるのかも知れないが
「何時も一人で今も一人」ならそれは単なる日常だからだ。
そんな事をつらつらと考えていると また放送前のチャイム音が聞こえてきた
テーブルに置かれているノートとペンを手に取ると
ガラス戸を開けてベランダへと足を運ぶ