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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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借り物ではなく 自分の言葉で

「不束者ですが よろしくお願いします・・・」


胸の奥の そのさらに奥に感じる後ろめたさを隠しながら

いつだったか本で読んだ 求愛に答える言葉を私は口にします。


彼はいつまでも続く事を前提に 私はいつかは終わってしまう事を前提に


そんな気持ちで でもそれを悟られないように なるべく笑顔で

彼を見つめ返そうとしていた私は 彼の表情を見て少し不安を感じます


彼の求愛に答えたつもりなのですが 

何故か彼は不安げな顔でこちらを見ているのです


もしかして不束者の意味って そういう意味じゃなかったのかなと

不安になりかけていると 彼は緊張した表情と 恐る恐るといった口調で

「不束者って・・・どういう意味?」と尋ねてきました


その言葉を聞いて私はびっくりしてしまい 彼の顔を見直しますが

彼は本当に困った顔をしており それを冗談や分からない振りで

聞いてるのでは無い事がすぐにわかります


そう気が付くと胸の奥にあった 後ろめたい気持ちのところに

温かい明かりが灯ったかのような どんどん自分の中にある暗さが

その温かい明かりに照らされて消えていくのを感じます


そう思うと嬉しくなり幸せな気持ちで心が満たされていくのを感じ

だから自然と笑い声がこぼれてしまいました


こんなに面白くて幸せな気持ちで満たされているのに

どうしてその気持ちを隠さなくてはいけないのでしょう


そして自分でもびっくりするくらい大声で笑っている私に

「そういう難しい言葉は六年生になってから使ってくださいね」と

彼が少し困った表情に 優しい口調で伝えてくれます


私は あふれてくる喜びで どうしても震えてしまう声で謝りますが 

彼の困った顔を見ていると つい憎まれ口を言いたくなってしまい

「でも小学五年生で プロポーズしてくる人に言われましても」と

嬉しくて弾んしまう声で そんな可愛くない事を言ってしまいました


そうしてまた胸の奥から沸き上がってくる喜びに 

それが何処かに飛んでいってしまわないように

少しでも長く私の中に閉じ込めて置けるようにと

お腹を抑えている私の頭に 彼が優しくその温かい手を置いてくれました


その優しく温かい手と 同じくらい優しく温かい言葉で

私の伝えた言葉の意味を 尋ねてくれる彼の言葉に

私は少しでも自分の気持ちが ちゃんと伝わるようにと 

顔をきちんと上げて表情を引き締め 背筋もぴんと伸ばし姿勢を正して 

自分の頭に置いてくれた 彼の温かな手を帽子ごしでは もったいなく感じ 

その手に軽く手を添えると そのまま下に招き寄せ 

自分の頬に その手を当てて貰い 息を整えます


そうして彼にも もちろん私にも まだ早かった借り物の言葉では無く

自分の言葉で伝えようと 彼をしっかり見つめながら


「私で良ければ よろしくお願いします・・」と告げたのでした。




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