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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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ありきたりな言葉でしか

「不束者ですが、よろしくお願いします・・・」


その言葉を聞いて 僕は凄く緊張し動揺していたと思う 

「会ったばかりで 何言ってんだ 僕は・・」と思う気持ちと 

伝えてしまった言葉の内容に 気恥ずかしさも徐々にあふれてくる。


それでも恥ずかしくて まともに彼女の顔を見られないながら 

ほんの少し伺える 彼女の泣き笑いしたような その表情と綻んだ口元とから

多分 僕の申し出に了承して貰えたのは分かるのだが・・・


でもこのままでは先に進めないと思い あえて聞いてみる事にする

聞いた事のある言葉なのだが その意味まではわからなかったからだ。


そして ものを知らないのを笑われたら嫌だな・・と考えながら 彼女に

「不束者って・・・どういう意味?」と 恐る恐る尋ねてみる。 


その僕の言葉を聞いた志保子さんは それこそ鳩が豆鉄砲を食らったかの様に

奥目がちな目を丸くして 徐々に頬が赤く染めながら

ぎゅっとその小さい手を握り 必死に何か堪えるように体を震わせている。


「変なこと聞いたのかしら・・」


僕は不安に思って顔を上げ 志保子さんの奥目がちな目と視線を合わせると

目と目が合った瞬間 もう我慢出来ないといった感じで

彼女は堰を切ったかのように大笑いをし始めた


「ちょっと待ってくださいよ・・今は笑う所なのですか・・」と思ったが 

初めて彼女が大きな声で 笑ってくれた事に嬉しくもある。 


そう思い彼女の笑顔で浮き立つ気持ちを 言葉にかえて

「そういう難しい言葉は 六年生になってから使ってくださいね」と伝えると

彼女は震える声で「ご・・ごめんなさいっ」と笑顔で答えてくれた


「でも小学五年生で プロポーズしてくる人に言われましても」と

彼女は目の隅の涙を指先でぬぐいつつ 悪戯っぽい表情で笑うと 

またお腹を抱えて震えだすのである。


僕は対応に困り でも多分きっと了承して貰えたと思う事にして

ノートの端っこでのやり取りで見た この手で触れてみたいと思っていた

彼女の小さい形の良いおつむに そっと軽く自分の手のひらを当てると

手を添えたまま「よかったら 教えて志保子さん」と

もう一度さっきよりは 大分落ち着いた口調で尋ねてみる。


僕の言葉を聞いた志保子さんは ようやく笑いを収めて顔を上げると

姿勢を正して背筋をぴんと伸ばし 自分の頭に置かれた僕の手に

柔らかな自分の手を軽く添えて そのまま下に招き寄せると

その柔らかな頬に手を当てさせてくれた


そうして嬉しそうに表情を和らげて明るく弾んだ声で

「私で良ければ よろしくお願いしますって意味だよ」と

優しい笑顔で頬を赤く染めながら教えてくれたのだった


手に触れている柔らかな頬と 同じくらい柔らかなその言葉に

僕は「ありがとう・・」と上手い返しも見つけられず

なんの捻りもないありきたりな言葉でしか返せず


彼女が僕に向けてくれている その温かい瞳を

ただ見つめ返す事しか出来ずにいたのだった








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