つまらない特別感
帰りの会も終わり クラスメイト達の騒めく教室で
僕は自分の機動力の足らなさに心の中で悶絶していた
本当は飯島先生と志保子さんが出て行った後
僕はすぐにでも追いかけて スマップや嵐の出待ちをする
ジャニヲタのように彼女を待ち伏せするはずだったのだ。
別に一緒に帰ろうとか 家の場所をリサーチしておいて 夜中に舞い戻り
お風呂シーンを覗こうなどとは まったくこれっぽちも思っていない
中途半端と自分が感じる彼女との会話をきちんとした言葉で
締めくくりたかっただけなのだ。
それがただの「さようなら」でも「また明日」でも
しかし何時ものように何時もの如しで僕の周りには
急いで二人を追い掛けようと加速装置を起動する寸前の僕を
背中からガッチリホールドし捕獲した宮田くんや鹿嶋くん
そして沙智や友美もおり 何故か高久くんまで居るのである
そして普段通りのたわい無い話題から
転校生である志保子さんの話題に話が移ると
沙智が授業中に手紙を回して来て書いてあったセリフである
「志村さんてテンポはちょっと遅いけど・・」と前置きしつつ
「でも本当に良く人の話を聞いて 答えてくれるよね」と言い出すと
他のみんなも同意するように 「なんか凄い真面目に話聞くよね」や
「自分がこう言ったら こう答えてくれた」などと言い出した
それを聞いた僕は自分の好ましいと思う人が ほんの少し悪く言われている事に
ちょっと腹ただしい気持ちもあるが それでも彼女の良いところを
きちんと褒められている事に素直に喜ぶ反面 手紙が来た時にも思った
「自分だけが気が付いた 彼女の良いところ」と思っていた事が
実は他の誰かにも分かる事だったという つまらない特別感が
自分の勝手な思い込みだった事へのショックだった。
そんな思いに頭を使っていたからか 無口になってる僕を見て沙智が
「文どうした?いつも変だけど今日はとくに変だよ」と
慰めてるのか貶してるの 訳わからんセリフを言ってくる
その言葉に僕が言い返そうとすると 高久くんが低音イケメンボイスで
「近くで見てて思ったけど 志村さん文とすごい仲良くなってたよね」と
言ってくれたので 照れて赤くなりそうな頬をごまかしていると
「授業中なんかお互い袖引合いながらノートの端っこでお喋りしてなかった?」
と 僕の後ろの席に座っている友美もそう言い出したので
聞いた僕は嬉しさのあまり
「見てた?気がついちゃった?やっぱそう見えちゃうかー やっぱり?」
などと言いたい気持ちをグッと堪えて
「そうかなーあんなもんじゃね」と言葉を濁して誤魔化したのだった。
そうしてそろそろ帰ろうか と言う宮田くん達に
今日は図書室行くから先に帰ってと頼んで先に帰すと
本当は図書室に用がなかった僕は
遠回りで下駄箱に向かおうと教室を出たのだった。
普段通りじゃない自分に 普段通りの宮田君たちを付き合わせ
僕が志保子さんに一目惚れした事がバレたら大変だからである
小学生の恋愛相談は決まって ただの妨害になる事が多く
誰かに相談するくらいなら 自分で考えて行動した方が
上手くいってもいかなくても 誰かのせいにしないで済む分マシだと思う
そんな事を考えながら
一人ぼっちで教室から出ると 遠回りに下駄箱に向かう廊下を歩き
六時間目にノートの端っこでの会話がなかったのは やり取りを
楽しいと感じていたのは僕だけだったのかな・・と考えたり
もしこの先 高久くんと彼女が仲良くなって付き合いだしたらどうしようや
でもあの二人ならお似合いだよな・・と考え一人で勝手に落ち込みながら
もしあの二人が付き合ってデートしたら
どこへ行くのかなどと考え始めるのだった。