「間」違い と 嫉妬
セミの鳴く声が また少し騒がしく聞こえて来た五年四組の教室
僕の袖口を軽く掴むと小さく頷いてくれた 志保子さんの可愛らしいその仕草に
「鎮まれ・・・し、鎮ま・れ・・・俺の右腕よ・・・・・」と
あまりの嬉しさで浮き立つ気持ちを 何とか小芝居で抑える
その後も飯島先生の板書の間を狙いすましながら
彼女と色んな質問をし質問をされて 答えて答えて貰ったりをしながら
沙智や友美たち四組女子の その邪悪な陰謀によって座らされていた
この呪われた場所である 教壇向かいの一番前の席に座っている事に
はじめて感謝したものである。
そうやって授業中、鬱陶しがられないように
志保子さんが二回くらい会話のお誘いをしてきたら
こちらからは一回お誘いし返すくらいに がんばって自制しながら
少しずつだが親睦を深めていった。
授業合間の休み時間や給食の時間などで クラスの女子の質問攻めで
あたふたしている志保子さんに ほんの少し助け舟を出してみながら
ストーカーまで後一歩のギリギリのラインをキープする
そういう風に彼女とのやり取りを 少しずつ積み重ねながら気がついたのだが
彼女は不慣れな感じはあるものの 他人との会話や付き合いを
面倒に思ったり ましてや嫌がっている訳ではないようで
相手の話を真剣にきちんと聞き 自分の中でちゃんと聞いた事を考えて
出た答えを言葉を選んで 伝えようとしている感じがした
多分だが「間」が他の人達より長く広いのだと感じる。
それは彼女がマイペース気味な自己中である訳でも
ましてや頭の回転が悪い訳でも決して無く
きちんと受け答えしようとする 彼女の誠実さの現れだと思う
まあワンテンポずれてるところはあるけれど
彼女を見ていると僕は以前に読んだ小説の一節を思い出す
確か「人間」という言葉の意味だった気がするが
他人との距離感「間」を測れない者や 他人のペース「間」を
慮る事が出来ない者が「間抜け」と呼ばれるように
僕も含めて殆どの人間が その手の「間」違いを起こしている中で
不器用ながらもきちんとした誠実な対応をしている彼女は
僕が自分自身に感じる軽薄なところが全くなく少し憧れる
そんな事を考えながらの 六時間目に入る前の休憩時間の時に
男の僕から見ても「抱かれてもいい・・・」と思えるくらい
素敵男子の高久くんが 志保子さんに笑顔で話かけているのを見たとき
僕は自分でもびっくりするくらい胸が苦しくなった。
多分、生まれて始めて「嫉妬」したのだと思う
僕と話す時よりも幾分緊張した笑顔で話す 彼女を見て少し安心したり
僕と話す時より 少し多い言葉数に文字通り「ぐぬぬぬ」と吹き出しが
出るレベルで悶絶し 許されるなら床でゴロゴロしまくりたくなった程である。
しかも高久くんは 僕に「抱かれてもいい・・」と思わせるくらいに
見た目も良く中身もスカした所のない 爽やかで同じ年なのに
「兄貴!」と呼びたくなるくらいの ナイスボーイなのである。
その現実がさらに僕を悶絶させ こうしちゃいられない気持ちにさせ
彼女との何かしらの形が欲しくなり 放課後に偶然出会った志保子さんに
「志村さん 良かったら場所を変えて少しお話しない?」と伝える
切っ掛けになったのである