美女と野獣
五年四組の担任の飯島先生に連れられて 入ってきた彼女を見たとき
多分 僕は生まれてはじめて「見惚れた」のだと思う
当時はそんな言葉を知らず うまく表現出来なかったのだけど
僕の目の前に立った彼女は
上品なお嬢様な雰囲気の とてもよく似合う服装をしており
無地の白いノースリーブに 薄青色のプリーツスカートを合わせて
セミロングの艶やかな黒髪には スカートの色に合わせたのか
同じ色の品の良い形の髪留めを前髪にさしていた。
僕より頭ひとつ分は低い小柄な体格で 線の細い華奢な体つきと
病的といっていいほどに肌は白く 奥目がちな目に小さく形の良い鼻と
薄紅色の厚みの薄い唇で それら全てが彼女を とても儚げに感じさせる。
顔の造形だけで言えば 彼女よりも整っている女の子はたくさんいるだろう
ただ彼女のもつ 放課後の校舎で廊下に一人で立ち
誰もいない空っぽの教室の窓から見える夕日を眺めるような
「今日の終わり」を感じさせる不思議な雰囲気と佇まいに
僕は胸が詰まるような もどかしさを感じた。
そんな彼女に僕が目が離せなくなり 見惚れていると
隣に座る「鈴木沙智」が僕の腕をを肘でつつきながら
「かわいいじゃん やったね文」という言葉にも普段なら
「気安く触らないでくれませんかね 払うもの払ってからでお願いしますよ!」
などと返すのだが 今の僕にはそんな余裕がないのである。
そう・・僕の知ってる同級生の「女子」と言うのは
「お前は俺のかーちゃんかよ!」と言いたくなるくらい口やかましく
ちょっと反論しようものなら 尻尾切られた猿のようにぎゃあぎゃあと騒ぎ
少しでも自分が不利になると すぐに「ちょっと・・友美聞いてよ・・」と
「沙智は仲間をよんだ 友美があらわれた」みたいに数で暴力をしてくるという
ドラクエでいうところのトロールのようなものだった。
小さな掠れた声で自己紹介を終えた彼女は 緊張した面持ちで視線を泳がし
僕と目が合うと その白く整った顔に柔らかな微笑みを少し浮かべてくれると
気恥ずかしげに俯いてしまい その姿をみた十年後の僕なら
「きたか…!! ガタッ 」くらいの小芝居をうてるのだが
この時の僕は彼女のその佇まいに ただ見惚れるばかりだった
そんなドラクエで言えばメダパニ状態でも
飯島先生の「じゃあ空いてる席に・・」と
言う言葉を聞いた瞬間に「先生 僕の隣の席が ガラ空きです!」と
すぐさま反応できた自分に拍手を送りたい
そうやって転校生(美女)と沙智(野獣)をトレードする事が出来た僕は
僕の隣に来てくれた彼女と如何にお近づきになるか
頭を捻るのだった