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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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転校初日

「いったい何て答えればいいんだろう・・・」


転校初日の放課後 夕方近く日も落ちてくると 

ほんの少し風が涼しくなった小学校の非常階段で

志保子は今しがた自分に少し上擦り緊張した声で


「結婚を前提で付き合ってください」と伝えてきた

同じクラスの男の子の姿を ゆっくりと見つめ直す


下を向き両手の拳を握り締め 

目をぎゅっと瞑って自分の返事を 緊張した面持ちで待っている彼は 

志保子より頭ひとつ分大柄な体格に すっきりと刈り込まれた短髪

細面で人好きする なかなか整った目鼻立ちをしており 

肌は日に焼けて真っ黒に日焼けしている


そしてTシャツと半ズボンから出ている両の肘や膝には 

あっちこっちに絆創膏が貼られており 如何にもやんちゃな感じのする

元気を絵に書いたような男の子だった


教室では隣の席に座る「田口 あや」と呼ばれる男の子である

隣に座るというか 自己紹介の後 担任の飯島先生が

「じゃあ空いてる席は・・」と教室を見渡していたとき

教壇向かいの一番前の席に座っていた彼が

「先生!僕の隣の席が がら空きです!」と元気よく手を挙げて答えたのです


彼の隣に座っていたツインテールの女の子が ジト目で

「私が座ってるんですけど・・」と言う声に

「お前のせいでドンこ出来なくなったんだから責任取れよ~」と言い返すと

それを聞いた他の男の子たちも「そーだーそーだー!」と騒ぎ出しました


するとツインテールの女の子の 味方になるべく他の女の子たちが

あやと宮田が 危ないことしてるのが悪いんじゃん」や

「加護ちゃんなんか 鹿島にボール当てられて鼻血でたんだからね!」と

言い出すとクラス中が大騒ぎなのです


前の学校では いじめられるという程では無いのかも知れませんが 

腫れもの扱いでクラスメイトとも 上手く会話も出来ずにいた私は

新しい転校先でも同じようになるんじゃないかと 緊張し怯えていたのですが

こんな展開は予想できず少々困惑してしまいます


大騒ぎの教室で騒ぎの発端となった田口くんの 顔に恐る恐る視線を向けると

私の視線に気が付いた彼は とても人懐っこい笑顔でニッコリと微笑んでくれ

緊張で強張っていた私の表情も 釣られて思わず綻んでしまいました


飯島先生が「静かにしろー!」と大声で叫び 少しずつ静かになっていく教室で

私はどうして良いか分からずに戸惑った視線を先生に向けると

先生は私が右手に持つ歩行杖に目をやると 一つ頷きながら


「そうだな じゃあ鈴木は机の中の荷物を持って

後ろの空いてる席に移ってくれ」と伝えると

鈴木さんは「面倒くさいなぁ」とか「あやのバーカー!」と

言いながらも 荷物を抱えて空いてる席に向かおうとするのです


「すいません あの・・私のせいで」と思わず声を掛けると 

鈴木さんはちょっと驚いた表情で私を見ると

「気にしないで このバカうるさいからこれから大変だよー」と

朗らかに笑ってくれたのでした


そして「バカって言う方がバカなんですぅー!」という田口くんに

軽くキックする振りをして そのまま後ろの席に向かって行きました


座っていいのか分からずに戸惑っていた私に田口くんは

「志村さん 座らないの?」と聞いてくれたので

「あっ・・はい・・」と小声で返事を返すと緊張しつつ席に座りました


「これからよろしくね 志村さん」と笑顔で言ってくれた田口くんに

「よ よろしくです・・・」とまた小声で答えた私は

荷物を机の中にしまいながら 以前の事を思い出してしまいました


前の小学校では席替えで私が隣の席になると

少し嫌そうな表情をした子が多かったのに・・


その苦い思い出に少し表情を暗くしていた私に田口くんは

「分らない事があったら何でも聞いてね!その・・勉強以外で・・」と

言葉の前半の明るく言い切る元気な声と後半の少し口篭った その優しい口調に


自分の思いで落ちかけていた私の表情も

先程 彼と視線があった時のように つい明るく綻んでしまいます


嬉しくなった気持ちで ほんの少し先程よりは大きな声で

「その 宜しくお願いします」と伝えると 


彼は笑顔で頷いてくれたのでした



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