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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
31/126

下着泥棒の素質

血湧き肉躍る気持ちで 階段を駆け上がりたい気持ちを抑えつつ

慎重かつ冷静に私はゆっくりと四階へと階段を上がりきる


「ついに来ました女子寮探索 しかもその数 十六個室!」


そんなテレビの年末特番を見るような気持ちで

四階の中央ホールに立って周囲の安全を確認すると

男子寮の個室での探索の適当さは ここでは通じない事を肝に銘じて

じっくりと真摯に探索しなくてはと心に引き締める


そして私は、何かバトル漫画のチーム戦で相手チームから

怪しげな風貌で不思議な技を使いそうな 得体の知れない敵が出てきて 

こちらからは誰が出るか!のシーンで「ここは俺がいかせてもらうぜ!」と

仲間の返事も待たずに 勝手に試合場のリングに上がる

主人公チームの脳筋役のキャラのような気持ちで 勇ましく足を踏み出す


今なら脳筋くんの気持ちも少しは分かる きっと彼は戦いたくて

ウズウズしていたのだ

今の私もそうだ 女子の部屋を漁りたくて ウズウズして仕方が無いのだから


そうして私は浮き立ち心で弾む足取りを何とか抑えつつ 

一応は慎重に周囲を警戒しながら 女子の個室調査に乗り出したのだった


しかし・・探索を開始して十五分ぐらい経った頃には 

男子寮を探索していた時よりも室内の調査は むしろ適当になり 

やる気も情熱もFF14のプレイヤー数並に ただ下がりである

今も「私はFF14を続けるよ!」の精神で何とかこなしてはいるのだが・・・


もちろん最初は、ワクワク気分で室内に設置された 衣装タンスを見つけては


「おお・・麻里子ってロリ顔なのにこんな巨乳なのか・・」とか

「ウホッ・・明美ってこんなキワどいパンツ履いてるんだ・・」など


下着が収納されている棚の中を念入りに漁りながら 

レクレーションルームのコルクボードに 貼られていた写真に写っていた

それぞれの女性の顔を思い出していたのである


そしてそれらを手に取って 眺めたり広げて引っ張ったりしていたのだが

良く考えてみなくても 私は色っぽい下着を身に着けた

女性本人の肢体が大好きなだけで 色っぽいブラやパンツそれ自体が

大好きな訳では無いのである だってただの布だし・・


どうやら下着泥棒の素質は私には無いらしい


これがもし自分の大好きな女の子なら話は違う

そう私であれば志保子が履いていたパンツなら

もっとそれらしい反応をするであろう


臭いを嗅いだり舐めてみたり なんだったら頭に被るかも知れない


「こんな事なら志保子と別れる前に 一枚くらい貰っておけば良かったな・・」

などと彼女との綺麗な思い出を 台無しにするような事を考えつつも

無職から下着泥棒への転職に失敗した私は 一応は室内調査を続ける


だが化粧水や香水とか どう使うのか良くわからない化粧道具が多い

女性の部屋では私が興味を引く物は特に無いので 

男性の寮室でそうした様に本棚を漁る事にした


何冊か面白そうな女性漫画を見つけたので 手持ちのバックにしまっていると

漫画を無理に取り出そうとして 同じ棚にあったノートを落としてしまい 

拾い上げ中を見てみると部屋主と その彼氏との交換日記のようだ


書かれた二人のやり取りを見て湧き上がる憎悪に身を任せて

破り捨てゴミ箱に放り込もうかと思った時

ノートの端っこに書かれた文章が目に付き

そういえば志保子とも こんな風に授業中にノートの端っこに

メッセージを書いてはやり取りしていた事を思い出す  


そして私は彼女と ノートの端っこでやり取りする始まりとなった

彼女との最初の出会いの追憶を少しだけ思い出したくなり


目を瞑るのだった



同じ頃・・・・市内にて


志保子は照明の落とされた薄暗いコンビニのバックルームで

事務机の前に置かれた椅子に腰を降ろしながら 手に持った単行本を眺めると 


小学校入学から転校し彼に会うまでの 疎外感に満ちた学校生活と

母が泣いていた理由に気が付き 自分さえ生まれてこなければと

大好きな母にさえ心を閉ざしていた日々を思い出していた


落ちて暗くなる気持ちのまま 単行本をダンボール箱に戻そうと

体を傾けると 手に持っていた歩行杖が事務机に置いてあった

書類の束に当たり それらを床に撒き散らしてしまう


溜息をつき 床に屈んでそれらを拾い集めていると一冊のノートが目に入る


ノートの表紙には「連絡帳」と書かれており

興味を持った志保子は中を覗いて見る事にした


ノートの内容の殆どは シフトの交換のお願いや注意事項の伝達であり

興味を失いノートを閉じようとすると

ノート端っこに書かれたメッセージが目に止まる


そういえば・・・そう「彼」とも良くこうやってノートの端っこで

授業中にメッセージのやり取りしていた事を思い出す


思い出した暖かい記憶で落ちて暗くなった気持ちを温めたくなり 

「彼」との思い出を思い出す時 何時もそうするように


志保子は目を閉じたのだった



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