彼女の制服姿
冬から春へと少しずつ変わる気配を感じる
小学校を卒業し中学校に入学する前の冬休みのある日
前の日に届いた真新しい学生服に袖を通しズボンを履いた僕は
姿見用の大きな鏡に映る自分の姿を眺めて少し顔をしかめる
サイズが大きいのもあるが着ているというよりも着せられている感が強い
「笑われないだろうか・・・」
少し不安を感じながら時計を見ると待ち合わせの時間が迫っている
急いで玄関に向かいピカピカの革靴を履くと家を出る。
肌寒い外の空気に首をすくめつつ
今から志保子に会えると思うと心は暖かくなっていく
そして彼女の事を考える彼女のセーラー服姿はどんな風だろうと
艶やかな黒髪と目鼻立ちが整った美しい顔立ち 小柄で華奢な体付き
そしてあの透き通るような白い肌には きっと凄く似合うと思う
そんな事を考えながら待ち合わせ場所の公園につくと 先に来ていた彼女は
ベンチに座り茶虎柄の猫を膝にのせながら その背中を撫でている。
「あの野郎また志保子に甘えやがって・・」と茶虎猫をコンビニ袋に詰め込んで
オリンピックの砲丸投げ選手のように「遠くへ遠くへ飛んで行けー!」と
したくなる気持ちをグッと堪えて 茶虎への憎悪に歪んだ自分の顔を
「きれいな田口くん」に切り替える
僕に気がついた彼女は何時もそうするように にっこりと微笑み
「こんにちわ 文くん」と僕の名前を呼んでくれる。
僕も彼女に挨拶をしベンチに近づくと そんな僕に彼女は片手で
「待て」のポーズで動きを止めてくるので 調教済みの僕はその言い付け通り
行儀良く「待つ」の姿勢で彼女の前に待機する。
すると彼女は僕の少し着慣れてない制服姿を ファションチェックをする
ピーコのような表情をして眺めてから 僕にベンチに座るように促してくる
「お眼鏡に叶うかしら・・・」と ちょっと緊張しつつ気恥ずかしさで
顔が赤くなっているのを感じながら 少しだけ間をあけて彼女の隣に座る
そうすると彼女は何時もそうする様に 二人の隙間を埋めるように
こちらに近づいて来てくれる。それが僕は大好きでワザとそうしてしまうのだ
そして彼女は僕の右手の甲の上に その白く華奢な左の手の平をのせ
僕の耳元に顔を寄せると いつもの柔らかい声音で
「良く似合ってるね・・大人っぽい・・」と囁いてくれる
他の誰に言われるよりも 彼女の言葉でそう言われると僕は心から嬉しくなる
僕に尻尾があったら 空飛ぶ勢いで振りまくるだろう
褒めて貰えたお礼を彼女に伝え僕も彼女のセーラー服姿を褒める
本当に似合っているのだ これならコレからのプレイも更に捗るだろうと
邪な想いに浸りながらも 彼女を褒めた自分の言葉に不満を感じる
読書が趣味なので 年の割にかなり本を読んではいるのだ
そして女性の美しさを褒める言葉も色々と知ってる筈なのに
彼女を前にすると上手く言葉が掴めずにどんどんすり抜けてしまう
そんな僕の拙い言葉でも彼女はとても嬉しそうに喜んでくれる
今だって彼女は僕の言葉に頬を赤らめて 可愛い仕草で何かを答えてくれている
だがその言葉は僕には聞こえない 周りがとても五月蝿いのだ
あまりの五月蝿さに声が聞こえる後ろに振り向くが そこは真っ暗である
大勢の人が何かを叫んでいる 女性の悲鳴と子供の泣き喚く声が聞こえ
車のクラクションの音とガラスが砕けるような音が響き
そして何かがぶつかる衝突音がする
驚いて彼女の方に振り返ると 彼女の姿もその膝に乗って欠伸をしていた
茶虎の姿も居なくなっている
もう何処を向いても真っ暗で何も見えない
そうだここは現実じゃない 志保子がいるならばそこは夢なのだから