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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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出来損ない

志保子は手に取った「女の子の食卓」のページを捲るたびに思い出す

「彼」との記憶で、暖かくなっていく胸に手を当てながら そういえば彼は

この本を読んでから 自分でも少女コミックを買い出すようになったので

少年漫画に回すお金が無くなったと 笑っていた事を思い出す。


そしてもう少しこれを「彼」と一緒に読むことが出来る切っ掛けとなった 

初めての頃を思い出そうと目を瞑って思案する。


志保子の両親の離婚が決まり、母に引き取られることが決まった

当時、小学校五年生だった志保子は、それまで住んでいた父の実家でもあり 

福島県いわき市の小名浜にある 豪邸と呼んで良いほどの広大な敷地を持つ屋敷

から、母の叔母である清子おばさんが住む 茨城県日立市の石名坂にある

叔母さんの経営するスミレコーポ102号室に、

その日、初めて足を踏み入れた。


他人の家にあがった経験が皆無な志保子は物珍しさも手伝って 

以前の屋敷とは違い三部屋しかない室内をゆっくりと見て回る。


叔母の話によると、このアパートは新婚夫婦などが主なメインの

ファミリータイプと呼ばれるアパートで 間取りはかなり広いらしい。


叔母の言葉に頷きながら、

志保子は前の住人が書いたのであろう落書きに微笑み、

多分背比べの跡だと思える 柱に入った切れ込みの横に並んでみたりしていた。


すると「じゃあ志保子ちゃん おばさんそろそろ帰るからね」と

アパートの玄関先で母と話してた清子おばさんが 志保子に声をかけたので

志保子は礼儀正しくお礼を伝えると頭を下げる。 


清子おばさんは 一つ頷くと「またね」と笑顔で帰っていた。


アパートの門先まで叔母を見送った母が 部屋に戻ってきて扉を閉めると

その音で振り返った志保子に「ごめんね・・お家 狭くなちゃって」と 

悲しそうな表情で申し訳なさそうに謝ってくる。


志保子は勝手が利かない足で、それでも出来る限り急いで母の傍にいくと 

母の痩せて細くなった手に優しく触れて 申し訳ない気持ちで一杯になりながら

「ありがとうお母さん 御免なさい私のせいで・・」と謝る 


そんな志保子を母は胸元まで引き寄せて 優しく抱きしめてくれると

「志保子のせいじゃないよ お母さんが悪いの御免ね」と謝りながら

「これからは一緒に 頑張っていこうね」と笑顔を見せてくれた


母の笑顔は嬉しい。 


何故なら母はこの世で唯一の志保子の味方なのだから

でもそんな母から笑顔を奪っていたのは 紛れもなく志保子自身だった。


「出来損ない」 


その言葉を思い出し「彼」の記憶や 母と叔母との思い出に

暖かくなっていた心が 急激に冷えていくのを感じ 

手の持っていた単行本を取り落としそうになる。

慌てて単行本を掴みなおすと 息を整え


また目を瞑る



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