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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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ワンピース

玄関付近まで戻ってきた私は 玄関手前にあったロッカーの影に

戦利品もとい重要参考物 もしくはONEPIECEを置く


「ONEPIECE」私がたしか幼稚園のときに始まった 

少年ジャンプに掲載されている。ひとつなぎの大秘宝ワンピースを巡る

海洋冒険ロマン漫画である。


持ってきた戦利品の内容から考えて大秘宝ワンピースと名付けるのも

大げさかもしれないが まあ気分である


「ONEPIECE」が私の同年代の間でも 人気が出てきた小学五年生の頃

宮田くんの家で十巻までは読んだのだが その後も単行本を集め続けた彼に

この漫画の素晴しさを知らないなんて 人生損してると 負け犬ならぬ

負けあや扱いされても 何故か機会がなく読ずじまいである。


どうして読まなくなったのだろうと 考え思い出してみる。

十巻までだが かなり楽しく読んでいた記憶はあるのだが・・・


記憶を探ると少しずつ思い出す。


夏休みに入って確か三日が過ぎた頃だったと思う 

前日に夏祭りにクラスメイト達と参加して 夜更しをした為 遅くに起床し 

母親に片付けが出来ないと 怒られながら朝ごはんを食べ終わると 

前の日に夏祭りで約束していた宮田くんの家に 遊びに行った時の事である


ゲームをしたり漫画を読んで遊んだ後の帰り道

夕方近くになっても 少しも涼しくならないジメジメとした夏の道を

お土産にもらったスイカバーを 齧りながらテクテク歩いていると

僕の前を歩く白いワンピース姿の女の子を見つけた


片手に歩行杖を持ち 右足を軽く引き摺るようにして歩く その後ろ姿は

僕の知っている 僕が大好きな女の子だった。


後ろから名前を呼ぶと彼女は 少し驚いた感じで体を強ばらせたが

こちらに振り向いて僕の顔を確認すると とても素敵な笑顔で


「こんばんわふみくん」と僕の名前を澄んだ声音で呼んでくれる

「こんばんわ志保子さん あと僕の名前はふみじゃなくあやだから」と


本当は彼女だけに そう呼ばれるのがとても嬉しいのに 

僕は照れ隠しで口を尖らせてつい抗議してしまう 


「それなら私だって志保子さんじゃなく 志保子だよ」と

彼女は笑って 悪戯っぽく微笑む。


「それに・・」と言葉を繋げて顔を傾げながら

ふみくんって何か呼びやすくて好きだな」と言うと

「それとも あやくんのほうが良いかな?」と上目遣いで尋ねてくる


その年の割には落ち着いた雰囲気の 彼女の表情と声音で

「好きだな」などと言われると それがただの名前の呼び方がという意味で

言っているのは分かってはいるのだが とてもドギマギしてしまい 

自分でも分かるくらいに動揺し上擦った声で


「好きに呼んでいいよ・・」と ボソボソと答えてしまう


そうすると彼女は目元を綻ばせ 口元には少し悪戯っぽい笑みを浮かべると 

両手を合わせてこれで決まりみたいな感じで


「じゃあ ふみくんで!」と にっこりと微笑む


僕は照れ隠しでワザとぶっきら棒に「ハイハイ」と返事をし

気恥ずかしさで絶対赤くなってる顔を 見られるのが恥ずかしくて俯くと 

彼女の左手に買い物袋がぶら下がっているのが見えた


「おつかいの帰りなの?」と 袋を見ながら尋ねると

彼女は嬉しそうに買い物袋を少し上にあげて

「今日はね 本を買ってきたの!」と答えると

中身を僕に見せようとするが 歩行杖が滑り少し体勢を崩しそうになる


慌てて手を伸ばし彼女を支えようと 触れた二の腕はとても滑らかで

この暑さの中でもベタつきもせず ほんの少し冷たさを感じさせる程だった


汚い手でとても綺麗なものに 触れてしまったような罪悪感で

自分の手を半ズボンの後ろに隠すようにすると

彼女はそんな僕の腕にそっと手を添えると 僕の肩に頭を当てて

「ありがとね」と少し俯きながら小声で伝えてくれる


そうして少し周囲を眺めて公園のベンチを見つけると 

「少し座って話そうか」と尋ねてくる


そうだった彼女には 普通に立っているのも一苦労なのだ。


彼女にたまたま会えて 浮かれていたので気が付くのが遅かった

そんな自分の気の利かなさに 思わず赤面しそうになっていると

彼女は僕の二の腕に添えていた手を そのまま下にさげて

僕の右手の平を軽く掴んでくれる


「足・・・平気?」と尋ねると


「ありがとう 今日は調子いいから 平気」と 彼女は微笑みながら答えて

「でも転んだら嫌だから・・手は握っていてね」と付け足す


ほんの少し僕も彼女の柔らかな手を握り返し


二人でベンチの方へと足を向けたのだった







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