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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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日本人の防犯意識の高さ と ワンパン余裕

意気揚々と謎に満ちた現状の打破に 検証が必要な物資をこの手に

レクレーションルームを後にした私は少々緊張していた。


夏の暑さもあるが汗は頬を伝い

緊張で乾いた口内を唾液を飲み下す事で 少しでも潤そうと試みる。


荷物を抱えた両手の先も 少しだけだが震えているかも知れない

周囲の物音にレクレーションルームに入る前よりも ずっと集中して耳をすます

緊張の理由はわかっている。明らかすぎるといっても良いと思う。


それはレクレーションルームに入る前の「なにか」に遭遇したら

どうしようという緊張感ではない。

レクレーションルームから出た今は「だれか」に見つかったら

どうしようという緊張感なのである。


「はわわ」と言い出しそうになる「おかしい・・・おかしいぞ・・」と思う。

私が此処に訪れた理由は 元々は「だれか」を見つける事だったはずである。


不思議な事もあるものである。


「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」と

いう言葉がある。


アパート(会議室)で考えていた事が 現場(会社の寮)に来た事で

予想とは違った展開になることは致し方ないと思う。

むしろ臨機応変に的確な対処している自分を褒め称えたくなる。


固定観念というのは危険なものである。


「あれはダメ これは良い」

などというのも社会秩序を維持するには 必要な事なのは理解できるが 

そもそもその社会が どうなっているかわからない現状である。

ルールに縛られ過ぎても仕方ないのである。


そしてルールに縛られ過ぎるで思い出した事がある。

夜中にコンビニに行こうとアパートを出て ちょうどこの寮の前を通り

その先を右に曲がり大きめの十字路に出た時である。


夜中の二時過ぎ見通しの良い十字路なので 前後左右を確認すると

全く車が走っていない。


信号は赤だったが まあ平気だなと渡り始めた時である。


「なにやってんだぁ おめーわあああ!!」と大音量で絶叫しながら

私の対面 反対側で律儀に信号待ちをしていた 四十歳前後のおばちゃんが

飛び跳ねながら迫ってきたのだ。


私の前に立つと飛び跳ねながら「信号が!だろうがああ」と

呂律の回らない口調でよだれを垂らしながら 大声で怒鳴りつけてくる

最初は酔っ払っているのかなと思ったが 特にアルコールの臭いもしないので 

その事実がさらに私を恐怖させる


「素面でこれだと・・」と慄き なんとか宥めてその場を離れようとする。


何故ならつい今しがたまで真っ暗だった近所の家々の窓に

明かりが次々と灯っていくからである。


気持ちは良く分かる。


私だってこんな時間に大音量での怒鳴り声が聞こえたら 

何事かと電気をつけて周囲を確認するだろう。

日本人の防犯意識の高さに 思わず乾杯したくなるが

だが確認する方ならともかく される方の立場はちょっと困る


何を言っても聞こえて無いのか そもそも聞く気が無いのか

更にエスカレートしていくおばちゃんのテンションに

私は怯えダッシュでコンビニのほうに走り出す。


アパートに戻りたかったが住所がバレたら大変である。


私は別に体格が良い方ではないが それでもおばちゃんに比べれば

大柄の方である。殴ったり蹴ったりすれば 黙らせる事も出来るかも知れない

ワンパン余裕と思う人もいるかと思う。


だがちょっと待って欲しい 


目が血走り(暗いので多分)口からよだれを垂らし(ちょっとかかった)

大絶叫を繰り返し(徐々に音量アップ) 腕を振り回しながら 

ずっとぴょんぴょんしているおばさんに 貴方は触れたいと思うだろうか 

私はとても思わない


嫌な事を思い出してしまった。


先程とは違った意味で汗が噴き出す。

思い出してみるとあの日も季節は夏だったように思う

暑いし 湿っぽくジメジメするし 碌なもんじゃないと思う


だがしかし と思う。


あの体験を乗り越えた私なら 現状の困難もきっと乗り越えられるはずである。

意味がわからない自信を新たにすると 


私は次の一歩を踏み出したのだった







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