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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
125/126

彼女に貪欲な僕

海から吹く風のおかげで 大分涼しくなった祭りの夜


一緒にお祭りに訪れたクラスメイトの宮田くんや沙智達に

志保子さんと二人ではぐれる事を携帯電話で伝えた僕は 

そんな僕の言葉に少々困惑気味の彼女を連れながら 

他の買い物客に混じって屋台で買い物を済ませると 

人混み溢れる花火会場に向かう通りから 

横に逸れ灯台のある古房地公園へと足を運ぶ


本当は他の見物客がそうするように 海に浮かぶ船から打ち上げられる花火を

すぐ間近で見られる港で 彼女に花火を見せてあげたい気持ちはあるのだ


だが会場に向かう道すがら 宮田くんや高久くん達が

志保子さんに その美しい浴衣姿を褒める弾んだ明るい声と

その言葉に照れながらも笑顔でお礼を伝える彼女の声が耳に入ると

それが無性に僕の癇に障って 他の男子と引き離したくなり

なかば強引に彼女を連れ出してしまったのである


初デートの水族館の帰り道 


僕の下らない嫉妬心と独占欲で彼女を困らせてから 

その時のみっともない自分の振る舞いを深く反省して

学校での授業の間の休憩時間で給食の時間や放課後で

彼女が自分以外のクラスの男子と会話をしていても

僕は何も気にしていない素振りをしていたのだが 

其の実 頭がおかしくなりそうなくらいの嫉妬で

胸が一杯だったのである


またやってしまったと思い自分を責める気持ちで胸があふ

自分が誰かに こんなにも執着する人間だった事に 

ひどく戸惑いを覚えながら そのどこにもやり場のない気持ちを

彼女や他の誰にも悟られないように 精一杯振舞うのだけれど

抑えても抑えきれない感情で胸が苦しくなる


みんなとはぐれた事に戸惑っている志保子さんに

「僕と二人きりは嫌なの?」と

彼女の戸惑いの意味をちゃんと理解しているのに

更に彼女を困らせる言葉を投げてしまう自分を殴りたくなる


そんな身勝手な僕にも彼女は少しだけ困った笑顔で

「私も二人きりが良いよ・・」と優しく伝えてくれると

自分の巾着から携帯電話を取り出し 

沙智に電話を掛け はぐれた事を謝りながら 

ここからは僕と二人きりになりたいからと伝えて

もう一度謝ると電話を切ったのである


そして彼女は僕を優しい声音と口調で 別行動をするなら他の皆が

心配しないように その事をきちんと伝えないとダメでしょ?と叱りつつ

歩行杖の代わりに掴んでいる僕の腕に 小さなおつむを擦りつけながら

「でも二人きりになりたいと思ってくれてありがとう」と囁いてくれる


その彼女の言葉に 彼女に貪欲な僕は ゴメンなさいと謝りながら

「ありがとうと言ってくれて ありがとう」と

嬉しくて堪らなくて どうしても震えてしまう声で


伝える事しか出来ずにいたのだった



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