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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
123/126

はぐれてしまう と はぐれたい

夢の中でこれは夢だと気が付く事がある


自分の部屋で目の前に座っている 生まれて初めて出来た同性の友人である 

幼い日の沙智ちゃんや友美ちゃん達 クラスメイトの質問に 

当時のように照れながら答えている自分に懐かしさで口元が綻ぶ


そして多分これは皆で行った初めての夏祭り 

その準備をしている光景だと考えながら

記憶を巻き戻しているのか それともいまだ夢の中なのか曖昧な

温かい映像に自分の心が安らぐのを感じるのだった


「志保ちゃんて あやの何処が良くて付き合おうと思ったの?」

あやとは どこまでしたの志保ちゃん?」


クラスメイトの沙智ちゃんや他の女の子達の そんな明け透け質問に 

私は何と答えたら良いのか見当もつかず 顔を真っ赤にして戸惑ってしまいます


そんな困惑して言葉につまっている私を見て

「でもさ あやって顔も割と良いし なんだかんだで優しいじゃん」と

教室で後ろの席に座っていて良くお喋りするようになった

友美ちゃんが助け舟を出してくれたのです


・・と思ったのですが


友美ちゃんは後ろから急に私のお腹に手を回し抱きつくと

私の頬に手を添えて唇を寄せてキスする素振りをしながら

「もう、こんくらいの事はしちゃったのかな?」と

目元に笑みを作って 楽しげに尋ねてくるのです 


そんな友美ちゃんの行動に 慌ててしまった私は思わず

「そ・・そこまでは・・まだ・・」と うっかり答えてしまい

その言葉を聞いた皆は もの凄く盛り上がってしまいました


「そこまでは・・・て事は 手前まではしたの!?」と

更に追い打ちが掛かり 皆に囲まれて私の答えを待っている

そのわくわく感が全開な楽しげな表情に 

どうにも逃げられなくなった私は 心の中であやくんに謝りつつ 


「抱きしめてもらったり・・あと抱っことか・・」と答えてしまうのでした


そう答えた私に 皆がどんどんとにじり寄って来て

更なる細かな質問攻めにあってしまい困っていると 

ちょうど間の良い事に来客を告げるチャイムが鳴り 

男の子達が迎えに来てくれた事を知った私達は

慌ててお出かけの準備に戻るのでした


そうして皆の着付けのお手伝いをしていた私は少し出遅れてしまい 

待たせてしまった事を謝りながら玄関先に出ると 

そこには色味を抑えた灰地に白の縦縞柄の浴衣を身につけた 

大柄で男の子らしい姿の あやくんが立っているのです


そのなかなかに凛々しい浴衣姿を見た私は

嬉しくなり思わず笑みが溢れてしまいました


私はあやくんと何時ものように 彼に会うと自然に溢れてしまう笑顔で

こんばんわの挨拶をして 他の男の子たちとも挨拶を交わしていると

それを遮るように自分の前に立った あやくんに少し驚いてしまいました


そうして普段、人前では照れ屋さんで 

何かにつけて彼にくっつきたがる私を抑え

二人きり以外の時は「おあずけ」をする彼からは 思いもしない嬉しい提案に

私は他の子達の目もはばからず おずおずとではありますが

その男の子らしい太い腕に 自分の腕を回してしまうのです


皆の前で腕を組み その気恥ずかしさでお互いに顔が真っ赤な私達


少しだけ沙智ちゃんや友美ちゃん達に冷やかされながら 

花火が良く見えるという海岸まで向かうのでした


みんなで連れ立って歩く初めての夏祭りは とても楽しく心が浮き立ちます


考えてみれば私がお祭りに出掛けるのは 福島にいた頃に母と一度だけ 

ようやく祖父から許しを得て参加した時以来なのです


そのたった一度でさえも 

祖父に告げられた時間を気にする母に手をひかれて

ゆっくりと祭りの雰囲気を楽しみ余裕もなく

忙しなく屋台で買い物をして終わってしまったので 

こんな風に好きな男の子に寄り添いながら

仲良くなれた同級生と周るお祭りが楽しくないはずがありません


皆で屋台を冷やかしながら たわいもない会話をすることが出来ている

その事がそういう経験がまったくない私には 心が躍る体験なのです


そうして どうしても少し遅れがちになる私を 

皆は自然にお喋りをしながら待っていてくれるので

出来るだけみなを待たせないようにと頑張って 

自分なりに急ぎ足をしようとするのです


ですが その度にあやくんに歩調を抑えられてしまい 

もう少しなら速く歩ける事を彼に告げ 

「はぐれちゃうから急がないと・・」と訴えて

一生懸命に急かそうとしたのですが

そんな私にあやくんは困ったような表情と口調で

「はぐれちゃうじゃなく はぐれたいんだけど・・」と

自分がもし犬だったら きっと嬉しさのあまり

尻尾をぶんぶんとふってしまうような事を伝えてくれるのです


彼から普段の冗談めかした口調とは違い 

たまにこうやって「きちんと」恋人らしい事を告げられると

その手の事にまったく慣れていない私は 

どう反応して良いのかわからずに

ついつい照れ隠しで俯いてしまいます


そんな私の頭を彼は優しい手つきで撫でてから

「なので少しはぐれるね」と声を落として囁きながら

手荷物が入った包風呂敷から携帯電話を取り出して 

沙智さんに電話を掛けると

「今 どこにいるのー?」との沙智さんの声に

少し休憩をしてから そちらに向かうと告げるです


そうして私達を置いて先に行っててくれと彼女に伝えると 

まだ何かを喋っている沙智さんの声が聞こえる


携帯の電源を切ってしまうのでした



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