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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
122/126

ハリボテ女子

太陽さん絶好調の蒸し暑い日が続く七月最後の週末 


夏祭りの当日、日も大分傾いて多少だが涼しくなってきた夕方 

邪悪と卑劣の化身である「愉悦部」二人の言葉で男子は僕の家に 

女子は上手に浴衣の着付けが出来る志保子さんの家に集合してから

男子が女子を迎えに来るべしという 強制エスコートな指令を受けた僕達は

待ち合わせの時間が近づいて来たので 皆で連れ立って家を出る


志保子さんが転校してきて はや二週間

この頃にはクラスメイトの大半が 僕と彼女の関係に気づいており

授業中や休憩時間に場所も弁えず 二人でいちゃこらしている姿を

いい加減みんなも見慣れたせいか 最初の頃には多少はあった

からかいや冷やかしも大分無くなり

僕と志保子さんは誰にも邪魔されない平穏な日々を過ごしていた


そしてやはりというか志保子さんを可愛いと感じていた男子は多かったようで

転校初日の放課後に そんな彼女を光の速さで口説いた僕は

クラスの男子から その手際の良さを羨ましがられていたのである


どうやって物静かで大人っぽい志保子さんを口説いたかを尋ねられ

それはただの雰囲気で 実は中身は甘えたがりでお子ちゃまの 

意外におませな事を知っている僕は苦笑しながらも

いきなりプロポーズしたとは流石にいえず言葉を濁すのだった


みんなが知らない志保子さんの一面を 

僕だけが知ってるのは とても嬉しく感じる


そんな事を思いつつ志保子さんの家に向かう道すがら 

沙智と友美の浴衣姿を楽しみなのか 

身悶えて悶絶寸前の宮田くんと鹿嶋くんの

相変わらず正気とは思えないトリップ状態を何とか宥め

到着した志保子さんの家のチャイムを鳴らすと 

室内から「もう来ちゃったー!」などと沙智や友美の声が聞こえ

「お前らがこの時間に来いといったんだろうが・・」とつい愚痴りたくなる 


しかし扉越しに呼んでも なかなか出て来ないので 

どうして良いかわからずに戸惑っていると 

玄関扉のそばの台所の窓が開いて沙智が顔を覗かせ

「早過ぎだよ あや!」の

その身勝手な言葉に僕は顔をしかめるのだった


「お前がこの時間に来いっていったんだろうが・・」と僕が言い返すが

「女の子は準備に時間が掛かるんですー!」や

「ほんと気が利かないんだから・・」など

やれやれな感じで罵ってくる 人を小馬鹿にした沙智の邪悪な顔を

「ぐぬぬ・・」な感じで見つめていると

その横から ちょこんと申し訳なさそうな表情の 

可愛いらしい顔を出した志保子さんが 困ったような声音で謝ってくる


もちろん僕は 沙智に対してとは打って変わって

「待ってるからゆっくりで良いよ」と

表情を柔らかくして優しい口調で伝える


対応が違いすぎると沙智の怒声が聞こえたが 

当たり前のように聞かなかった事にしていると

何を勘違いしたのか高久くんが兄貴スマイルで

「仲良いよね あやと鈴木さん」と伝えてきて

その横では宮田くんが

あやいいな・・鈴木さんに罵られて・・」と

羨ましがる方向が斜め下の発言に 

「そ・・そうかな・・」と僕も言葉が詰まるのだった


そんな会話をして待っていると やがて玄関扉が開き室内から

志保子さん以外の女子達が その中身とは正反対の 

悔しいが見目は大変よろしい浴衣姿で現れる


そのハリボテ姿に感嘆の声をあげている見る目の貧しい僕以外の男四人に

女のプライドを満足させてる「ハリボテ女子」の沙智や友美には見向きもせず

僕は志保子さんが なかなか出て来ない事を気になり室内を覗く


すると無反応な僕に気分を害したのか 

沙智と友美が僕の浴衣の袖を乱暴に引いて

あや 何かいう事あるんじゃない?」と

褒め言葉を強制してきたのである


なので仕方なく 見た目と中身が釣り合ってる山岸さんと菊池さんを

「二人とも浴衣姿が可愛らしくて とても似合ってるね」と褒めつつ

沙智と友美には「何かおしとやかな雰囲気だね」と褒めたように見せ掛けて

僕のその言葉が意外だったのか 顔を見合わせて照れてる二人に

「足りない部分を補っていく そのスタイル嫌いじゃないよ」と

伝えると怒った二人に蹴りを入れられたのだった


そんな感じでアパートの玄関口で皆で戯れあっていると 

見た目だけのハリボテどもとは違う 

本物の和装美人の志保子さんが遅れた事を謝りつつ姿を見せる

僕の視線は吸い込まれるように彼女の姿を見つめてしまう


普段は降ろしている艶やかな黒髪を軽く結い上げて纏めて

つまみ細工の小さな髪飾りで 纏めた髪をあでやかに飾っており

白地に品の良い黒の花筏文はないかだもん柄の浴衣姿の彼女は

余りにも可憐で 普段の和装姿を見慣れている僕でさえも 

思わず見入ってしまうのである


他の男子達も学校では見ない彼女の美しい和装姿に見惚れているのか

ぽかーんとした表情で志保子さんの艶やかな姿を じっと見つめており

それがとても僕の癇に障り 彼らの視線を遮るように前に出る


そして「今日は 人混みがすごいから杖を使わず僕に掴まって・・」と

普段なら恥ずかしくてなかなか言葉に出来ない事を伝えると

志保子さんは頬を薄く染めながらも おすおずとした感じで


僕の左腕に自分の細い右腕を回してくれたのだった



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