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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
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僕タワー

自分の右手の甲に落ちてきた志保子さんの涙の雫に

僕は慌てて彼女の白く滑らかな太腿に伸ばしていた自分の手を引っ込める


また泣かせてしまったのだろうか・・と思いつつ

コレまでの自分の行動を振り返る


僕は週に二日は 姿見を使った鏡プレイと言葉責めの混合羞恥技を駆使しては

彼女の羞恥心を高めさせ半泣きさせては慰めてを繰り返し 

その可愛い泣き顔を堪能しながら 上手く言葉巧みに宥めて・・と

自分の誠意の欠片もない行動を思い出す 


それでも上手くいっていたと思っていたのだが

今日は何時もと彼女の様子が違う事に気が付く


そう何時もの彼女ならば モジモジと乙女な仕草でこちらに振り向いて

僕の首筋に猫のように鼻を軽く押し付けながら 両手をまわし頬を寄せて

耳元で「まだダメだよ・・」と甘い声音と口調で僕の行動を嗜めるのだが

今日はずっと静かに涙を流しているだけなのである


まだ触ってもいないのに・・

慰めてる時間分だけ「志保子クッキング」の時間が短くなるな・・と

更に誠意の無い事を考えながら彼女の小さな形の良いおつむを丁寧に撫でる


それでも彼女は泣き止まず 静かに肩を震わせては しゃっくりを上げており

僕は些さか不安になってくる 今までそういえば一度も考えもしなかったが 

もし僕と付き合うのは もう嫌だと言われたらどうしようかと思いついたのだ


「志保子を甘やかしたら この子は元々甘えたがりでつけ上がるからダメよ」と

彼女のお母さんに付き合って一週間くらい経った頃に言われた言葉を思い出す


傍から見れば僕が彼女をを甘やかしてる感じに見えて

でも実際は僕が甘やかされている事を充分に理解していたのに

つい何だかんだで許して貰えるだろうと甘えた考えで

自分が彼女を困らせる行動をエスカレートさせていた事に気が付く


もし・・もしも振られたら・・

もう彼女の美しい肢体を見る事も触る事も出来ないのだろうか・・


いや・・でも彼女なら・・

誠意を込めて頼んだら別れても少しくらいなら触らせてくれるかも・・等と

もう誠意って言葉自体を使う事がおこがましい事を思いながらも

そうなったら手足を縄跳びで拘束してデジカメで・・等と考えて頭を振る


それも良い手ではあるが 最終手段だとその案を保留にし考え改める


そうして僕はデジカメのしまってある場所を思い出しつつ

恐る恐る彼女に声を掛けると 彼女は顔を真っ赤にして

涙を零しながら震える声で「こういう人・・本当に許せない・・」と

テレビモニターを指差して伝えてくるのである


「志保子クッキング」の緻密なロードマップ作成と効率の良い達成手順

そして刻一刻と一刻を争う制限時間に頭が一杯一杯だった僕は

テレビで流れている番組は雑音程度にしか気にしていなかったので 

彼女の声音と口調の真剣さに気持ちを切り替え

改めてきちんと視聴してみる事にした


どうやら特番の「警察二十四時」で流れているのは

現在、被害件数がここ数年で大幅に急増した「盗撮」のお話のようである


その手口が中々巧妙で女性トイレや更衣室にカメラを仕掛ける時や回収の時に

アルバイトで女性を雇って行なっていると警察関係者が語り溜息をついている


そして実際にアルバイトで盗撮カメラの設置や回収をやっていたという

顔にモザイクが掛かった女性が喜々として自分のした事を話しながら 

「だから自分はそういう場所で着替えやトイレはしないようにしてます!」と

嬉しそうに弾んだ声で語っているのである


「女の敵は女」を絵に書いたような犯人像と犯行内容である

 

そして僕は志保子さん以外で一応は仲良くしている沙智や友美も

それなりに積むもの積めばやりそうだな・・と 当人達が聞いたら

形だけは激怒しつつも 後から「で・・いくら出す?」と 

きっとお似合いの悪い笑顔で聞いてきそうだと 

奴らが親指と人差し指をくっつけてお金をあらわす丸を作ってる

不思議と既視感に満ちた姿をありありと思い浮かべていると

志保子さんがこちらに身体を向けてきたので 

視線をテレビモニターの犯人から彼女に移す


泣き腫らした目と悔しそうに口元をモゴモゴさせて 

多分だが沸き起こる怒りで肩を震わせている彼女の姿は

異常に僕の嗜虐心を掻き立てて 絶対そうしたら不味いのだが 

押し倒し縛って悪戯したくなる何かを内包しており

僕は彼女と違う意味で色々と我慢していると 

彼女は僕の胸元に顔を押し付けてシクシクと泣き出したのである


「志保子クッキング」タイムが・・・と

本日のノルマ達成ならずの残念な気持ちでテレビを消し

彼女の頭を優しく撫でて なるべく温かい言葉を掛けて慰めながら

そういえば彼女は余り人間の暗い所を書いてある小説や漫画などは

好まなかった事を思い出す


多分だが・・多くの他人の悪意に晒されていた彼女が反動として

ハッピーエンドや気持ちが温かくなる話を好むのは仕方ないと考えるし

わざわざ嫌な思いをしないで済むならそれはそれで良い事だと思う


ただ・・残念ながら世の中には少なからず悪意に満ちた人間がおり

悪意が無くとも結果的に他人に迷惑を掛けるポッポみたいな人種もいるのである


そして僕はタンスから持ってきたタオルとテーブルの上のテッシュペーパーで

彼女の泣きはらしてぐちゃぐちゃの でも充分可愛らしく整った顔を

出来るだけ優しく丁寧な手つきで拭い 鼻をチーンとさせながら考える


彼女にはこのまま綺麗な心持ちでいて欲しいと

嫌な奴や悪どい輩からは僕が身を挺して守れば良いのだから


そんな事を考えていると志保子さんは そのまま滑るように身体を傾けて

僕の首筋に手を回して頬と頬をくっつけると甘えた声音と口調で

ふみくん 慰めて・・」と伝えてくるのである


その甘い声音で高鳴る鼓動と 身体全体に感じる温かい柔らかさに

中国の建設会社のビルの工事期間の速さで直立しそうになる

「僕タワー」を何とか鎮めようと四苦八苦しながら

彼女の形の良いおつむと華奢な背中を丁寧に撫でていると 

泣き疲れたのか彼女はそのまま寝てしまったのだった


仕方なく僕は彼女をお姫様抱っこしてソファーに運んで寝せると

自分の部屋から運んできたタオルケットを その小柄な身体に掛けてから

居間の電灯を消して寝やすくすると 自分は玄関に場所を移動する


あのまま傍にいたら 多分僕は我慢出来ずに

彼女を自分の欲望で汚してしまいそうで少し怖かったのだ


もしそうなるにしても出来ればお互いの同意の上でそうなりたいと思い

そうなるまでは もう少し二人の距離を縮めてからにしたいと考えていた事を

あの時と同じ献立の 今は一人ぼっちの食事を終え 

明日は朝早くに起きて行動しなければと 早々と潜り込んだ布団の中で 

私は当時の記憶を思い出すのだった


私の志保子にもう一度会いたいと思う気持ちには 

彼女の助けになりたいと思う気持ちと同じくらい

彼女の美しい肢体を また抱きたいという薄汚い欲望もあると思う


彼女と中学卒業後に私の家の事情で離れ離れになり 

お互いが一人に戻った事で 自分達が如何に相手に依存していたかを知って

それでもどうにも出来ずに別れてしまった事を悔やむ


そして放してはいけない大事なものを手放した自分より 

彼女に相応しい相手が 今現在その隣に居たとしても

どうやってそいつを排除するか考えている 諦め切れない自分に気付き

口元に嫌な笑みが込み上げてくる


例え自分勝手と罵られ 獣のような欲望に満ちていたとしても

それでも手に入れたい彼女の事を思いながら


私は静かに眠りに落ちていくのだった



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