赤さん スニください!
私は周囲を慎重に伺いながら 取り敢えずは手近な所から探索しようと
まずはホール近くの管理人室から調べてみる事にした
バイオハザードと呼ばれるホラーゲームでもそうだが
色々な所の鍵が置いてある可能性がとても高いからだ
わざわざ行ったのに「鍵が掛かっています 入れません」は困るのである
それに私の響子さんが居るかも知れない いや居ない
その前にホールの出口付近のガラス片を モップを使って脇に避けていく
「いってらしゃい五代さん」とか 素敵な笑顔で言いたい訳ではない
ましてや別に掃除が好きで好きで堪らない訳でもない
これから先 もし何かと遭遇して逃げ出す時に
ガラス片で滑って転んで怪我でもしたら嫌だからだ
警察や消防すら連絡がつかず 機能しているかも全くわからない状態である。
怪我でもしたら大変なので 注意するに越した事は無いのである
ホールのどちらから戻ってきても ガラス片の落ちていない「通路」を作ると
ホールの小窓から管理人室を覗き込む。
目に写る広さから見て十畳ほどの室内には 事務机が四脚置いてあり
壁沿いには事務用の書類棚が 並んでいるのが見える。
見える範囲に響子さんもとい 人が居ないのを確認すると
ドアを開き中を覗き込みながら 小声で声を掛けてみるが何の反応も無い
私は室内に入り扉のそばの机から 書類が挟まったファイルを手に取ると
それをストッパー代わりにして 扉が閉まらないように開けっ放しにしておく
事が起きた場合に備えて 退路の確保は大切な事である。
壁を背にしながら何かがいた場合 背後を取られない様に
カニ歩きで室内をぐるっと見回してみる 何も居ないようだ。
少しほっとすると四脚ある机や壁沿いに並ぶ戸棚から
鍵や他にも使えそうな物がないか調べて見る事にする。
ゲームならワンクリックで済むのだが
現実では自分できちんと 調べなくてはならないので大変である
壁に設置されたキーケースを発見し開けて見ると
マスターキーを発見出来たので それをズボンのポケットにしまう
これはゲームだと後半にならないと 手に入らないアイテムだが
ここら辺は現実の方が良いのかも知れない
机の中からは手鏡一枚と携帯用の裁縫セット 懐中電灯にガムテープや付箋
他にも釣りが趣味な人も居るようで 透明な釣り針や釣り糸も発見したので
机に置いていく。それらを入れておく袋はないかと見渡すと机の横に
布製のトートバックが掛かっていたので それも拝借する。
ガムテープでモップの頭の部分を 動かないように固定すると
歩くたびにカチャカチャと五月蝿かったのが静かになる。
状況がまったくわからない現状で 無闇に騒がしく音を立て
わざわざ自分の所在を周りに気付かせるのは危険である。
FFⅪ風に表現すると「スニーク状態」である。
ゲームなら「スニください」というと 優しい白さんが掛けてくれるが
ゲームでは無く現実なので自分で掛けるのだ。ゲームでも赤は掛けてくれないし
手鏡は 通路の角を曲がる時や部屋の中を伺う時に
これで通路の先や室内の様子を 確認できれば安全だと思う。
「がっこうぐらし!」と同じくらいに楽しみに見ている
「六花の勇者」の主人公が 出会ったばかりで敵になるか味方になるか
わからない状態のライフル使いのヒロインに 背を向けて歩き出した時
安全だと確認が取れるまで 鏡で背後を伺っているシーンがあり
それを参考にしてみたのだ。
原作もアニメも亀展開だが 多分このお話も似たような 下手したらそれ以上の
亀展開なので「六花の勇者」の作者さんとは気が合いそうである
わざわざ鏡なんて使わなくても・・と思うかも知れないが
意味もなく自分の体を前面に出す必要は無いのだ
「大丈夫だ いけるぞ!」が全然大丈夫じゃないのと同じである
必要そうな物はある程度揃えたので管理人室から外に出る
扉を閉めるか迷ったが そのままにしておく。
「見えない所」を なるべく減らしておいたほうが良い。
「見つけないで見つかる」より「見つけて見つかる」の方が まだマシである。
ドラクエで不意打ち食らって全滅した私が言うのだから間違いない
次に裁縫道具から鋏を取り出し 透明な釣り糸を必要な長さにカットして
割れたガラス扉の柱の所 腰の高さにセロハンテープで釣り糸を貼っておく。
建物を上まで探索している時に 誰かが建物の中に入ってきた場合
釣り糸が剥がれてわかるようにしておく為だ。
外に出て釣り糸がどういう風に見えるか確認すると 太陽の強い日差しのお陰と
糸自体が透明なため よほど注意して見ないと糸には気が付かないと思える。
これらの用心が無駄になって笑い話になるならば問題ない
少し恥ずかしいだけだ。誰かに出会って怒られても構わない
きちんと謝罪し必要なら弁償すれば済む話である。
問題は無駄じゃなかった場合である。
考え付く事 やれる用心は一つ残らずやっておくに 越した事はないのである。
「そう思うならハロワいけよ・・」と言われそうだが そんなのは無視である。
ホールの真ん中にある柱にかかった 建物の見取り図を見てみる。
建物の丁度中心を少し左にズレた位置に階段があり その隣に
エレベータは設置されてはいるが 故障中の張り紙がしてあり使えないようだ
建物の両脇に非常用階段が設置されている事も確認し
取り敢えずは一階を 見て周る事にしようと考えて 私は足を踏み出した