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無職くんと薬剤師さん  作者: 町歩き
するまでが とても長すぎる決意
102/126

幼さが少しだけ剥がれた日

前日分、加筆箇所が多すぎたので一旦下げて書き直しました

初めて話す誰かとの会話は、僕にとってはまず自分の事を伝える事だった。


もちろん相手の話もきちんと聞いて、相手の事も理解しようと努めるのは

当然の事なのだけど、相手の好きな事よりも相手の嫌がる事を知るのには

それなりの時間が必要なのだから。


話しても問題のない自分の失敗談などで相手との距離感を保ちつつ

相手の嫌がる事がある程度であれ理解する事に気を付ける。


仲良くは感情の問題なので無理でも

せめて上手く付き合えるようにと注意はしてきたと思う。


そのお陰か。誰とでも・・とはいかないまでも

それなりに友人達や学校の先生とも仲良くはやってこれたと思う。


それは僕が他人に気を遣う優しい人間という事では決して無く

他人との付き合いで必ず生じる物理的なトラブルや諍いなどが

面倒で仕方ないと思っていただけの事なのだ。


そうやって自分の立場を 自分に取って都合の良い立ち位置にしながら

そんな風に上手く出来る器用な自分に、些さか驕っていた所はあったと思う。


そしてそんな僕の前に現れた志保子さんは、とても不器用な人だった。


聞き流せば良い話にも、彼女は真面目に聞き入りきちんと答える。

自分には無い他人に向けるその誠実さに僕はきっと憧れていたのだろう。


その美しいと僕が思った整った顔立ちも、その仕草も僕を惹き寄せたのは確かだ


そしてそれを独占したいと思った

僕のつまらない嫉妬心と下らない独占欲も後になれば 

それもそれだけ彼女に夢中だった証のようにも感じる。


そして何よりも彼女がその内面に抱えていると感じた 

きちんとすぐ傍で見ていないと、いつも間にか消えてしまいそうな危うさと

寄る辺のない寂しさを感じさせる何かが、僕の心を彼女にどうしようもなく強く

惹き寄せたのだと少し後になって気付く


彼女のクラスメイトとの会話で僕が感じていた事を

僕が迷いながらも伝えた言葉に、目に薄く涙をためながら 

震える声で自分の過去を語りだそうとする彼女の姿をみて

余計な事を言わなければ良かったと思い後悔しつつ

自分になら伝えようとしてくれる彼女に嬉しく思い

僕は出来るだけ優しくその華奢な身体を抱き寄せた。


顔は見ないようにする。それはきっと礼儀だと思うので。


そうして彼女の泣きそうな声音で語る過去に耳を傾けながら

彼女に彼女自身には、どうしようも無い事で

冷たく当たった人達への憤りはもちろんある。


それよりもそれが無理なのは百も承知なのだが、彼女が本当に寂しく

つらく切ない気持ちの時に、その場にいて彼女に手を差し伸べる事すら

出来なかった無力な自分と、多分これからも自分が思う程には力になれない

幼い自分に腹が立って仕方がないのが本当の気持ちだった。


泣き疲れた彼女を運んで布団に寝かせ、色々な寝物語をしながら

寝つくまで手を握り、眠った彼女の頭を撫で、そう頼まれていたように

玄関扉に鍵を掛けてポストに落とし借りた傘をさしながら雨の中、家に帰る。


母の「梨がないんだけど!」の言葉に「梨だけにね」と返しつつ

お風呂に入り布団に潜って目を瞑り僕は彼女と出会った時の事を思い出す。


放課後の校舎で廊下に立ち、誰もいない空っぽの教室の窓から見える

夕日を眺めるような「今日の終わり」を感じさせる

そんな雰囲気を持っていると思った事を。


あの時、僕は「自分」が廊下に立って夕日を見ている。そんな気持ちでいたが

本当に廊下に立っていたのは「彼女」だった事に気が付く。


普段は同級生や友達で賑わっている楽しげな笑い声が溢れる教室に

夕方になり誰も居なくなった静かな教室にすら入る事が出来ない

「彼女」が寂しく今日の終わりを告げる夕日を眺めていた姿を

僕はその孤独な横顔や寂しそうな後ろ姿を 

どうしてあげる事も出来ない事に、居た堪れない気持ちで眺めていたのだ。


やっとその事に思い至った僕はこの日生まれて初めて

弱く守られる存在の自分では無く彼女を守れる強い自分になりたいと


少しだけ幼さが剥がれた事を感じつつ心から思ったのだった。






長かった第一章も後二話で終了になります。でわ次回で

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