無職の始まりと旅立ちの準備 そしてそんなことよりサッカーしようぜ!
初めての方へ 長文を書くのは高校の読書感想文以来です
以前からの方へ 第一章完成したので修正済みから順次差し替えします
第一話も張替えで修正済みです
先にこちらを消してノリで付けてたサブタイトル分からなくなったので
新タイトルになっております・・・
「鳴る神の 少し響みて・・・か・・」
ベランダから見える雨模様の空を見上げながら
私はあの時と同じ所まで彼女が大好きだった和歌の一節を呟くと
途中で手が止まっていた作業に戻る為に立ち上がる
夜中から降り始めた雨は 朝方になって徐々に雨足が早くなり
雨の匂いとその奏でる音に心がざわつくのを抑えながら
ベランダのガラス戸と外側のシャッターを静かに閉める
「もう少しで準備が終わり 彼女に会いに行ける・・・」と そう思いつつも
「まさか こんな事になるなんてなぁ・・・」と
自分の置かれている現状を考えると溜め息に近い吐息が漏れる
そうして三年前から住んでいる 川田ハイツ202号室の室内を見渡し
部屋中に所狭しと積まれたダンボール箱を眺めると作業を再開する
近隣のスーパーやコンビニ等から運んできた 何かと戦って得た物では無いので
呼び方としては少々可笑しいかも知れないが 敢えて「戦利品」と呼んでいる
多くの物資の目録を付けるため 棚から目録用のノートを取り出し記入していく
彼女の安否に少し気が焦るが 準備の為と決めた時間はまだあるのだ
ここで慌てて中途半端な状態で飛び出して 彼女の元に辿り着き助けだす前に
私が死んでしまっては元も子も無いのである
今の私はドラクエなら 始まりの町に降り立ったばかりのLV1のキャラと同じで
なのに家の外はすでにラストダンジョンレベルの世界なのだ。
レベルアップは恐らく無く たとえあっても凄い技や魔法を覚える事もない
多分ずっとLV1の私には「にげる」と「どうぐ」のコマンドしか選択肢が無く
もし死んでも神殿に転送されず デスペナどころか文字通り一巻の終わりで
しかも心強い仲間なってくれそうな生きている人間が皆無なのだ
いつも通り寝ていたら唐突に終わっていたこの世界で 今まで出会った人間は
北斗の拳よろしく世紀末に生きてる暴力集団か その都合の良い餌食にされる
弱者のみだったのだから 自分でどうにかしなければいけない
それに戦利品を記入する行為は 現状への不満や将来への不安を
少しだけ紛らわせてくれるので 私は好んで細かく記入するようにしている
それは貯金通帳に記載された預金金額が増えていくのを眺めるのと
同じ様な感覚なのかもしれない。一週間前までは減っていく預金金額に
不安を抱えていた自分との違いに思わず苦笑がもれてしまう。
事の発端は一年前
私はとある地方都市の周辺にある小さな町でサラリーマンをしていた
しかし不況の煽りと業績の悪化で勤めていた会社が突然倒産
仕方なくハローワークに通い始め 貯金があるうちにと求職活動をしだすが
思ったより多かった求人情報と失業保険の給付金に 焦る気持ちが薄れてしまい
ついだらだらと過ごしてしまう
だが私は心を入れ替えて頑張って求職活動に励んだ。
「そうして今の会社に出会い、毎日楽しく働いています!」と
爽やかな笑顔で語る明日も頑張ろうとする私がここにいます
作品のタイトル的にそんな事は勿論無く「今日は朝から雨が 降っているから」
「深夜アニメ見ていたら生活リズムが 昼夜逆転しちゃったから戻るまで」と
何だかんだ理由をつけながらその後もだらだらと過ごし続けた
そうして家賃の振込のために家を出た先月末 振込を済ませ減ってしまった
貯金金額に悶絶しながら銀行を後にし 帰り道の途中にあるスーパーに
立ち寄って買い物をすると 両手に買い物袋を抱えて店の外に出たのだった
ちょうど小学校の下校時間のようだ。楽しげに会話を興じている小学生を
横目に見ながら足早に家路を急ぎつつ思う。
自分にもあんな風に将来の事など何も心配せず 過ごしていた時があったのだ
それが今では毎日が不満と不安で一杯な日々である
「今の自分を彼女が見たらなんと思うだろう・・」
そう考えて思わず漏れた溜め息に 私のすぐ隣ではしゃぎながら歩いていた
小学生の男女二人組が 不思議そうな表情で私を見上げてくる
私を見つめる二人の仲良く繋がれた手を見て 当時の自分と彼女の事を思い出す
そして暖かい過去の思い出と今の自分の酷い有様を比べてしまい
居た堪れなくなり 二人の視線から逃れるように顔を逸らし足元を見ながら
早く部屋に戻ろうと気持ちと同じように重くなった足を少し急かした
部屋の鍵を開け室内に滑り込むと薄く溜め息をつく 落ちた気持ちを切り替え
買ってきた食料品や飲み物のペットボトルを冷蔵庫にしまい込み
「これで五日くらいは家を出ないで大丈夫と!」と
社会的にはあんまり大丈夫じゃない安心感を抱く
そしてテーブルの上に置かれた携帯ゲーム機を手に取ると電源を入れ
お菓子を摘まみ 午後茶のミルクティーで喉を潤しながらゲームに興じる
日も大分沈んで開いたベランダのガラス戸から入る風が冷たくなってくる
もう夕方である。今日した事といえば
家賃の振込に銀行に出掛けた事と日用品の買い出し そしてゲーム
起きた時間がお昼過ぎとはいえ何もしていないのと同じである。
家賃の振込みとスーパーでの買い出しの直後は 何か「成し遂げた!」という
謎の達成感があったのだが・・努力する目標レベルが著しく低下している。
まあ上がるような事を何もしていないのだから当然といえば当然だが・・
暗くなる気持ちを抑え現実を全力で回避するため
パソコンの電源を入れ アニメ情報を専門に扱っているサイトをチェックする
そういえば今日は何曜日だろうと思い パソコンの時計で日付と曜日を確認する
社会との接点を失くすと まず曜日が次に日付も曖昧になってしまう
祝祭日など意味を成さなくなる。何故なら毎日が日曜日だからだ
「木曜日か・・・」週末は見たいアニメが多いから助かる。
現時点でしなくてはいけない事は充分に分かってはいるのだが
ではやろうと行動に移せるかというと また別の話なのだ
そういう時に生じる焦りや後ろめたさを誤魔化し気を紛らわすために
私はアニメやゲームや読書に没頭する。
目に見える近い目標や ただ見たり読んだりしているだけで
不思議と何かやったと思える充実感を与えてくれるからだ
そして以前 新聞か何かで引きこもりの子供をもった親の
「どうしたら子供がきちんと社会復帰してくれるか」という質問を思い出す。
私なら「そんなことよりサッカーしようぜ!」と返事をするところだが
世の中には親切な人もいて きちんと意見を述べていた
「ネットを解約して遊び道具を全部捨ててしまえ!」と
どう考えても火に油を注ぐ結果になりそうなものではあったが・・
もちろんネットやアニメや漫画などの娯楽が悪い訳ではなく
単に当人が社会で関わりたくない部分 会社や学校などとは関わらず
関わりたい部分にだけ 関わる事が出来てしまう事が問題なんだと思う
まあ嫌な事を回避するのは 生物として当たり前の事だと思うけど
そんな事を考えつつ何時も見ているまとめサイトを巡回する
今日も日本中で あちらでは殺人事件や暴行事件が起こり
こちらでは交通事故が起こり何処かの会社が不祥事を起こしている
海外も似たようなもので人と人とが関われば争いも諍いも起こるというものだ
そう考えると自分を含めた日本だけで三百万人近くいるという引き篭もりは
その家族はどうか知らないが 結構安全で安心な存在なのかと感じてしまう
伊達に自宅警備員を名乗っていない
どこぞのラノベの ひねくれた性格と可愛い妹が売りの主人公も
「みんながボッチになれば争いも諍いも起きない」と言っていたが
けだし名言だと思う
問題は引き篭もりを続けるためには お金が必要だ。という事である
ドラクエなら町を飛び出してスライムを十匹も倒せば 一週間くらい余裕で
宿屋に泊まれるが現実なのでそれも不可能である。下手に負けたら笑われそう
後どれくらい引き篭れるか気になり 貯金通帳を取り出すと残口金額を確認し
脳をスパークさせて緻密な計算をしてみると二年ちょっとはいけそうである
両親の遺産を処分すれば 更にその期間は伸びるだろう
「まだいけるな!」と 何処にもいってない考えが思い浮かび
そして「その後を無一文でどうするか?」という更なる問題が出て来る
あまり心楽しくない思いに耽っていると眠くなってくる
昔からそうで嫌な事や辛い事があると凄まじい眠気が襲って来るのである
ドラクエ風にいえば「僕はラリホー」状態である
そのお陰かは分からないが その余りの眠さに「俺の怒りが有頂天」状態でも
他人や物に当たる余裕も無く 大体嫌なイベントが発生するポイントである
学校や会社から帰宅すると布団にすぐさま直行するようになった
そうやって寝て起きて健康ドリンクのCMのように爽やかな笑顔で
「気分はすっきり爽快です!」とは流石にいかないまでも
事が起こったその時に比べれば少しは落ち着いて対処が出来るので
何も知らない他人から見ると やけに温和に見えるらしい
大分薄暗くなったベランダからの景色を眺め 時計に見ると夜の七時近くだ
木曜日というと楽しみに見ている「がっこうぐらし!」の放送日である
はじまるまで寝ておこうと部屋の電気を落とし布団にくるまり目を瞑る
寝付くまでの時間「がっこうぐらし!」の世界のように
「この世界でパンデミックが起こったらどうするか?」
そして自分がそれに巻き込まれたらと あれやこれやと妄想し
あんな美少女だらけなら それも悪くないどころか逆に幸せかもと思いつつ
心地よい眠りに落ちていった。
でわ次回で