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『恋の女神は逃避中』 by紫陽圭

私の女神様

作者: 紫陽 圭

 とある令嬢の『私の尊敬するお姉さま』の話。 最後に別視点有り。

 主人公は転生者でも異世界人でもありませんし、同性愛者でもありません。

 最後は別視点になります。

 ********************


 突然ですが、私の国にはそれは素敵なお姉さまがいらっしゃいます。

 『お姉さま』とはいっても同じ歳なんですが、あまりにも素敵で尊敬せずにはいられないので『お姉さま』なんです。 ただし、『お姉さま』呼びは本人の前以外のみ。 だって、本人の前で誰かがうっかり『お姉さま』呼びしたら『そんな呼び方はさびしいです』と言われてみんなして悶絶もんぜつすることになったことがあるんですから。 

お姉さまのさびしそうな表情かおは忘れられないし------そんな表情かおも美しくて見惚みとれましたけど------そんな表情かおをさせた罪悪感は大きくて・・・。 一番の理由は、周りの人間が悶絶もんぜつしない為ですが、とにかく、本人に対しては『お姉さま』呼びは使わないことになってます。


 そのお姉さまですが、筆頭伯爵家の令嬢です。 

 豊かな黒髪は光の加減で深緑の艶を放つ『からすの濡れ色』で、あたたかな濃い茶色の目、知性を感じさせる眼差まなざしに、良く通る声、穏やかな話し方、凛としたたたずまいに流麗な動作、聡明で思いやり深く気配りはこまやかなで・・・。

落ち着いた色合いと物腰なのに見劣りすることはもちろん地味になることもなく、しっかりとした存在感を放っているのに威圧感は無く、堂々としてるのに高慢ではなく・・・。

筆頭伯爵家の令嬢でありながら身分や地位によって態度を変えることは有りません。 基本的には相手による差もほとんど無く、親しさとか(相手の)人格とかでわずかに変わる程度です。 こういうところも素敵です。

ハッキリ言うと身長も体型も見た目も標準なのに、中身と言動と内面からにじみ出る空気だけで尊敬できる、令嬢にとってこれ以上ない目標なんです。


 そして、当然、お姉さまの周りには人が集まります。 

でも、大勢に囲まれるのは好まないようなので、ファンは少し離れて見守ります。 ファンというのは多数の『お姉さまに憧れる女性』のことです。 

身分の低い令息の一部は『高嶺の花』として眺めて満足してるようです。 お姉さまは身分なんて気にしないのに・・・ヘタレの言い訳ですね。

 そんなお姉さまですから舞踏会の招待は山ほど来るでしょうに、限られたものにしか出席しません。 全部に応じていては心身ともに疲れ切ってしまってたないでしょうけど、会う機会が限られるのは残念です。 状況を理解できるからこそ、誰も無理は言いませんけどね。

 でも、公平さを『その他大勢』扱いと感じ、独占したいと動き出した男性達が居るようです。




 ********************


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 王宮での舞踏会。 最初に行動に移したのは将軍の令息。 即決即断即行動のようです。 一番に誘ったダンスの間にお姉さまの耳元で何かをささやいたようで、お姉さまがかすかに反応してます。

 彼は、濃い茶色の狼みたいな髪に同色の目で、長身・筋肉質だけど細身な美形です。 マットな(艶のない)漆黒の軍用の礼装がすごく似合ってます。 ホールドもターンも安定感抜群という点ではお姉さまを安心して託せます。

「・・・・・・・・・・。」

 そんな彼を微笑ほほえんでいなして何か一言でダンスも1曲で打ち切るお姉さま、さすがです。 

同じ相手と2曲以上踊ると期待させてしまうし、順番待ちの人たちに相手がにらまれますしね。


「彼、悪いとは言わないけど、お姉さまとはいまひとつ似合わないわよね。」

「よく言って、ワイルド?」

「ハッキリ言って、飢えた狼。 お姉さまが危ないかも。」

「確かに。 じゃぁ、除外?」

「そうね。 お姉さまの意思に反しない限りは・・・。」

「お姉さまを守りましょう。」

 ファンの子たちと会場の隅で話し合います。 

『さすがお姉さま』で盛り上がり、『お姉さまの意思が最優先』と確認します。

それにしても、みんな好き勝手言ってます。 相手がお姉さまだと他からも文句来ないんですよね。



「・・・・・・・・・・・・・・・?」

 曲が終わるとお姉さまの前に進み出たのは第2王子。 こちらも、踊りながら何かをささやいてるようです。

 ゆるくウェーブを描く金髪に青い目のいかにも『王子様』な華やかな美形で、王族の正装を完璧に着こなしてます。 素敵笑顔と流れるような動きでリードしてます。


「見た目と身分は申し分無いわよね。」

「お姉さまが王子妃。 素敵。 思いっきり自慢しちゃう。」

「でも、王族って忙しいのよね。」

「舞踏会の参加とかも制限されるし・・・。」

「ってことは、今まで以上に会えない?」

「それ以前に、声を掛けられる機会も減るのよね。」

「・・・国王陛下や王妃様はお姉さま次第だと思ってる感じよね?」

「じゃぁ、様子見、ね。」

 王子妃の正装姿のお姉さまを想像して思わずうっとりします。 素敵なお姉さまにうっとりする国民を想像して嬉しくなります。 お姉さまの素晴らしさをうらやましがる他国を想像して鼻が高くなります。

 でも・・・。 結婚すると、ただでさえ外出する時間が減るのが普通なのに、『王族になると』の指摘に凹みます。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 次の曲まで踊ろうとする王子に何か言って引き離した男性は宰相の令息。 お姉さまが何か言う前にさりげなく王子を牽制けんせいしてみせるのは見事です。

 彼は、首の後ろで1つにまとめたやや長めの髪は黒く、目も黒にも見える濃い茶色という、お姉さまに似た色合いを持ってます。 上品な細い銀縁の眼鏡とスーツ風の漆黒の礼装姿には隙が無く、いかにも頭脳派って感じ。 だから、お姉さまと違ってキツい印象です。

 気を遣ってるのは分かるんだけど・・・ステップが正確無比なお手本みたいです。


「・・・有能なんだけど、ねぇ。」

「真面目なんですけど、ね。」

そばに居ると窮屈きゅうくつっていうか・・・。」

「お目付け役とか教育係みたいですわね。」

「いつもお姉さまに張り付かれると・・・嫌かも。」

「じゃぁ、却下の方向で・・・。」

 宰相令息、ごめんなさいね。 でも、これが令嬢たちの本音です。

しがらみの多い貴族という身分で、親に逆らえない令嬢という立場です。 結婚したら面白おもしろおかしく暮らしたい、とまでは言いません。 でも、せっかく親の元を離れたのに夫が・・・ではねぇ?

 お姉さま以外の令嬢なら、あ互いに楽な距離を保てばいいだけですものね?



「・・・・・・・・・・。」

 短い休憩で席を外したお姉さまが戻ったところで、そっと手を取ったのは侯爵令息。

 腰まである銀髪を後ろでゆるい三つ編みにして、薄いグレーの目。 冷たく見えがちな色合いだけど、はかなげな雰囲気はまるで精霊と評判。 所属する祭礼庁の礼装の白いローブが羽のように舞い、空に浮きながら踊っているような独特のフワフワしたダンスはどこか幻想的で現実離れして見えます。 そんな相手と普通に、しかも雰囲気を合わせて踊れるお姉さまはさすがです。


「なんか、お姉さままで妖精みたい。」

「いつものお姉さまにはかなさが加わって素敵。」

「でも、どこかへ飛んで行ってしまいそう・・・。」

「精霊の国とか? そんなの無いのは分かってるけど、ね。」

「お姉さまはこの世界に居てくれなくちゃ嫌だわ。」

「それじゃぁ、彼も阻止ね。」

 ・・・みんなの考えが少し飛躍しすぎてますね、私もですけど。 彼が特殊だし、お姉さまはそれに対応できてしまってるし、で、どうしても現実味が足りなくなるようです。

 彼がお姉さまに好意を持ってるのは確かですけど、結婚後の彼は想像しにくいですし・・・。



「・・・・・・・・・・。」

 2度目の休憩から戻ったお姉さまの手を軽く引き寄せて抱き込むようにして踊りだしたのは公爵令息。

 ライオンみたいな明るい茶髪に琥珀色の目。 正統派の夜会服は黒に近い紺色。

 はずむようなステップで実に楽しそうに踊ってます。 


「やっぱり、彼もお姉さまを狙ってたのね。」

「人当たりも愛想も良いのよね。」

「言動は軽くて・・・八方美人? 博愛主義?」

「でも、なんとなく怖くない?」

「本性は絶対見せないから、本音も分からないんですよね。」

「姉さまに近づけてはいけない気がします。」

「そうね。 警戒しましょう。」

 またまた、言いたい放題ですね。 

みんなも適齢期の令嬢です。 自分の為にも情報収集は欠かせません。 すると、表面だけでは判断しなくなるんですよ。 

恋愛結婚の難しい立場だからこそ、縁談が持ち込まれたときに断ってほしいと親に泣きつく(!)べき相手か、知っておく必要が有るんです。



「・・・・・・・・・・。」

 3度目の休憩から戻ってきたお姉さま。 さすがに疲れてるようで心配です。

 そんなお姉さまに飛びつくようにしてダンスに誘ってる伯爵令息。

 短めの茶褐色の髪に碧の目。 近衛の礼服は、黒っぽいエンジ色で、この場にふさわしいギリギリの堅さ(正統さ)と動きやすさを優先したデザイン。

 やや小柄な彼は、可愛い感じの見た目もあって、子犬がじゃれてるような飛び跳ねるようなダンス。 


「お姉さま、大丈夫かしら。」

「ここしばらく、毎回休憩を入れてらっしゃるわよね。」

「さすがに疲れてるんでしょう。」

「それにしても、彼、相変わらず可愛いわね。」

なごむというか、いやされるというか・・・。」

「弟どころか子犬ですわね。」

「お姉さまの相手としては物足りない・・・。」

「・・・そういうことね。」

 彼はまるでペット扱いです。 だって、男性としては意識しにくいものは仕方ないじゃないですか。

彼を意識してる女性は話をスルーするので問題ありません。


 そうなんですよ。 舞踏室の隅とはいえ、先程からの言いたい放題、実は、周りから聞けないわけではありません。 でも、あえて、話してます。 これは例の6人についてだけではありません。

 気になる相手については情報を伏せて話はスルーします。 気にならない相手については情報を提供し、話に乗ります。 これによって、遠まわしに周りに意思を伝えてるんです。 

令息たちや親たちだって情報を集めてます。 断られる縁談は持ち込みたくないのは当然です。 だから、令嬢たちの評価を気にしてるのが分かっていてのさりげない情報提供です。 


 ・・・あら? 6人とも将来有望で令嬢の人気も高いのに、私たちから見るとお姉さまの相手としては不足というか不満だという結果になってます。

 お姉さまも婚約者が居て不思議の無いお年頃。 だから、みんながアプローチするし、私たちファンはみんなでチェックしてます。 変な男は近づくことも許すつもりは有りません。 

 お姉さまの家族は、本人の判断と意思に任せるそうです。

 お姉さまの意思はというと・・・。 見てる限り、先程の6人は対象にしてないようです、良かったです。 他のファンも同じように感じてるみたいです。 

この様子だと、いつもと同じくラストダンスは踊らず、お姉さまは帰宅するのでしょう。 今夜も何事もなく終わりそうです。




 ********************


 もうじき閉会ですし、私はこのまま終わると思ってましたし、周りもそうだったでしょう。



「ラストダンスは、ぜひ私と・・・。」

「え?」


 一瞬の静止と沈黙、そして、一気に広がるざわめき。

 お姉さまをラストダンスに誘った男性が居ただけでも驚きです。 それなのに、それが隣国の皇帝陛下なんて! 誰1人として予想もしなかった事態に、さすがのお姉さまも驚きの声を上げています。

 ラストダンスは特別な人と踊ることになってます。 だからといって、それを理由に隣国の皇帝陛下の誘いを断れるかというと・・・無理です。

それにしても、お姉さまは彼と面識が有ったんでしょうか? あるいは、彼が見初めた? 有るかも・・・。 さすがお姉さま。


「どうぞ?」

「!  はい。」

 呆然としていたお姉さまをそっとうながす声。 低くてもハッキリ聞き取れるイイ声に、周りは静まり視線は集中します。 お姉さまは差し出された手にそっと自分の手を乗せて・・・。 

 軽く後ろに流した黒髪は、お姉さまのそれに似ているようでいて、時々銀色の光がきらめいているように見えます。 黒にも見える濃い茶色の目はお姉さまと同じ。 長身で逞しい身体を包む隣国の王族の礼服は漆黒だが不思議な光沢を放っていて、黒ずくめという感じはしません。

 ダンスは独特の踊り方で、ハッキリ言って踊りにくそうで・・・それに対応できてるお姉さまスゴイ。


「後で談話室で少し話を。 侍従に案内させる。 陛下の許可はいただいてある。」

「わかりました。」

 皇帝陛下が曲の終了間際にお姉さまにささやいてたけど、周りには聞こえてます。 だって、気にするなという方が無理です。 みんな、踊りながらも、耳も神経もお姉さまたちに集中させてます。


「ねぇ、まさか皇帝陛下までお姉さま狙い?」

「皇帝陛下って、例の6人より年上だったはずよね?」

「大人の魅力と落ち着きがあって、お姉さまを余裕で包み込めそう・・・。」

「とはいえ、隣国にさらわれるのは嫌ですけどね。」

「それにしても、双方の名誉のためにも国王の許可がるのは分かるけど、そこまでして話したい内容って・・・やっぱり?」

「多分みんなが同じことを考えてるのでは?」

「さすが、お姉さま。 皇帝陛下はお姉さまの魅力をすぐに見抜いたのね。」

「でも、隣国に行ってしまっては滅多に会えなくなってしまう・・・。」

「王子妃以上に話す機会が無くなるなんて・・・。」


「あら、例の6人の顔が引きつってますわ。」

「お姉さまの意思を尊重して自制したラストダンスを奪われたうえ、閉会後の約束まで取り付けられては仕方ないでしょう。」

「相手は皇帝陛下だし国王の許可まで有っては、お姉さまに拒否権は有りませんし、誰も止められませんものね。」

「それは分かってても・・・ってところね。」

「ちょっと! お姉さまが退出する直前に例の6人が退出していきましたわ。」

「通路には近衛も警備してますし無茶はしないでしょうけど、お姉さまの様子をうかがうつもりでしょうか。」

「気持ちが落ち着かないとはいえ、みっともないですわ。」

「私の兄が通路の警備してますから、後で彼らの様子を聞きだしますわ。」

「任せましたわ。」



 皇帝陛下が国王陛下や王妃様と共に王族専用扉から退出し、例の6人がこっそり退出し、お姉さまが侍従に案内されて退出し・・・。 普通はこれで解散します。

でも、今回は、ほとんどの人が帰宅を忘れて話し込んでます。 囲まれて質問攻めにあうのが分かっていたんでしょう、お姉さまの家族はいつの間にか誰も居ません。

 当事者が誰も居ないので、みんな気兼ねなく話してます。 お姉さまの気持ちと例の6人の狙いは認識が一致してるようです。 だから余計に、皇帝陛下の目的が気になって、話題はその内容の憶測がほとんどです。 でも、結局は誰も何も分からないので、あちこちで情報交換の約束をして解散です。

 結局、お姉さまを案内する侍従を彼らが通路で並んで睨んでいたことが判明。 少なくともお姉さまファンの間では、彼らの評価は大幅に下がったのでした。 お姉さまも気付いたでしょうし・・・ホント、馬鹿なことをしたものです。




 ********************


 そんな舞踏会の直後から、思わぬ事態が起きました。



 まず、公爵令息が婚約。 相手は、とある伯爵令嬢。


「確か、かなりの美人よね?」

「人ごみが好きではないらしくて最低限しか出て来ないけど。」

「その数少ない機会に出会ったんですって?」

「彼女とお姉さまが話してるところに彼が近づいたらしいわ。」

「誰かがぶつかってふらついた彼女を支えたとか・・・。」

「すごいわね。 物語みたい。」

「それがキッカケで・・・なんて、ホントに有るのね。」

「でも、これで1人除外ね。」

「自分の家から出さないほどの溺愛ぶりだそうよ。」

「え? ホントに? ちょっと怖い・・・。」

「本人達は幸せみたいだから、いいんじゃない?」

「・・・除外出来て良かったわね。」

 溺愛っていうか、まさか監禁ですか? 私では耐えられません。 

お姉さまだったら・・・監禁されたら会えないかもしれないじゃないですか、冗談ではありません。 それに、お姉さまを閉じ込めるなんて宝の持ちぐされです、もったいなすぎます。



 次に、子犬こと伯爵令息が婚約。 相手は変わり者の子爵令嬢。


「身分は問題無いわよね。」

「でも、あの子爵令嬢とって、意外だわ。」

「彼、仕事中以外は彼女にピッタリくっ付いてるそうよ?」

「たとえ子犬みたいでも、それは・・・。」

「彼の通勤に付いて来て、図書室か彼の部屋で読書三昧なんですって。」

「子爵令嬢では招待状も無く1人で王宮には入れませんものね。」

「彼女らしいというか・・・。」

「相手がお姉さまでなくて良かったぁ。」

 こちらは付きまといですか? 本物の子犬でも困ることが有るのに、人の言葉が分かるくせに言うこときかないのが相手で、しかも、それが夫だなんて・・・。 逃げ場がないですよね?



 いで、第2王子も婚約。 相手はお姉さまの次に優秀な公爵令嬢。


「彼女、完璧だけど、ちょっとお転婆てんばよね?」

「馬での遠乗りとか旅行が好きだって聞いたことは有るわね。」

「お姉さまが彼女から旅行の話を聞いてた時に知り合ったとか・・・。」

「それで、殿下は彼女をあちこち連れまわしてるらしいってホント?」

「今から視察にも連れて行ってるそうよ?」

「もう?」

「一緒に行くと彼女が色々質問するから、それに答えられるように王子が勉強するから都合がいいことも有って認められてるみたい。」

「お転婆てんばのうえに、実は好奇心も旺盛だったのね。」

「お姉さまが連れまわされて会えなくならないで良かったかも・・・。」

 公爵令嬢の意外な側面が判明したみたいです。 でも、彼女の身分と優秀さなら、王子妃としてなんの問題も有りません。 素直に祝福しましょう。



 そして、宰相令息の婚約。 幼い弟を支え領主代行をしてた侯爵令嬢と。


「婚約者というより専属秘書みたいな感じらしいわよ?」

「うわぁ、彼らしい。 私だったら嫌だし無理だわ。」

「彼、対等に話の出来ない相手を馬鹿にするものね。」

「そうなると、お姉さま以外は彼女しか居ないわね。」

「領地管理の補佐役まで派遣してから婚約を申し込んだんですって。」

「抜かりの無さが怖いくらいね。」

「関わりたくない・・・。」

 ・・・なんか、彼は想像通りですね。 侯爵令嬢、すごいですね、彼がキレないように上手く制御コントロールをお願いします。



 最後に、将軍の令息までもが婚約。 相手は王妃様の専属(女)騎士。


「彼、大柄だし、ちょっと暑苦しいのよね。」

「体力バカだし、忠義一筋だし?」

「付き合う相手としては大変ですわね。」

「彼を理解して対応して、って普通の令嬢じゃ無理でしょ。」

「例の舞踏会の次の夜会で、警備の打ち合わせで会ったらしいわよ?」

「同類なら問題は無いわね。」

 まともそうで実は・・・って感じ? しっかりと手綱たづなを握っていてくださいね。

 


「ねぇ、気のせいかしら?」

「例の6人全員が警戒対象から消えたわね。」

「みんな無事婚約してハッピーエンドで?」

「あの舞踏会の後の短期間で?」

「お姉さまと何か話したのかしら?」

「というか、お姉さまが後押ししてたりしない?」

「お姉さま、彼らに興味無かったものね。」

「まさか・・・。」

「もしかして?」

「お姉さまってば、恋の女神?」

「「「「・・・・・・。」」」」

 お姉さまが取り持った? 全員? すごい。 さすがお姉さま。

ふと口を突いて出た『恋の女神』発言に、一部の令嬢に引かれてしまいました。

でも、『さすが』という感嘆と、『女神』という表現は同意してもらえたみたいです。


「? ・・・1・2・3・4・5・・・?」

「え?」

「あら? まさか・・・。」

「もう1人は?」

「・・・彼は婚約はしてないわ。 北方の国の神殿に長期研修だそうよ。」

「もしかして、本人の希望?」

「あんな辺境、それしか無いわね。」

「お姉さまが推薦してたりして?」

「「「「・・・・・・。」」」」

「そういえば、5人は婚約者の愛し方がおかしくない?」

「お姉さまは興味が無いどころか避けてた?」

「彼らの本性に気付いていたとか?」

「「「「さすが、お姉さま。」」」

 あら? 恋の取り持ちだけではなかったようです。 それでも、さすがです。 お姉さまがどこまで関わったのかは分かりませんけど、恋愛以外の彼の希望も叶えてるなんて・・・。 『恋の』ははずすとして、やっぱり『女神』ですね。 私(私たち)の憧れの女神様です。



「・・・ところで、皇帝陛下は?」

「さすがに情報が入って来ないのよね。」

「全て国王陛下を通すはずだから、規制されちゃうと何も分からないんですよね。」

「「「「・・・・・・。」」」」

「何もないことを祈りましょうか。」

 これは、正直、忘れていたかった・・・。 だって、どうしようもない、何も出来ない。 

お姉さまぁ・・・(この続きはなんていったらいいんでしょう?)。




 ********************


 しばらくして、衝撃的な情報が入ってきました。


「皇帝陛下が会談に来るんですって?」

「その日にお姉さまも王宮に呼ばれてるって話よ?」

「当然、国王陛下もご存じなのよね?」

「まさか、婚約?」

舞踏会あれから会ってないはずでしょう?」

「(皇帝陛下は)来てないし(お姉さまは)行ってないわよね?」

 みんな慌てていて、敬語があやしくなってます。 まさかの可能性を考えずにはいられませんから。 

 お父様たちは王宮などで、お母さまたちは私たちとは別のお茶会で、情報交換してるようです。 それでも、これ以上の情報は入って来ませんでした。 皇帝陛下の訪問歓迎準備の関係で話が出ただけのようです。


「・・・お帰りになられたわね。」

「お姉さまはここにいらっしゃるわよね?」

「婚約だったら公表されるはずですわ。」

「それじゃぁ・・・。」

 みんなでホッとします。 気が抜けて、また敬語が微妙です。


「大変!! お姉さまがっ!」

「今度はお姉さまが帝国訪問ですって!」

「なんですって?」

「何の為に?」

「縁談じゃなかったんじゃないの?」

「そこまで分からないわよ!」

「向こうの王宮に居る従姉妹に話を通しておくわ!」

「「「「お願い!」」」」

 ホッとした直後に判明した事実。 お姉さま、他国になんて嫁がないで~。

 



 ********** 隣国にて(従姉妹視点) **********


 昨日、隣国の従姉妹から久しぶりの手紙が来ました。

 内容は・・・挨拶あいさつもそこそこ、久しぶりなのに近況報告もほとんど無し。 尊敬する『お姉さま』についての、まるで惚気のろけのような話と、彼女がこちらに訪問してる間の様子を教えてほしいという懇願こんがんばかり。

 慌てた様子の文字と内容に呆れましたが、その伯爵令嬢に興味も持ちました。 その令嬢の訪問について、私は話を聞いていたんです。


 私は王宮で女官をしてますので、それなりに情報網は有ります。 さらには、兄が皇帝陛下の元で宰相をしてるので、そこからの情報も有るのです。

もちろん、兄も私も守秘義務は厳守ですので、他人は言わずもがな兄妹の間でも話題は判別します。 従姉妹の手紙も、その点は分かってるようでした。

 で、その伯爵令嬢の件ですが、彼女の滞在中の話し相手として私が選ばれたからこそ、情報が与えられたんです。

 隣国での舞踏会の後、陛下の機嫌が良いらしいという噂は有りましたし、兄の機嫌も良くなったように感じてはいました。 そこで、ひそかに『もしかして』という噂は有るわけなんですが、従姉妹はそれを否定したいようです。 『他国では会えない』『皇妃ではもっと会えない』からだそうです。 ホントに『お姉さま』が好きなんですね。



「ようこそ、我が皇国へ。」

「お招きいただき、ありがとうございます。」

「髪飾り、使っていくれてるんだな、似合ってる。」  

 数日後、例の伯爵令嬢が到着しました。 

 皇帝陛下の笑顔と言葉に思わず息を飲みます。 兄でさえ、動揺を隠すのに必死のようです。

兄の知る限りでも陛下の自然な笑顔なんて希少なんでしょう。 

でも、私には、言葉の中身が衝撃でした。 髪飾り? まさか陛下の贈り物? 陛下が? 女性に? そんな例は無いはずです。 これは、ホントに『もしかして』なのかもしれません。


 彼女の礼儀や振る舞いは完璧でした。 趣味のよい上質なよそおいに陛下と似た色合いの髪と目。 すごい美女というわけではないんですが、威厳や気品や温かさなどのバランスが絶妙です。

兄から紹介された時、挨拶あいさつと礼に自然に力が入りました。 彼女からの礼は、陛下に対するものより少しだけ柔らかなもので、思わず見惚みとれそうでした。 なんとなく、従姉妹の入れ込みようが分かる気がします。


 それから、兄以外は人払いされてしまったので、私は彼女にと用意された部屋に向かいます。

彼女が連れて来た世話係は侍女1人のみ。 いざとなれば、ドレスの脱ぎ着以外は自分で全て出来るそうです。

とはいえ、今回、それなりの荷物は有るので、こちらでも侍女を用意しました。 荷解にほどきなどの状況を確認して、くつろいでいただく準備をしましょう。

 ・・・参りました、さすがです。

 彼女の荷物は必要なものは余裕をもって、らないものは全く持ち込んでません。 必要なものも、先程のよそおい同様に趣味が良く上質なものばかりです。

 さらには、『あのあるじにして・・・』ということなのでしょう。 侍女も対応が完璧です。 礼儀や節度を守りながらも親しみやすいのです。 あるじへのあふれんばかりの誇りが透けて見えますが、必死に抑え込んでる様子は微笑ほほえましい程度なので問題ありません。



 こうして、彼女への興味が増し、今後の展開が楽しみになりました。 

え? 従姉妹の願い? 希望通り、できる限りの情報は教えてますよ? 

『(お姉さまは)いつ帰って来るの?』『陛下とかに狙われてないよね?』『さっさと返してよ!』とかはスルーです。

だって、返したくなくなりそうなんです。 陛下はまだ若く独身です。 浮いた噂も有りません。 彼女なら、陛下の心を捕まえ、貴族や令嬢を納得させる可能性が有りそうです。 もちろん、今はまだ、陛下の心も彼女の気持ちも分からないですけどね。



 この後、兄から、陛下が本気だと教えられます。

 部屋に戻ってきた彼女の髪飾りは、我が国には無い花がモチーフでした。 それは、隣国の王宮にも咲いている、彼女の好きな花なのだそうです。 今までにも、色々手紙に添えていたそうです。 とす気満々だったんですね。

 実は、婚約指輪も婚約式の衣装も、既に準備を始めていて、同じ花がモチーフだといいます。 さらには、結婚指輪と結婚式の衣装には、その花と我が国の国花こっかを組み合わせることを決めているそうです。 驚くほどの溺愛ぶりです。

彼女をめすぎるのを陛下に聞かれると、兄と2人の時に『彼女の素晴らしさを一番知ってるのは俺だ』とばかりにねることさえあるとか・・・。

 彼女はまだ承諾しょうだくしてないようですが、としてみせます。 陛下は全力で口説いてますし、彼女を知る王宮のほとんどが陛下の協力者です。 

一時、応援するあまりやりすぎて彼女を陛下の部屋に呼び出そうとした侍女まで居ましたが、本人の謝罪と陛下のとりなしで解決、彼女の寛大さに隣国で言う『ファン』が急増しました。

私? 一番近くに居るのですよ? 彼女の素晴らしさは一番に分かりましたので早々に魅了されてます。

『ファン』の女官や侍女の取りまとめもやってます。 『ファン』の暴走を予防し彼女の平穏を守るのも私の仕事であり、そんな彼女付きの女官の誇りです。


 そんな状況でも、一時は、伯爵令嬢という身分もあって貴族などの反発は有ったようです。 彼女の知性や教養も明らかになるにつれ、下火になっていきましたけど・・・当然です。

 ダメ押しは陛下による彼女についての暴露でしょう。

陛下の曾祖母様と、彼女の曾祖母様が同じ国の出身だから、陛下と彼女の目は同じ色だとか。

素晴らしい皇妃だったと言われる(陛下の)曾祖母様と、彼女の曾祖母様は親友だったとか。

曾祖母様から聞いた歌を口ずさむ彼女の姿にかれたのだとか・・・。

なんて素敵なんでしょう。 これで盛り上がらない女性なんて居るんでしょうか。

 というか、堂々と明かしたので、話はあっという間に城下にも広がり、今では吟遊詩人の題材になってます。 世論を味方に付ける為にわざと箝口令かんこうれいを敷かなかったのは確実ですね。

結果、みんなが魅了され、隣国のような自称『ファン』が増え、『女神を我が国に』という声も上がって来て・・・。 陛下を応援する声は高まるばかりです。

隣国とは事情が違って皇妃(候補)なので、誰も『お姉さま』呼びはしませんけどね。 


 従姉妹? 連絡はしてますよ? 『女神』の話で盛り上がってます。 

 ただ、当然ながら、陛下の求婚は隣国にも明らかにされており、『返してよ~』と毎回泣きつかれます。

相手が私なのをいいことに、『自分の領域テリトリーで求婚なんてズルい』とか『お姉さまを知って反対する人なんてほとんど居ないわよ!』とか『私たちのお姉さまなのに~』とかゴネてきます。 もちろん、スルーですけどね?

 私を含め、王宮のほとんどが全力で陛下の応援をしてるんですから・・・。 

『いっそ、このまま帰国させずに結婚式を・・・』って声はさすがに従姉妹には内緒です。


 

 余談ですが、彼女が『女神』扱いをやめさせてほしいと陛下に頼んだとき、陛下は『内輪うちわでの呼び方まで制御(制御)するのは無理だぞ?』と言ってなだめたとか・・・。

 『婚約式なんて省略して1日でも早く結婚式を』という意見が、『少しでも多く彼女の晴れ姿を見たいし婚約指輪と揃いの衣装も用意してあるぞ?』との陛下の一声でしずまったとか・・・。

 吟遊詩人やら童話にされてると知った彼女が見せた照れたような困り顔に、それを見た全員が悶絶もんぜつしたとかしないとか・・・。



 ********** 完 **********

 実は『恋の女神は逃避中』の第3者(同世代)視点。 

ただ、主人公も周りも異世界とかなんて全く知らないので『転生者でも異世界人でもない』へのツッコミはスルーします、あしからず。

 『恋の女神・・・』本編を読むと、『女神』の認識のギャップを楽しんでいただけるかと・・・。

 ヤンデレ6人組が病んだ理由も『恋の女神・・・』に出てきます。


 予定してた次世代物は書くのやめました。 すみません。

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