01
2年生の坂本澪先輩は男子バスケ部のマネージャー。
俺がバスケ部に入部したのは先輩がいたからだ。
俺は中学のときバレー部だったから高校でもバレー部に入ろうかと思っていた。
だが、部活動見学のときになんとなく観にいったバスケ部で坂本先輩になんとひとめぼれ・・・!
数日後、俺は迷うことなく男子バスケ部に入部したのだった――――――。
◇ ◆ ◇
「悠希くんっ、シュート~!」
先輩の声援が聞こえる。
よし、やってやるぜ!
歩幅を調整しながらゴールへと突っ走る。
そのままレイアップシュート…。
よっしゃ~!はいった♪
ピ――。
電子音が試合終了を告げた。
試合つっても部内の紅白戦だけどな。
ふぅ~。
やっと終わった。
息切れがヤバイ。
うわぁ、シャツが汗でびしょびしょだ。
脱ごう。先輩とかも脱いでるし。
シャツを脱ぎ終えたとき背後に視線を感じた。
振り返ると坂本先輩と目があった。
ッ!!
俺は固まってしまった。
まさか、先輩だとは思わなかったから。
先輩も俺と目があったことに驚いたようだ。
少しの間、下を見ていたけど顔をあげるとゆっくり俺の方に歩いてくる。
「悠希くん、さっきのシュートすごくよかったよ。」
「先輩のおかげですよ。」
「私の声聞こえてた?なんか恥ずかしいな。」
「おーい、澪!」
「先輩に呼ばれたから行かなきゃ。あ、ちゃんと体拭かなきゃダメだよ。」
先輩は俺にタオルを渡すと3年生の方へ走っていった。
ちぇ~。
また3年生かよ。
いっつも3年生が独占してるんだよな~。
だから、坂本先輩と1年生の俺が話すことはあまりない。
それなのに、先輩から話しかけてくれるなんて!
しかも、ほめてくれたし!
感激だ。
やっぱ坂本先輩は優しいな~。
他にもマネージャーがいるけど先輩ほど優しい人はいない。
色白で背も低めで大人しそうな雰囲気の先輩。
かわいくてバスケ部のアイドルだ。 …いや、聖母マリアかな?
とりあえず、人気者なんだ。
告れって?
そんなのムリムリ。
だって、坂本先輩は1年生のとき当時3年生だったバスケ部のエースに告られて振ったらしい。
その3年生はかなりのイケメンで、振ったと知ったときみんな驚いたそうだ。
先輩に告った人はそのエース以外にもたくさんいるらしい。
でも、みんな振られてる。
きっと、理想のタイプのレベルが高いんだろうな。
俺なんかは論外だろう。
だから、そんな先輩に告るなんてありえない。
ムダだ。ムダムダ。
俺は先輩と同じ部活にいられるだけでじゅうぶんなんだ。
◇ ◆ ◇
数ヵ月後・・・。
部活が終わった後、部室に戻ろうとした俺。
そのとき、坂本先輩に声をかけられた。
「悠希君。今週のごみ捨て頼んでもいい?」
「いいっすよ。」
先輩からの頼みごとならなんだってしますよ?
「じゃあ、よろしくね!」
先輩の極上の笑顔。
前よりカワイイのは気のせいか?
まさか彼氏ができたとか?!
考えるだけで恐ろしい。
ブンブンっと頭を横に振って気持ちを切り替える。
視界にゴミ箱が見えた。
あ、ごみ捨てに行かなきゃいけないんだっけ?
すっかり忘れてた。
着替える前にごみ捨ててこようかな。
ゴミ置き場に持っていくだけだし。
坂本先輩からの頼みごとを終わらせた俺はゴミ置き場の扉を閉めた。
よし、帰ろう。
すると横から、
「そこの君。この猫車を運んでくれないか?すぐ済むから。」
作業着を着た教頭だった。
教頭の後ろには落ち葉が山盛りにのった猫車が2つ。
“すぐ済む”という言葉を信じた俺は渋々教頭についていった。
クソ――――!
あのハゲ教頭!
何が“すぐ済む”だよ。
1時間半の手伝わせやがって。
日が暮れかけてるじゃねーか!
猫車を『2つ』とも運ばせた挙句に焼くのまで手伝わされた。
焼くなんて聞いてないし!
ガチで恨むぞ!
つーか、バスケ部のみんなはもう帰っただろうな。
あーぁ、1人とか虚しい。
部室のドアに近づくと隙間から光がもれているのが見えた。
部室に明かりがついてる!
って、消し忘れただけか・・・。
イライラして少し乱暴にドアを開けた。
誰もいないと思っていたのだが・・・・・・、
「おかえり悠希君。」
坂本先輩!!!
「遅かったね、どうかしたの?」
「いいいえっ!ええっと、その、教頭に頼まれて落ち葉焼いてました!」
バカだろ、俺。
慌てすぎだし。
先輩、笑ってんじゃん。
恥ずかしいな~。
穴があったらマジで入りたいんですけど。
「そっか、教頭先生のお手伝いしてたんだ。遅いから心配してたんだよ。」
「こんな時間にのこのこ帰ってきてすいません。っていうか、先輩なんで残ってんですか?」
「今日私、鍵閉め担当だからね。」
「置いといてくれてよかったのに。マジですいません。」
「そんなに謝らないで。私が待ってるの迷惑だった?」
「迷惑なんて全然!むしろ嬉しいってゆうか・・・・・。」
何言ってんだよ俺は!!
最悪だ。
もう帰りたい。
ていうか、俺着替えてないじゃん!
「俺、着替えますね。なるべく早くするんで。」
「う、うん、分かった。」
先輩は出て行った。
◇ ◆ ◇
俺は、坂本先輩と一緒に帰っている。
だって、今は夜の7時すぎ。
薄暗い帰り道を女の子1人で帰らせるなんて出来るかよ。
送るなんて夢のようで嬉しい。
だけど、緊張して何を話していいか分からない。
俺、情けねぇ。
思わずため息。
先輩との沈黙が辛い!
「悠希君、ホントごめんね。迷惑だよね。」
「ど、どうしてそうなるんですか。先輩は何も悪くないですよ。」
「だって悠希君ため息ばっかりだし。」
俺そんなにため息ついてたのか!
「いや、それは自分が情けなくて。」
「情けないってどこが?悩みがあるなら言って。」
ヤバイ!
何か言わないといけないよな。
でも、好きな女の子と一緒に帰るのが嬉しすぎて頭が真っ白になってますって言えるわけねぇだろ!!
「ごめんね、話せない事もあるよね。余計なお世話だよね。」
先輩の声は泣きそうだった。
その声を聞いて俺は、余計に何も言えなくなった。
「もう、ここまででいいよ。送ってくれてありがとう。」
「え、何でまだ先ですよね。先輩の家。」
もう、なにがなんだか分かんねー。
「本当にここまででいいから。」
「分かりました。気をつけてくださいね。」
「悠希君こそ気をつけてね。バイバイ。」
そこで俺は先輩と別れた。
俺の夢のような出来事はあっけなく終わったな。
はぁ~。
なんで俺あそこで分かりましたって言ったんだよ。
バカだろ!
・・・先輩、大丈夫かな。
泣きそうな声だったし。
俺、ひどいことしたかな。
何か嫌な予感がする。
胸がモヤモヤって気持ち悪い。
“行かなきゃ”って思った。
何故か分かんないけど、行かなきゃいけないって。
気づいたら俺は走っていた。
先輩と歩いた方へ。
坂本先輩と別れたところに来た。
道は3つ。
右か左か正面。
勘で進むか?
先輩の家なんて知らないのに?
クソっ!
今更だけど、超後悔。
左に曲がってすぐの所に公園があった。
家に帰る気にもなんねーし頭冷やすか。
公園に入ると何と先輩が!!
っどどうしよう。
見つけることができた嬉しさと驚きで頭が真っ白。
またかよ!?
しっかりしろよ。
先輩にゆっくりと近づいていく。
先輩は・・・泣いていた・・・・。
「先輩?どうしたんですか。」
ビクっと肩を震わせた先輩。
突然過ぎたか?
でも、声をかけずにはいられなかった。
「ゆう・・き・くん?」
「はい、俺です。…けど。」
「なんでここに戻ってきたの?」
「え?い、いや、先輩が心配だったんで。」
先輩の目から、また涙がこぼれ落ちる。
「すすいません。迷惑でしたよね。」
「迷惑じゃ‥ない‥から。」
そう言った先輩に制服のそでをつかまれた。
その先輩の仕草にまた惚れる俺。
地面に膝をつく。
「先輩、俺先輩のことが好きです。」
自分でもびっくりするくらい堂々と言えた。
俺、すごく真面目な顔してたと思う。
ただ、無性に言いたかった。
「それ‥・本当…?」
「はい。」
振られるかもしれないなんて恐怖はなかった。
自信があったわけじゃない。
確実に振られるって思ったけど、今言わなかったら絶対に後悔すると思ったから。
だから、次の先輩の言葉にすごく驚いた。
「私‥も、悠希君のこと…好き…です。」
えぇ――――!!
マジで?
「俺が言ってるのは彼女にしたいってことですよ?!」
「うん・・。悠希君の彼女に…なりたい。」
先輩は耳まで真っ赤だった。
たぶん、俺も同じくらい真っ赤だと思う。
ゆっくりと先輩の背中に手をまわす。
先輩は少し震えてて、俺はその震えを止めたくてギュッと抱きしめた。




