プライベート・アイ
瞳に太陽光を湛え満天の輝きを放つ少女がいた。容姿も脳も人一倍優れていたが、なにより優れていたのは瞳の輝きだ。性別問わずに、その瞳に恋焦がれていた。
ある日、銀の匙が睫毛に触れる前戯、次は眼球を抉り出されるはずだった。だが匙が床に落ち、持っていた女は倒れた。死因は解剖された、眼底部及び脳の火傷だった。
その日以来、少女は人と眼を合わせなくなった。
片目で紙を眺めた。ひたすら眺めても燃えはしない。だが両目を開いて、一点を集中して見て、襲われたときの恐怖を思い出すと、紙は一瞬のうちに灰となった。
好きな人も、鏡すら見つめる事ができない日々が続き、いつしか家に引きこもりがちになった。
助け舟が訪れたのは、すぐだった。
「いやいや、それは紛れもなく、『熱視線』です。素晴らしいですね。おっと、あまり見つめないでくださいね」
家を訪ねたビジネスマンが膝をついて、鞄を開くと中から目玉が転がってきた。
「玩具ですか?」
「違います。私は世界中を回って、珍しい目玉を集めているのですよ。あっ、扉閉めないでくださいね」と言って、扉に足を掛けた。「率直に言うと、目玉が欲しいんですよ」
「嫌です!」
「タダとは言いません」
「お金積まれても嫌です。目玉を挙げたら取り返しがつかないわ」
「まあまあ、お金ならコレくらいは……」
息を呑んだ。一生遊んで暮らせる金額だった。
「でも、嫌。光を失うなんて」
「そうですか。なら、眼球を交換しませんか?」
少女は美しい緋色の両目と、熱視線を交換した。最初は馴染まなかったけど、すぐに視界良好で外国人に勘違いされるようになった。
あの日以来、人体発火の事件が幾つか続いた。
犠牲者が9人になった時に、犯人は自らを燃やして死んだそうだ。
少女はそのニュースを聞き、もう一人の自分が死んだかのように感じた。