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ちょっとした、文化の違い  作者: くさぶえ
文化の、違い
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六十二話

 認識阻害、心理看破、心象操作もあっただろうか?


 この世界で魅力と実力は比例している。魅力的な人物ほど、体のスペックが高い。それは即ち、眼球などの人体を構築する部品の能力の高さでもある。公爵家の人間が、近視だとか遠視だとか老眼だとか、そんな言葉に縁がある訳もなかったのだ。


 改めて考えてみると、それは違和感の塊であるはずだった。ガラフ様の掛けていた眼鏡。それがあの人の財宝の一つ。俺は、ガラフ様によってソレがあることを当然のように認識していた。つまりは、認識の阻害。


 そして、別れ際のガラフ様の言葉。あの人はあの眼鏡か彫像か、はたまた別の財宝の力で、俺の内面を見ていたのだろう。つまりは、心理看破。


 心象操作は完全に俺の憶測だが、公爵家の当主ともなるとその位の財宝はもっていそうだ。


「はぁ、緊張したなー」


 ガラフ様の姿が見えなくなると、ネットは大きなため息を吐く。俺には緊張した様子は全く見えなかったのだが。因みに先輩は何故だか分からないが、怒ったようにガラフ様に着いていった。うん。意味が分からないね、ほんと。


「どこがだよ。見えなかったぞ」

「見せなかったんだよ。イブが応援してくれなかったら、冷や汗でビチョビチョだ。……主に、お前のせいで」

「―――――すみませんでした」


 悪いことしたら頭を下げる。大事だね。


「はぁ、俺が説得してなかったら危なかったぞ?」

「え、何が?」

「イブが何であんなこと言ったのかって、怒ってる」

「イブ様、本当にすみませんでしたッ!!」


 俺は地面に頭を付ける勢いで、ネット越しにイブ様に謝罪した。この世界に生きて多少なりとも異世界というものに慣れているつもりだが、どうにも縁を繋いだ人間との接し方は慣れることができない。


 目の前にいる男はネットという人間だが、その先にはイブという女性がいる。例えば俺がいまネットを殴ったら、その痛みはイブさんにも伝わる。直接的な痛みを感じる訳でもなく、実際に怪我など当然負わないが、それでも痛いと認識される。それが縁というもの。


 極論を言ってしまえば、目の前にいる人物はイブさんでもあるのだ。


 俺達二人が友人として気楽に接したとしても、それがイブさんにとって琴線に触れる行いかもしれない。俺にはどうにもその線引きを見極めることができなかった。まぁそれも、イブさん個人と会話したことなど、数えるほどしかないから仕方がないのだろうけど。


「仕方ないから許すってよ」

「ははぁぁ! ありがとうございます!」


 俺が試練より帰還してから、ネット越しではあるがイブさんは優しくなった気がする。今は学園から離れて花嫁修業をしているそうで直接会っていないが、ネット越しに会話をする機会は増えた。縁を通してなら、魅力の影響を受け辛いのかもしれない。逆にネットが俺を雑に扱っている節がある。まぁ、それは気兼ねがなくなったからだろうけど。……だよね?


「じゃあ、俺はダッグに会いに行くから」

「ああ、またな」


 そういって、ネットは俺の元から離れていった。入れ替わるように、遠くにプランの姿が見える。ハートを胸に抱え、此方に向かっている様子だった。


「おい、ハーン」


 プランを迎えようとしていると、不意に背後から声を掛けられた。振り向くと、ミヤ先生の姿がある。試練より帰ってから俺は先生と一度しか会っていない。それも先生の方から暫く授業は無いと一方的に言われ、それだけだった。


「暇だろ、ついて来い」

「…あいかわらず、ですね」


 俺に対する嫌悪感を剥き出しにした口調。実に安心する。心が落ち着くのを感じた。


「師匠! お疲れ様でした! 有意義なお時間を過ごせましたか?」

「きゅー!!」


 気づけばプランが此方まで来ていた。彼の発した俺の呼び方に、先生が食いつく。


「あん? ―――師匠? お前が?」

「まぁ、一応」

「はっ……偉くなったもんだ」


 先生は鼻で俺を笑い、侮蔑する。何だかとても懐かしい気分だ。俺の周りから、俺を非難し、軽蔑し、不快に思う人間はいなくなった。学園の生徒もまた、何とか俺との関係を修復出来ないかと考える人間で溢れている。だからこそ、俺はミヤ先生の扱いが心地よい。自分がどうしようもないクズであると思い出せるから。


「まさか、ダッグさんから噂に聞く師匠の師匠ですか!? は、初めまして! 

ハーン師匠の弟子のプランです!」

「知らん。興味ない」


 プランは恐縮しながらも自分を紹介するが、先生は視線すらも合わせない。騎士という低い階級だが、プランは一応貴族なのに。―――まぁ、学園内では平民だろうと教師を敬うのが常識になっているが。それでもあまりにも偉そうな態度である。


「きゅ、きゅー!!」

「うざい」

「きゅぅぅぅううう!!!???」

「ハート様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そしてハートはあざとく可愛い声で鳴いて、撫でてとばかりに近づくがスナップの効いたビンタを受けて吹き飛んだ。ざまぁ。


「なんだ? あの気持ち悪い生物。もしかしてお前が手に入れたらしい聖獣か?」

「そ、そうですね」

「飼い犬は主に似るというが……―――似すぎだ。ハーン、二度とあの生き物を私に近づけるなよ」

「犬じゃないですが……まぁ、アイツも理解したと思います」


 先生に軽い気持ちで近づくと、どうなるかを。


「……お前が何をもって弟子を取ったかは知らないが、あの女顔がお前の弟子だというなら連れてこい」


 吹き飛んだハートを回収しているプランを指し示すと、先生は歩き出した。今回も当然ながら拒否権はないようである。





「―――卒業試験だ。試練を乗り越えたお前の力、見せてもらう」





 そう語った先生の背は、どこか嬉しそうで……悲しそうに見えた。


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