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ちょっとした、文化の違い  作者: くさぶえ
変化する幸福
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四十話

 人を好きになるなんて、簡単だ。


 同時に人を嫌いになるのも簡単で、つまりは感情なんて自分が思っているよりも簡単に変化するものなのだと俺は思う。


 例えば俺には前世で一人の幼馴染みがいた。偶然なのか小学一年生から中学一年生まで、彼とはクラスがずっと一緒だった。気さくな彼が俺は好きで、多分これからも、一生友達でいるんだろうなと考えていた。親友という言葉は、彼との間にだけ、あったのかもしれない。


 ───けれども、俺があの人生を終える頃には、彼との仲は目を合わせたら軽く挨拶をする程度のものに変化していた。



 きっかけは簡単。彼のちょっとした冗談に、ムカついた。それだけ。



 まぁ、なんと心の狭いことだろう。今思い出しても馬鹿馬鹿しい。でもあの時の俺は、彼を嫌いになっていた。だからもう、友達とは言えなかった。もしかしたら、優しい彼はそれでも俺を友達と認識していたかもしれないけれど、客観的に見た俺達の関係は間違いなく知り合い止まり。


 時間があれば、関係を修復することはできたのだろうか。きっと、きっかけがあれば、出来たのかもしれない。




 例えば俺には、前世で嫌いな幼馴染みがいた。


 彼女とは小学校が一緒で、たまにクラスが一緒になることが何度かあった。けれども俺にとってそれは非常に嫌な出来事であった。なぜなら彼女は、少しばかり真面目過ぎたのだ。気を抜くことを知らないというかなんというか。


 彼女はそれを苦に思ってはいなかったようだが、それを他人にも求めてくるのが嫌だった。不真面目で、提出する宿題の写しを友達に求める俺と、真面目にやれと言う彼女で、どちらか正しいかと問えば間違いなく正しいのは彼女なのだろうけど。


 そんな彼女を、俺は好きになった。



 きっかけは簡単。中学生になり、成長していた彼女は巨乳だった。それだけ。



 ───本当にもう、なんて俺はバカだったんだろうッ!


 一回死んで冷静になってから考えると、俺が彼女を好きになった理由は本当にそれなのだ。客観的に見て、彼女は別に容姿に優れていた訳ではない。性格も俺は好きになってはいなかった。


 なら何故俺は彼女を見るようになったのか。答えであるその切っ掛けは、彼女が巨乳だと気づいたから。すげぇムラムラしてたから。そんな、自分で過去の自分を殴りたくなるような、下半身直結の思考回路。


 彼女の一部を見るようになって、次第に俺は彼女を好きになった。自分の中で、無意識に彼女を見ている理由を作り上げたのだ。自覚をしていなければ、それは本当に好きであるのと変わらない。いや、自覚をしていたとしても、嘘が本当になるなんて、よくある話じゃないか。



 きっかけは簡単。ムカついただけで長年の友情が壊れることもあるし、胸がデカイという理由だけで人を好きになることもあるんだ。自分の心であっても、そのきっかけがどう生まれるのか分からないのに。他人の心であったら推測するだけ無駄というものだ。


 だからこそ、警戒しなければならない。そして防がなければならなかった。きっかけが、他人の中で生まれないように。


「し、師匠? 今まで見た事のない顔をされてますが大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。ただ、グリージャー先輩の顔に吐き気がしただけだから」

「師匠!?」


 さらっと不敬罪的なものを再犯しながら、俺は深呼吸をして心を落ち着けようと試みる。大丈夫だ大丈夫だと何度も心で唱え、ヤケを起こさないように努める。例え剣を抜こうとも、それを振るうことはまったくの逆効果。というかそもそも、まだそこまでの段階ではない。


 俺に純粋な笑顔を見せた女性は、俺を愛していない。好意が生まれていたとしても、それはきっと、まだきっかけでしかない。しかしながら、だからこそゼロではなく。一であるから、これから大きくなる可能性は存在する。


「はっはっは。相変わらず、口が悪い。もしや照れてるのか?」



 何でツンデレみたいな印象になってんの!?



 もしや現段階で好感度は一よりも上なのかと愕然として、思わず彼女を見る。なんだか素直になれないヤンチャな後輩を見て、仕方が無いなといったような様子。凄く慈愛の籠った瞳で見返された。


 でもセーフ! まだセーフ! アウトに近づいている気がするけれど、まだセーフ!


「というかもう、用事が終ったなら帰って下さいよ!! 貴女の顔なんて見たくないんですよ! 今この瞬間も我慢しているんですよ! この嘘つき!」


 俺は脳内をフル回転させ、拒絶の言葉をグリージャー先輩にぶつける。


「師匠!? さすがに駄目です! 口を、口を閉じて下さい! というか、閉じろぉ!」

「―――フゴッ!?」


 これが下克上というものか。口を強制的に手で塞がれ、洪水のように流れだした言葉を止められる。まだだ。まだこの位では、ヤツの好感度を下げられん! 不敬罪など知るものか!


「―――か、えれ! 帰れぇ!」


 女性的な体を持つプランだが、その肉体的性能は俺よりもずっと上。力も勿論彼の方が強いのだが、必死な俺は無駄に巧みな力加減でその手を解くと、彼女への言葉を続ける。止めないでくれプラン! 後少しなんだ!


「そうだな、では去るとしよう」


 やったか!?



「──────またな、ハーン」

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