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ちょっとした、文化の違い  作者: くさぶえ
俺が生まれた世界の話
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二話

 俺は『人よりも沢山の命』を求めた。


 けれども当然、通常の人間には一つの命しかない。そこから命を増やすのは不可能だ。器が足りない。

 ならば実現するには、元から複数の命を受け入れることの出来る人間が生きる世界に転生すればいい。だからこの世界の人間という種族は、複数の命を宿して生まれる。

 個人によって宿している命の数は違うが、必ず二つ以上。

 例え本来ならば即死する傷を負っても、複数ある命の内一つが消費され、一瞬で完治する。病気だろうが何だろうが、二つ以上の命がある限りその人物は死なない。寿命という終わりはあるものの、複数の命を保持している場合その分それは遠ざかる。この世界は正しく、俺の望み通りの世界であった。


 あった。と、勘違いしていた。


 当たり前だが、命とは圧倒的な力だ。即死するほどの傷を治す程度、本来の役割である『生存』には及ばない。


 例えば俺が誰かを殺したとしよう。毒を仕込んだ間接的な殺害や、弓や投石などの遠距離からの殺害ではなく、剣などの攻撃する際にも肉体に接触している武器による直接的な外傷による殺害だ。この場合は、心臓を一突きしたと考えよう。死なないのだから殺害という言葉は適当ではないのかもしれないが、命を奪うという意味では正しいため、分かり易いこの言葉をこのまま使用する。


 相手の命が一つだった場合。そのまま相手は亡くなる。

 しかし。二つ以上だった場合は、一つ命を消費して死を逃れる。剣が心臓に刺さったままだったとしても、一瞬で体から剣を弾き出して傷を治す。『死んだら死んだまま』という絶対の法則と同じように、『二つ以上なら死なない』絶対に生き残れる。


 それでも命の力は余り有る。命にとっては簡単過ぎる作業なのだ。

 死を回避するため、外傷を完治する際。命の余剰は必ず生まれ、使用した場所から漏れてしまう。

 

 本来ならば有り得ない場所に出てしまったその力は、慌てて受け入れてくれる器を求める。大概は元の肉体に戻るが、近くにある器へと移るものも必ず現れる。この例の場合は、誰かを殺した俺だ。不思議なことに、俺の近くに誰かがいたとしても命の余剰は必ず殺した俺に渡る。


 結果として他者の命を受け取ることになるのだから、殺された物と殺した者の魂には『縁』が出来るのは当然だ。


 殺した者から、殺された者への、一方的な縁である。


 受け取った命は俺の魂と一体化し、相手は俺の魂を自分の魂かのように常に身近に感じる。誰かにとっては、新しい自分の魂と言っても過言ではない。そして殺された誰かは、縁を通して俺の全てを知ることが出来るようになるのだ。

 あらゆる思いや感情、そして過去の恥ずかしい記憶まで全てである。殺した俺は拒否が出来ない。誰かにとっては、自分の記憶を思い出そうとするような何てことはない行動なのだから、それも仕方が無い。



 世界から複数の命という祝福を受けて、殺害という手段で縁が生まれることを知った人間。

 彼らはそれを知って、殺害という方法を、最も大切な思いを誰かに伝えるための手段とした。



 それ即ち、愛の告白である。



 うん、意味が分からない。


 いや。その理由は理解したのだけれど、そこに至るまでの過程が意味不明。どうしてそうなった。


 まぁなんだ。殺す者、これを告白者と命名して、殺される者を受容者と命名しよう。

 確かに告白者は相手の命を奪うことで縁を作り、自分の丸裸な愛の気持ちを、受容者へ伝えることが出来る。けど別に、思いを伝えるなら言葉でいいじゃん。十分に伝わるだろうに。何故殺す?


 そりゃあ俺も前世で外国人に日本の文化について、どうして日本人は○○しますカー? と聞かれて起源の話なんて説明出来なかったし、それで理不尽にドン引きされても文句は言えず、非常に悔しい思いをして絶対に他国の文化を知っても、深く知らないままに否定をしないと硬く誓ったが、これは無い。ありえん。ドン引き。


 だから俺は、転生後早々に『魅了の瞳』を封印した。


 考えてれば直ぐに分かる。この世界で、モテモテなリア充になることが、どういうことか。


 常に命の危険にさらされた、デンジャラスな日常の幕開けである。恋に盲目になった乙女ほど、恐ろしい存在はない。それにこの国、告白に成功したら告白仕返して即結婚。という法律があるのだ。どんなヤツが相手だろうが、告白を受けたんだから結婚するのは当然だろ? とのこと。


 つまりは、告白を受ける=殺される=愛を受け入れる。という謎の方程式。


 回避するには自分が相手以上に強くなって、毎日やってくるアプローチを防ぎ続けなければならない。一回でもミスをして殺されたら、殺し返す義務が出来て、お互いに縁を紡ぎ合う=結婚。おめでとう。

 学園にいる間は学生のため婚約という扱いになるが、卒業後直ぐに結婚式の開催である。訳分からん。


 不意打ちは非常にはしたないという風潮と、それを禁止する法律があるものの、恋する者達は時間があれば、愛する人を殺そうとするのは当然。なんと言うヤンデレ。カップルが成立しても、戯れ合いというふざけ半分の殺し合いが日常的に行われる始末。世紀末なんて目じゃねぇ。愛する人は、殺してでも手に入れろ! が、ナチュラルに定着しているのである。



 封印の反動で、魅力が最底辺になる? 望む所だ!



 望み通りにずるをして、俺は通常の人々よりも多くの命を手に入れた。それにこの王国は多夫多妻。ハーレムが作れる。作れてしまう。人間の結婚は、お互いに縁を結び合うこと。縁が結べなくなるまでは、何人の妻もしくは夫と結婚してもいい。


 命の数が二つだったら、結婚は一人と。三つだったら二人、四つだったら三人と、愛せる人数が増えて行く。命が一つになったら当然普通に死んでしまうため、縁を結べなくないからそれ以上の結婚は不可能。逆に言えば、余分な命がある限り、何人とでも結婚が出来る。

 言葉を変えると、モテモテなら命がある限り異性から狙われ続けるのだ。しわくちゃのジジイになろうと、魅了の瞳というチートがある限りはモテる。穏やかな余生など、送れるはずも無い。そんなのは、絶対に嫌だ。


 俺は死にたくないんだ。死ぬほどの外傷を負わされるなんて、想像するだけで最悪。本当に死んだ記憶がある分、更に悪寒が走る。

 この世界でモテるという事と、長生きをするという事。天秤に掛ければ、長寿に傾くのは当たり前であった。











 人間の王国、ウルタス。その主都に建設された、広大な面積の学園。俺はそこで、日々新しい知識を手に入れている。

 教師の説明を聞き、教科書と照らし合わせ、重要なことを教科書に直接メモをしていく。勤勉な兄のお下がりな教科書のため、既に様々なメモで埋め尽くされている。隙間を探すのにも一苦労だ。


 集中して授業を聞くものの、俺のようにしている生徒は非常に少ない。何故ならこの施設は、御見合いの場のようになっているからである。


 真面目に学ぼうとすれば非常に役立つ施設だが、やろうと思わない者は放っておけという教育方針。貴族は十五歳に義務で入学。平民は十五歳から二十歳までなら入学が可能で、在学は五年。留年は二年までだが金を払って授業を受けていれば卒業はでき、留年はまだ学園で学びたいと思った者のための救済措置。よって頑張る必要はない。

 しかし施設は非常に整っており、魅力的。平民も平均的な収入の家庭ならば学費を払う事ができるため、王族から平民まで国中から人が集まる。その中に一人や二人は、自分にとって理想に近い異性がいるだろう。


 それに告白に成功したら、カップル成立というこの王国。

 例え平民から王族への告白が成功したとしても、それは変わらない。つまりは平民や弱小貴族にも、成り上がる可能性はあるということ。勿論王族や公爵などの権力者の息子、娘には常に護衛が付いているが、可能性はゼロではないのだ。また王族が平民を愛し、告白をする前例も存在する。本人が本当に愛した場合、周囲は決して告白を止めようとしない。平民が断って拒絶をしても、恨めしく睨むことはあっても罰することはしない。この国は、愛に寛容なのである。


 鐘の音。


 「さて、授業は終わりだ。次は……演習だな。皆、演習場に遅れないよう」


 教師は一言注意を促すと教室を出る。前世のように、挨拶や礼は行わない。


 俺はそれを確認すると、教科書と羽ペンを素早く魔法具に仕舞い込む。所有者以外は使用出来ず、壊すことも難しい優れものである。形状はただの布袋で制服のポケットに容易に入る大きさだが、倍近い大きさの教科書が何冊も余裕で入るのだ。非常に便利。これも兄のお下がりだが、地位が低い男爵と言えどもこういう不思議道具を使用できるのは、貴族に生まれ変わった特権だと思う。

 因みに勉強道具を収納するのが遅れると、親愛なるクラスメイトに灰へと変えられてしまうので注意が必要。実家にも気持ち悪がられている俺には新しい物を買ってくれるわけがないため、大変な目に合うのである。


 教室内にいても面倒くさいことになるだけなので、俺も教師に続いて素早く外へ出る。同じように早く外へ出ようとしていた真面目そうな女生徒が、非常に嫌そうな顔をした。


 いいぞ、もっと嫌え! 蔑め!

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