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十八話

 冒険祭。


 学園での生活に慣れ、ある程度ダンジョンへ挑む能力が備わっていると判断される、二年生以上の生徒が同じ学年で男女二名ずつで一組となり、ダンジョンへ挑むこのイベント。


 その内容は、学園から指定された魔物の一部や植物などを採取し、それまでの時間を競うというもの。上位には結構豪華な賞品が与えられるようだが、本気で挑む生徒は少ない。


 何故なら、これはもう少しばかり活動的な合コンだから。


 特に接点のない異性とお知り合いになる機会というのは、結構少ない。同じ学年だとしても、隣のクラスに知らない人間がいるのは殆どの生徒に当てはまると思う。判断基準は前世での経験だから正確ではないものの、国中から人が集まるこの学園で、全ての人間と知り合いになれる人間は存在しないだろう。社交的なネットであっても、同学年の生徒を全て知っている訳ではない。


 このイベントに参加するための組み合わせは自主的に生徒が作るのではなく、学園側が全ての組の実力が出来るだけ均衡するように決定している。生徒側がそれを操作することは不可能であり、あくまで出来るだけなので予想も無理。参加する生徒は冒険祭の当日に、その組み合わせを知ることになる。


 同じ目標に向かって共に努力をするという行為は、男女の間のみならず、他者との絆を生み出しそれを深めることが出来るものだ。学園としてもそれが目的の一つであり、生徒達の将来において大切な経験となるだろう。


 ───まぁ、しかし。同性の新しい友人を作るために、このイベントに参加する生徒は少ないのだけれど。


 殆ど恋愛のために生徒がやってくるこの学園で、そんなイベントが開かれたら生徒が目的とするのは一つになる。


 つまりは合コン。いい相手を見つけるための、良い機会という訳だ。

 確かに大切な経験となるだろうよ。将来一緒になる相手との、親しくなる切っ掛けになるのだから。


 これが結構盛り上がるらしい。何せ、普段は遠目に見る事しか出来なかった高嶺の花に近づく機会が生まれるかもしれないし、ひょっとしたら運命の相手に出会えるかもしれないのだから。何人目の運命の相手かどうかは、置いておいて。


 「それではこれより、冒険祭を開催します!」


 沸き上がる歓声。このイベントは自由参加であり、参加しない生徒は休日扱いになるのだが、この場には殆どの生徒が集まっている。参加する生徒がとても多いのが一番大きな要因だが、イベントには参加したくなくても祭りを楽しみたいと思う生徒が多いのも要因の一つである。参加不可能である一年の生徒もこの場にいるのはその理由によるものが大きい。


 俺は去年はここにいなかった。そして今年もこれからも、卒業するまでこの祭りには関わりを持たないだろうと予測していたのだが、二年目という早々の時期に覆されることとなってしまったようだ。


 ボッチでもダンジョンに挑戦出来るという魅力はあったものの、実質合コンであるというのならば参加する理由がない。それにダンジョンにはもう自由に行く事が可能だ。ネット達に頼めば良いし、少々キツいがミヤ先生に願えば教育を施して頂けることだろう。このイベントに参加するメリットはないと考え、申請を行わなかった。


 だけど、先生に言われたから仕方ない。不安はあるが、参加せねばなるまい。


 先輩にも言われたことだが、俺は自信を持つべきなのだ。

 自分自身の、愚かな願いがもたらした、棚から牡丹餅な祝福を。


 俺は気持ち悪い。異性に異性として好かれることは、無い。


 もしもその片鱗があったとしても、潰せば問題はあるまい。何せ小さな行為でも、俺の魅力ならば百にも千にもすることが可能だ。だから俺は、相手に嫌悪を抱かせつつもコミュニケーションを取る方法を習得しなければならない。最近見え始めた道の一つ、旅人という選択肢を、選べるようになるためにも。


 「それでは、組み合わせを発表します!」


 やっぱり、人は一人では生きられないから。











 ───────人は一人で生きれることを、今ここで証明してやろう。



 ああ、何て素敵な景色なのかしらッ!


 見た事もない植物、見た事もない動物、見た事もない虫、まるで夢みたい!


 夢見たい! 夢を見ていたい! 夢であってほしい!



 素敵な牙っ! まるで水晶のようっ!


 瞳はギラギラとして輝いているし、まるで宝石っ! 喉から鳴り響く重低音は、一流の楽器だって絶叫を上げるわっ!



 「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁあああああぁぁぁあああああああああ!」



 誰かっ!


 助けに来て下さい。











 転移魔法陣。


 瞬間移動という超常現象を制限無く生み出すことが出来る、魔法陣によって生み出される魔法の中でも特殊なもの。ドラゴンでさえ刻むのに面倒な手順と時間が必要だと言うその魔法は、他のドラゴンの魔法とは格が違う。


 人間やその他の生物が生涯の魔法によってそれを再現するのは不可能。例え再現出来たとしても、生涯を掛けて生み出すには悲しくなるほどの脆弱な魔法になると、最近読んだ書物には書かれていた。


 もはやそれは別物であり、同じと言うのはドラゴンに失礼というものだ。瞬間移動に憧れていた身からすれば、選択を間違わなくて本当に良かった。


 そんな魔法陣であるが、存在するのは入り口と出口だけではない。つまりは俺達人間やその他の知性ある種族が、地下にあるダンジョンに挑むために利用している魔法陣だけが、その全てではないのだ。ダンジョンにはその他にも、多くはないがその存在が確認されている。


 何故か。その問いにはドラゴンが刻んだから、という答えで十分。


 その理由はと聞かれると、それもまた単純。ダンジョンを、より面白くするため。


 ゲームに出て来る迷宮を攻略していると、今まで通った道を何度も通るの面倒臭いと思うことがある。そして思う。攻略した部分だけ、一瞬で移動出来ればいいのに。


 この世界の地下に存在しているダンジョン。その規模は広大で、世界はダンジョンで繋がっており、また今正にこの瞬間もその面積を拡大している。地図を制作してより効率的な道筋を決定したとしても、常に変化しているダンジョンにおいてはその道筋は精確ではなく、また効率的な道筋だとしても、深部まで辿り着くにはかなりの日数と食料などの準備が必要となってしまう。荷物が多くなり、移動も困難。生存確率は大きく減退する。


 そうなると危険を犯してまで、ただでさえ危険な深部まで挑む者は少なくなり、日帰りが可能である地上付近、もしくは数日で帰れて荷物も少なくて済む中間付近を往復する者が殆どとなる。


 これはドラゴンとしては困ったことで、せっかく色々と力を入れている深部なのに、挑戦してくれる者が少ないのは悲しい。そんなの嫌だよ、プンプン。


 そこで考えたのが、入り口出口の他に転移魔法陣を刻んでしまおうという案。


 つまりショートカット。あんまり沢山刻んでもつまらなくなるので数は少ないが、これによってドラゴンの目論見通りに深部に挑む挑戦者が増えることとなった。また新鮮な状態で魔物の体や植物を持ち帰ることが可能になり、知性ある種族の生活が非常に楽になったのである。



 ─────同時に、死亡者の数も多くなったのだが。胸糞悪い。



 「ちょッ! ま───ッ!」



 光る魔法陣。眩しさに瞳を閉じると、景色は変わってしまっていた。


 ドラゴンが単純に、魔法陣を刻む訳がない。それじゃあ、面白くないから。


 そんなこんなで、生まれた『ランダム』転移魔法陣。 


 何処に飛ぶかは分からない。

 もしかしたら、その先は天国かもしれない。それとも地獄か。地獄よりも、苦しい場所か。


 それはドラゴンにも分からない。だから利用する人間なんていない。

 知識のない者からすれば、目の前の魔法陣が正常なものか、それともお茶目な魔法陣か、正確に判断することは困難。


 新しく発見した魔法陣には、絶対に触れるな。それが挑戦者にとっての鉄則。




 俺は今この瞬間、その鉄則を、破らされたのだ。




 「ぐわぁ?」


 コミカルで無駄に愛らしい声を出す、目の前の魔物。


 知識の中に存在するその姿。目撃者の証言によって描かれた絵と、カバのようなその体は完全に一致。

 脳が瞬時に活性化して、その魔物に関する知識を呼び起こす。


 特徴、超危険。生息する場所、ダンジョンの深部。その湿地帯。


 「あ、あはは……は」


 肌で感じる、ベトベトとした空気。雨期である地上の空気なんて目じゃないほどの湿度。

 天井からは絶え間なく地下水が漏れ落ちており、刻まれている魔法陣から注がれる光が反射していて、まるで宝石の雨だ。


 狐の嫁入り。なんて言葉を思い出す。意外と俺は冷静なのかな? ……いや、現実逃避か。



 「カバァァァァァァ!」

 「かばぁぁぁぁぁ!?」



 こうして、魔物が響かせる重低音を開始の合図に、俺のサバイバル生活が始まったのである。



 取りあえず、ドラゴンは滅べ。

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