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少女との出会い

威勢良くバーバリーヒルを後にしたリーフであったが、リーフはこの旅の目的地となる場所がまだわからなかった。


クリスタルは確かに四つあるものの、ひとつひとつに備わっているはずの魔力がやはり感じられない。大魔王を倒すより先に、クリスタルに魔力を取り戻す方が先なのか。あるいはその逆なのか。


更にリーフが一番に挙げた問題として、一人旅という点がある。リーフが使えるのは剣術と黒魔法の一部だけであり、実践的な黒魔法はおろか白魔法でさえ使えないのである。この状況では道中出くわす魔物との戦闘に圧倒的に不利である他、長旅は必然的に無理であるということになる。


そんな事を考えながら足を進めていると、場所はいつの間にかラウス平原の小さな小道に移っていたが、この辺りならまだリーフの範囲内であった。


「くっそー…。やっぱりきちんと勉強しとくべきだったか?せめてキュア系呪文でも――」


「きゃあっ!」


下を向きながら頭をボリボリ掻いていたリーフは、前方から来る人物に気づかずそのままぶつかってしまった。慌てたリーフは急いで立ち上がって頭を下げた。


「すっ、すいません!俺の不注意で――」


その時リーフが目にしたのは、小麦色に焼けた肌と赤の毛髪が印象的な、この辺りでは見かけない美少女であった。背丈はリーフと同じくらいかやや低め。細身の身体つきで、胸と腰に鎧を装備していた。腹部は完全に露出しており、そこからは見事な腹筋が現れていた。


その姿にいつの間にか見とれていたリーフは後に続く言葉がなくなり、しばらく放心状態であった。


「ちょ…ちょっとアンタ大丈夫かい?」


少女がリーフに声をかけた。なかなか低めの、どこか色気のある声だ。


「あっ!すっ、すいませんでした!!あの…どっ、どこか怪我してませんか!?」


「大丈夫だけどさぁ…。…あっ、そうそう。アンタこの地方の人かい?」


徐々に近くまで歩み寄る少女に、リーフは胸が高鳴って身動きがとれなくなってしまった。今の状態では、返事をするのがやっとである。


「そうですけど…何か?」


「この地方の人なの?よかったー。実は人を探しててね。ちょっと待って。」


そう言うと少女は胸の谷間に手を突っ込み、小さなメモを取り出してリーフに差し出した。背丈に合わない、少女にしてはかなりの大きさであった。


「リーフって人を探してるんだけどさ、アンタ心当たりあるかい―って、ホントに大丈夫かい!?」


少女が再び青年に目をやると、その青年は白目を剥いて地面に倒れ込んでいた。





* * *





リーフが目を覚ましたのは、平原の東側に位置する巨大な大木の幹の下であった。ここはまだリーフが幼い頃に、ミカーナに叱られながらも夜遅くまで遊んでいた思い出の場所であった。しかし今となっては訪れる事もなくなり、目を覚ますまでは頭の片隅から忘れ去られていた場所であった。


「ここは…。」


「気がついたかい?アンタが急に倒れるもんだから、アタシもびっくりしたよ。」


リーフが横に振り返ると、そこにはあの赤い毛髪の美少女が立っていた。少女はリーフに歩み寄るや否や、再び胸からメモを出して手渡した。


「改めて聞くけどさ、リーフって人を探してるんだ。心当たりある?」


リーフは見事な谷間に気を取られつつも、ゆっくりとした口調で言った。


「あっ、あの…。俺、リーフって名前なんですよね…。」


すると少女はおもむろに目を丸めて顔をリーフに近づけてきた。


「えっ!?アンタがあの四大勇、ウッダスの息子のリーフかい!?」


「そっ…そうです…。ってか、何で四大勇の事を?…まさか貴方は――」


少女は幹に腰掛けるリーフの前に立ち、腰に手を当てて言い放った。


「そうさ!アタシが四大勇はボルカノの娘、女戦士メーガンさ!!」


腕を曲げて力こぶを作ったメーガンはウインクをして立ちポーズを決めた。リーフはしばらく呆気にとられていたが、四大勇という言葉を耳にした時には我に帰っていた。


「えーっ!?貴方が四大勇の娘!?どっ、どうしてここに?」


「アタシの出身はブチャルウカ大陸にある、モントリオっていう村なんだけどね。生まれた時から四大勇の話を親から聞かされてて、十五になったら旅に出たいって考えてたわけ。だから他の四大勇の末裔を探そうかなって。」


話をしながらメーガンはリーフの隣に座って幹に腰掛けた。リーフは谷間が気になって仕方なかったが、必死に我慢して話題を作ろうと話始めた。


「なっ、何で俺のところに?だって四大勇の末裔は俺含めて三人いるんじゃ…。」


リーフが必死に作った話題に対し、メーガンは顎に人差し指を添えて首を傾げながら言った。


「だって、四つのクリスタルを所持してんのがこの大陸にあるバーバリーヒルって町の国王だって言うし、何せ四大勇のウッダスって人?超が付くほどのイケメンだったって言うじゃん。だから末裔もイケメンなんじゃないかなって。」


「そっ…そうなんすか…。」


リーフの額からは徐々に冷や汗が流れてきていた。目の前の少女に対する抵抗力が、徐々に失われつつある事を実感し始めたからである。胸の鼓動は、今までに経験したことのないほど早まっていた。


「でも先にアンタのとこに来て正解だったかも!だってアンタ凄いイケメンじゃん!?神様、アタシをこの大陸に向かわせてくれてアリガト!」


メーガンは空に向かって言い放つと、いきなりリーフの身体を強く抱きしめた。リーフはメーガンの両腕と胸当てごしの胸の圧迫で既に放心状態となっており、メーガンがリーフの顔を確認すると、再びリーフの目は白目を剥き出して気絶していた。


「あらら…。アタシまたやっちゃったかな?」






* * *





リーフが次に目を覚ますと先ほどまで晴れ渡っていた空には漆黒のカーテンが降りており、それを彩るかのように瞬く星々がきらびやかに光っていた。


リーフが周りを見渡すとメーガンの姿はなく、目の前には赤々と燃え上がる焚火だけが存在していた。


「あのメーガンって人…。あんな人が四大勇ボルカノの娘だなんて…。俺はしばらくあの色気じみた人と毎日を過ごさないとならないのか…。…嬉しいんだか嬉しくないんだか分からないな。」


「リーフ、やっと目覚めたか。ゴメンね、いきなり抱き着いたりして。」


焚火の奥から姿を現したメーガンは、手に丸々と太った魚を二匹持ちながら歩み寄って来た。粋の良さそうな魚で、まだまだ元気に身体を左右に振っていた。


「アタシの性格はフレンドリーっていうかさ、人懐っこいところがあるんだよね。相手がアタシの好みだったら特に。」


「えっ…じゃあメーガンさんは俺のこと――」


「もちろん、一目惚れさ!」




昼間に見せた決めポーズはここでも披露され、リーフは再び呆気にとられるしかなかった。そもそも一目惚れされたという経験が初めてだったため、どう対処すればいいのかわからなかったというのも一理あった。


「これからはメーガンって呼び捨てにして構わないからね、リーフ。アンタみたいなイケメン、アタシの大陸にはそういないからさ。」


メーガンはリーフの隣に座り込んでそう言うと、手にしていた魚を太めの枝に突き刺して焚火の前に置いた。リーフはただ必死に、その様子を眺めているしかなかった。


「じゃっ…じゃあメーガン。早速質問なんだけど、戦闘はバッチリなんだよな?」


メーガンは呼び捨てにされたのが嬉しかったのか、笑みを絶やすことなくリーフの質問に答えた。


「当たり前さ。アタシ、クリスタルを守る四大勇だった父さんに憧れて、一人で剣術を磨いてたんだ。おかげで女性らしくない、筋肉質な身体になっちゃったけどね。」


そう言うとメーガンは腹筋をリーフに見せ、続いて力こぶも触らせた。男性ほどではなかったものの、メーガンの身体には無駄な肉が付いていないのが分かった。それはリーフがメーガンと同じく、日夜剣術の練習に明け暮れていた証拠でもあった。


「すっ…凄いな。じゃあ呪文は使えたりしないのか?」


「呪文?あぁ、母さんから多少は習ったよ。」


リーフはメーガンが白魔法を使える事を祈って、恐る恐る聞いてみた。


「白…魔法なのか?それとも黒魔法…?」


「白魔法だよ。キュア系とディア系。」


リーフはそれを聞くと安心したように胸を撫で下ろした。旅に白魔法は必要不可欠だったため、メーガンと出会えたことが奇跡に近かった。


「よかった…。俺、多少の黒魔法しか使えないから、白魔法が使えるメーガンがいて助かったよ。」


「えっ?もしかしてアタシ…感謝されてる!?超嬉しいんだけど!」


嬉しさのあまりメーガンは焚火の周りをクルクル回り、楽しげに鼻歌を歌ってみせた。


リーフは改めてメーガンが自分に一目惚れしたのだということを感じ取り、笑顔でメーガンを見つめた。


「いや、本当によかったよ。これからどこに行けばいいのかも、全然わからなかったからさ。メーガンがいれば安心だね。」


「えっ?アタシ、四大勇の末裔の居場所を探してただけで、どこに行けばいいだなんて聞いてないよ?」


その瞬間、二人を嘲笑うかのように風が吹き始め、リーフの頬を掠めていった。メーガンはしばらく硬直するリーフに対して、舌をだして照れ笑いをするのであった。






* * *





「…ったく。結局行き先が分からないまま旅をするはめになるのか…。」


リーフとメーガンは焼き上がったばかりの魚を、一人一匹で食べていた。見事に脂がのった身は、リーフの空腹感を一気に満たす。


「まぁいいじゃん。リーフとアタシの二人で頑張って行けば、なんとかなるって。」


「そうかもしれねぇけどさ…。うーん…弱ったなぁ。」


「ところでリーフ。アンタが持ってるクリスタルって、国王から授かった伝説の宝石だって言ってたよね?」


メーガンは魚の頭にかじりつきながら、リーフの腰に巻き付けてある袋を見て言った。リーフは食べ終えて油だらけの手を布きれで拭き、袋から四つのクリスタルを出した。焚火の明かりで煌めいてはいるが、やはりただのクリスタルであった。


「あぁ。本来ならクリスタルに魔力が働いて、それぞれが常に光り輝いているらしいんだけど、ご覧の通りただのクリスタルさ。魔力どころか何の力も感じられないね。」


メーガンも魚を丁度食べ終えてリーフの持っていた布きれで手を拭くと、クリスタルの一つを手に取って眺めた。


「アタシの住んでるモントリオって村の長老の話じゃあさ、クリスタルって各大陸にある祠の祭壇に捧げられていたんだって。」


「祠?」


メーガンは立ち上がって焚火の周りを回りながらクリスタルを眺めて言った。


「なんでも、その祠っていろんな形で存在してるみたいで、見つけるのは至難の技だって聞いたけどね。」


「とにかく、その祠に行ってクリスタルを捧げれば、本来持ってた魔力を取り戻すって事か?」


二人がクリスタルについて話している間も時間は流れ、辺りはより一層暗くなっていく。焚火の周りを一周したメーガンはクリスタルをリーフに返して首を傾げた。


「さぁね。長老が言ってたから多分そうなのかも。ただこの大陸のどこかに、四つあるクリスタルの中の一つが捧げられてた祠があるのは確実だと思う。」


「じゃあ明日はこのラウス平原を抜けた先にある、マドリーって町に行くか。その町で遠出の準備して、情報を集めよう。」


そう言うとリーフは焚火の火を消そうと歩み寄ったが、それを急にメーガンが止めに入る。


「ダメっ!リーフ、アタシ暗いのが駄目なの。消さないどいてくれる?」


「えっ…まぁ、いいけどさ。メーガンって男勝りな一面もあるけど、意外と乙女な部分もあるんだな。」


するとメーガンは小麦色の顔を赤らめて、照れながらもリーフの顔を見つめた。


「りっ…リーフ…。アタシの事、好きになった?」


「えっ!?まっ…まぁ多少は…。てか、あまりまだお互いのこと詳しく知らないからさ、まずは仲良くいこうぜ?な?」


メーガンはリーフの言葉に対して首を縦に振ると、リーフの胸に手を添えて眠りに落ちた。その瞬間、豊満な胸がリーフの腕を圧迫したため、リーフは三度目の気絶を迎えることになったのである。

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