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旅の始まり

静寂とした闇の中に、赤く光る二つの眼が浮かび上がる。と同時に、闇の中に一つの影が現れた。影はその後徐々に色彩を帯び、白のローブを身に纏った鳥のような魔物へと変化した。


『ジャミラよ…。各地に点在するクリスタルの様子はどうなっている…?』


闇の中から聞こえるおどろおどろした低い声は、同じ魔物という立場であるジャミラでさえ恐怖におののく程であった。ジャミラは頭を深々と下げて地面にひざまずき、できるだけ背中に生えた羽を竦めた。


『ははっ、我が四天王が厳重に保管しております。人間共の具体的な行動は耳にしておりませんが、おそらく何の心配もありません。』


『フフフ…あと少しだ…。あと少しでこの世界は私のものとなる…。』


声はそう言い終わるとジャミラの姿も闇に紛れ、再び静寂が戻っていった――。






* * *






ルーネルド大陸の南部に位置する、王都バーバリーヒル。一万五千人が暮らすこの都は、世界有数の産業国であった。その長い歴史は今から約150年前にまでさかのぼる。


この世界は地図を広げても分かる通り、非常に覚え易い大陸構造となっている。地図の四隅にそれぞれ巨大な大陸があり、南東にはサルモンド大陸、南西にはブチャルウカ大陸、北西にはサマルオサ大陸が存在しており、ルーネルド大陸は北東に位置している。それぞれの大陸の上下は愚か左右でさえ繋がっていないので、別の大陸に行くには必ず船が必要である。


それぞれの大陸を治める国は決まっており、バーバリーヒルがルーネルド大陸を統治している。ルーネルド大陸は四つの大陸の中で唯一火山が豊富なため、鉄鉱石を使った武器や生活用品を作る技術が長けており、バーバリーヒルはその中でも優秀な都であった。バーバリーヒルで技術を学び、他の大陸に渡って技を活かすという者も少なくない。


その様な特徴を持つバーバリーヒルで今日、十六歳の誕生日を迎える一人の青年がいた。名はリーフ。かつてクリスタルを異世界からの侵略から守った伝説の勇者、ウッダスの息子である。





* * *






「リーフ、あなた王様に呼び出されているわよ?」


リーフの母親であるミカーナは家の前においてあった手紙を見て言った。封をしている印は、紛れも無くバーバリーヒル城主であり国王、マグダット三世のものであった。


「えっ!?俺が王様に!?…俺、何か悪いことしたっけ…。」


様々な考えが頭の中を過ぎるが、自分が法を犯したような行動を行ったことは一度もなかった。唯一挙げるなら、勉強をあまりしないで剣術を磨いていたくらいである。


「大丈夫よ、多分そんな事じゃないと思うわ。きっと。」


「ん?母さん、何か知ってるぽいなぁ…。隠してないで教えてよ。」


ミカーナはテーブルの上にパンが入ったバスケットを並べると、食器を棚から出しながら言った。


「何言ってるの。お母さんの勘よ、勘。歯を磨いたら早いうちに食べてお城に行った方がいいわよ?」


「いや、飯はあとでいいや。それより後で俺の剣磨いといて。」


リーフは碧の髪をボリボリかきながらそう言うと、急いで服に着替えて家を後にした。


「あなた…ついにあの子に真実を伝える日が来ましたよ…。」






* * *






「リーフよ、よくぞ参ったな。そなたには今日、どうしてもわしの口から言わねばならない事があっての。」

バーバリーヒルの城内にある玉座の間。きらびやかな装飾が施された部屋は、まさに世界有数の産業国であるという雰囲気を醸し出している。リーフは玉座がある壇上よりやや後ろでひざまずいていた。玉座に腰を降ろしているのは、バーバリーヒルを含めルーネルド大陸全体を治めている国王、マグダット三世である。


「国王様、何でございましょうか。」


「実はそなたの父親に関する話でな――おっと皆の者、しばらく席を外してもらえんか?」


王の一言で周りにいた大臣や護衛は一礼をして、そそくさと階段を降りて行った。国王は全員がいなくなったのを確認すると、一旦咳込みをしてから口を開いた。「話をする前に、そなたはこの世界にある四つのクリスタルの存在を知っておるか?」


「クリスタル…ですか?」


唐突に宝石の話を口にされたので、リーフは内心焦った。彼自身はもちろんバーバリーヒルの生まれだが、宝石に関する知識はあまり豊富ではなかったし、本を開いてこの国や大陸の歴史を学ぶよりかは、剣術で自分の腕を磨く方が断然よかったからである。


「はっ…はい。クリスタルに関する話は、幼い頃に祖父母から聞かされていました。四つのクリスタルはそれぞれ四つの大陸に一つずつ存在し、それぞれが固有の能力や魔力を秘めていると…。」


「その通りじゃ。四つのクリスタルはそれぞれ《火》・《土》・《水》・《風》を司り、この世界における原動力となる存在じゃ。」


祖父母から聞かされていた話が意外な場面で役立ったなと感じたリーフ。額からは冷や汗が流れてきているが、幸いにも王は気付いていないようだった。


「しかし…どうされたのですか?私にその様な伝説を話されて…。」


「うむ、実はそなたの父親であるウッダスは、かつて異世界からやってきた魔物達からクリスタルを守った四大勇の一人だったのじゃ。」


王から発せられた言葉に、リーフは驚きを隠せなかった。自分が伝説の四大勇の息子であるとは思いもしなかったからである。


四大勇とは、クリスタルを守るために魔物と戦うことを誓った伝説の勇者四人の総称である。かつて世界を支配しようと企んだ大魔王が魔物の軍団を引き連れてこの世界に降臨し、各地に点在するクリスタルを狙ったのだが、立ち塞がった四人の勇者がこれを防いで魔王を倒し、世界に永遠の平穏をもたらしたとされている。もっとも伝説として言い伝えられているため、半信半疑であるという者達が多かった。リーフも例外ではない。


「わっ…私が、四大勇の息子…?」


「そなたの剣術は並々ならぬものであると聞く。おそらくそれは父親であるウッダスから受け継いだものであろう。」


真剣な眼差しで見つめる国王に対して、リーフはそう信じたいという気持ちも浮かびつつあったが、やはりただの伝説を鵜呑みにしたくはなく、思い切って口を開いた。


「まっ…待ってください国王様!私が四大勇の一人であるという証拠はどこにあると言うのですか!?それに私の父は、戦場で勇ましく戦った兵士だったのでは!?」


すると国王は何も言わず静かに頷き、玉座から立ち上がって言った。


「わしに着いて参れ。おぬしの父親が四大勇であったという証拠を見せてやろう。」


国王は懐から質素な鍵を取り出して、城の地下へと続く階段を降りて行った。リーフもまた立ち上がり、国王の後を追った。





* * *







国王は手に松明を持って、常にぶつぶつと独り言を発していた。


「この隠し通路も長いこと使われていなかったからのう。先代が自分の宝物を隠すために作った通路じゃったから、かれこれ100年以上は経っているかの?」


国王とリーフは城の地下にある隠し通路を進んでいた。王の言った通り人の出入りは全くなかったらしく、天井にはいくつもの蜘蛛の巣が張っていた。壁には奇妙な印がところどころに刻まれており、そのいくつかに何かをはめ込むような穴があった。


「おぉ、あった!あれじゃ!」


国王が指した先には石造りの頑丈な扉があった。通路の壁は古びていて朽ちている部分も見られたが、この扉だけはなぜか朽ちておらず、魔力が働いているようにも感じられた。


「リーフよ、松明を持っていてくれ。」


リーフは松明を受け取ると、国王は先ほどの鍵を壁に当てた。すると鍵は扉に吸い込まれるようにして入って行き、次第に扉の色が薄くなっていったかと思うと、石造りの扉はいずこへと姿を消した。


「とっ…扉が消えた…?」


「この扉には魔法がかけられていての、あの鍵と二つで初めて魔法を解くことができるのじゃ。」


部屋の中は暗くてよくわからなかった。その暗さは、松明を消してしまうと視界を失ってしまうほどである。リーフは壁に掛かっていたいくつかの蝋燭に松明の火を付けると、目の前に質素な作りをした宝箱があった。


「リーフよ、その宝箱を開けるのじゃ。」


リーフは松明を再び王に手渡し、言われた通りに宝箱を開けた。


「こっ…これはまさか…!」


「そう、四大勇が必死になって魔物の軍勢から守り通したクリスタルじゃ。」


宝箱に入っていたのは、手の平ほどはある巨大なクリスタルであった。しかし四つの力を宿しているという伝説は微塵も感じられず、形だけみればただのクリスタルであった。


「これは本当にあのクリスタルなのですか?にしては――」


「不思議と力が感じられない、そうじゃろう?しかしそれは正真正銘、四つの力を宿す伝説のクリスタルじゃ。」


国王はクリスタルの一つを手に取って、過去を懐かしむかのように話し始めた。


「実はそなたの父親とは親友同士での。魔物の軍団が押し寄せて来たときも、わしが軍隊を組織して手をかそうと言ったんじゃが…あやつめ、無茶をしよって…。」


すると国王は目に涙を浮かべて泣き始め、その場に崩れ落ちた。リーフが慌てて国王の側に駆け寄る。


「じゃあ…父は兵士として命を落としたのではなく、このクリスタルを守ろうとして…。」


「わしがあの時軍隊を即座に送っていれば、このようなことには…。すまんの…もしかしたら父親というおぬしの大切な存在を奪ったのは、魔物ではなくわしだったのかもしれぬな…。」


「そんな…私が全く知らなかったばっかりに…。ありがとうございました。国王様から父の話を聞くことができてよかったです。」


国王は涙を拭き取って立ち上がり、四つのクリスタルを赤い布に包むとリーフに手渡した。


「クリスタルに何の力も感じられないのは、大魔王の側近である魔物に力を奪われたからじゃ。奴らはクリスタルを使ってこの世界を征服しようと企んでおる。リーフよ、わしからの願いじゃ。必ずや魔王を倒し、世界の平和を取り戻してくれ。」


「世界に平和を…。…はい、必ずや取り戻してみせます。」


リーフは国王にそう告げて、クリスタルを布ごと袋に入れた。






* * *






家に帰って来たリーフ。ミカーナは優しい笑顔で話し始めた。


「王様から聞いたのね、全てのことを…。」


「母さん、俺…まだ実感できないや。父さんが四大勇の一人だったなんて…。」


表情を曇らせて下を向くリーフの頬に、ミカーナは優しく手を添えた。


「お父さんね、あなたが成人する境目の時に自分のことを息子に伝えてほしいって言ってたのよ。だから十六歳になった時に話そうって、王様と以前から相談してたの。」


「そうだったんだ…。…父さん…。」


この瞬間、リーフの頭の中に何かが過ぎり、自分が成し遂げなければならない一つの目標が定まった。


平和を取り戻す。国王の前で自分がそう言ったその言葉が、酷く重い支えとなっているような気がしてならない。家族と楽しく過ごす日々を打ち砕かんとする大魔王。その軍団に敗れた父。リーフは覚悟を決めて、ミカーナにこう言った。


「母さん。俺、平和を取り戻してくるよ。父さんが成し遂げられなかったことを、俺が成し遂げるよ。」


ミカーナの目頭は既に熱くなっており、溢れんばかりの大粒の涙がこぼれはじめていた。そして最愛の息子に対して、期待と不安を持ちながらも言うのであった。


「はい、いってらっしゃい!」


リーフはその言葉を聞いた直後、リュックに薬草のいくつかと砥石、所持金である5800ルピーを詰め込み、国王から授かった四つのクリスタルをベルトにきつく巻き付けて、雲一つない青空広がる外へと飛び出した。こうして、リーフの平和を取り戻す旅が幕を開けたのである。

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