残暑お見舞い申し上げます
まあね、もうお盆も終わったしね。だから、そろそろまあ、いいかな、って思ってさ。
…何が、って?
ああ、うん、まあその……ソウイウ話、ていうか?
ほら、お盆って「帰ってくる」って言うじゃない?で、ほら…送り火も済んだし?みたいな。
なんていうかさ、あの、見ちゃったんだけど、あんまり、相手が「いる」ときには言いたくなかったつーか。まあ……わかれ!
……ええと。で、どこから話すかな。
あのさ、アタシが、車で通勤してんのはもう知ってるよね。で、朝のラッシュの時間なんか、主幹道は混むから、いっぽん外れた裏道を使うのが好きなんだけどさ。
その裏道の通勤ルートの途中に、まあ、Tオート、ていう、中古車屋さんがあるのよ。…どこかって?あー…。ほら、アタシ、S新道、ていう地元民しか通らない裏道、使ってるじゃない。あそこの、ほら、S小学校のそばの、道の反対に農協があって……あ、いや。あんま詳しく説明しちゃうと悪いかな、まあ、……わかんなかったことにしといて。ね?
それで、その中古車屋さんだけど、まあやっぱりお盆期間中は休みだよね。アタシは接客業だから、お盆なんかフツーに出勤してたけどね!……ああ、話がそれた。
で、だ。その日もアタシはフツーに仕事して、午前勤務だったから15時くらいだったかな、ソコの前通ったのって。
そのTオートの隣にさ、たぶん、経営者さんの自宅なんだろね、一軒家があって、道路沿いに駐車スペースがとってあって、通りすがりに、軽四が二台、こっちにアタマ向けて駐まってるのが見えてたのね。
道路から見て奥っかわのクルマのまえで、オジサンがふたり、立ち話してたのが横目で見えて、別に信号もなにもないところだし、アタシもただフツーに通りすぎたんだけど、道路っかわに駐まってる軽四が視界にはいったとき、一瞬、あれ、て思ったんだよね。だけど、クルマは走ってるわけじゃない?あれ、とは思ったけどフツーに一瞬で通りすぎて、しばらく、自分がなんで「あれ?」て思ったのか、わかんなかった。…そりゃそうだ、運転中に、あんまりよけいな考えごとなんてする習慣はないし。
その20分後かな、家に帰ってさ、それでもまだ気にはなってたから、あのとき自分がなんで「あれ?」て思ったのか、あのとき通りすがりに見た光景を、じっくり思い出してみたんだけど。
……シャッターズアイ、て知ってる?見た光景をそのまま映像として記憶できる、ていう。アタシ、アレなんだよ。だから、一瞬しか見てなくても、ちゃんと思い出せたんだけどさ。
道路っかわの軽四の助手席に、人が乗ってたんだよ。この暑いのに締め切った車内でさ。…ああいや、そりゃエアコンかけてたらおかしくないよね、だから、そこを「あれ?」て思ったとしたら、これで「あれ?」の理由がわかってハイおしまい、だったんだけど、よーく考えて、気になったのがそこじゃないって気がついた。角度だよ。
なんの角度かって?………いや…、首の、さ。
ん、いや、角度ってより、位置、ていうほうがいいのかな…?
ほら、助手席にフツーに座ってるにしては、顔が、ね。なんか妙に、フロントガラスに近すぎた、つーか。あの位置まで顔を近づけようとしたら、こう…、座席から、前のめりにのりださないと無理なくらい、近かったんだよ、顔が、フロントガラスに。なのに、のりだしてるはずの首の角度が、まっすぐ…だったの。
そこまで気がついて、え?て思って、あれ、そういえば、アタシその首の持ち主の、首が乗っかってるはずの肩を、いや肩っつーか身体を、…見たっけ?て。
………うん、もうわかるよね。
その首、ボンネットから生えてたんだよ。