神はこの星にいる
『人間は皆、誰かを求めなくちゃ生きていけない。』
いつか誰かが言っていた気がする。でも心のどこかでそんなのは嘘だと言い聞かせ続けてていたのかも知れない。自分の心が、否定されていたようなそんな中にずっといたから。
十六年間、大切なモノも心奪われる何かも無かった。どんなにキレイな夕日をみても、どんなに優しい風に触れても心はなにも感じなかった。
あの頃のオレの心はいつでも道端に落ちている空き缶の様だったのだ。
大切なものもない。
心温める安らぎすらない。
そんな人生を空き缶といわずになんと言うのだ。
オレは公園のベンチに座り、無造作に転がっている足元の空き缶を蹴飛ばした。
カラン、コロン。
空き缶特有の明るい音がなる。鮮やかでキレイな音。その音はまるでなにかの楽器のような明るくて、心に響くものだった。だが、いまの自分にはお前は空き缶ですらないとでも言われているようでいたたまれない罪悪感の元凶に過ぎなかった。
その音にオレはよけいにムシャクシャして頭を抱えた。
「くっそ…。」
その時のオレは知らなかったから…。
人間がこの世界を生きていくのに必要不可欠なぬくもりを持っている生き物だということを…。
それなのにオレは生きている事すら虚ろで、挙句の果てには自殺未遂まで犯した。
そんなオレは信じてすらいなかった神の言葉によって救われたんだ。あの日の夢――。
神は夢の中にいた。オレのたっているその場所はとても明るいのに、神の姿は深い霧に覆われていてよく見えない。人の形をしているのかもオレの想像も出来ない異形の姿をとっているのかも確認できない。ただわかるのはその神がとても幼い少女だということだけ。
その声はなぜかとても懐かしい気持ちでいっぱいになるほど、愛おしかった。
なぜだ?なぜこんな気持ちになるんだ。
こんな声知らない。こんな想いも…でも。
神はこう言った。
『百年に一度の夜会に招待しよう。あの人の…変わり。』
それっきり、オレは再び深い眠りについた。
神の存在すら半信半疑だったが生きることに退屈していたオレは指定された場所へと行った。指定された場所は、小さな神社。もう何百年も前に社を失った主の無い場所。そこには今にも崩れ落ちそうなほど古ぼけた黒い扉が一つあるだけ。恐る恐る扉を開くと中はまるで扉の色と変わらないぐらい真っ暗な回路だった。
どこまでも続く道。
神が、その扉が…僕に、生きる理由を与えてくれた。
本来なら、こんな意味の解からない話を黙って受け入れられる奴はそうそういないだろう。
いきなり現実になるかも分からない夢の中の不安定な神の言葉を信じる者なんてそうはいない。
だけどオレはそこで彼女に出会って初めて人間の温もりをしったのだ。暖かい、まるで人のような感覚を知った。いや、知ることが出来た。十六年間知ることが出来ずにいたのに、彼女はたった一晩でオレにそれを教えてくれた。
今日、彼女に会える。
百年前とは何一つ変わらない自分の外見。きっと彼女も変わってはいないのだろう。
なんせあの日からオレ達の寿命は二千年も与えられた。普通のひとよりも成長が遅い。でもこの可笑しな現象に周りの人間は誰も気付かない。神の力かなんなのか…。
神…よく神話なので語られる幻想の中の幻の存在。でもオレは信じている。神は存在する。でなければ、こんな奇跡は起こりえないからだ。そう、こんな奇跡的な出会いはありえなかった。
「百年か…。」