わがままだと呟く先の
「もう、会えないんだね。」
澪架は三人の顔を順番に見た。
三人は止まったまま何も言わなかった。遼介は澪架をそっと抱きしめた。
「遼…介…うっ。…ひっく…。あれ…どうして…。泣かないって…決めてた、のに。やだ…な。また…逢いたいよ…。たくさん話して、もっともっと…いろんなことしたい。…いろんなとこに…行きたい。…遼介が見てきたものとか…真央たちの見てきたものとか…まだ…何にも知らないのに…別れなんて…。」
遼介に抱きしめられている澪架の頬に真央と由紀がそっと手を触れる。
「澪架さん。泣かないでください。でも…私も、本当はもっと一緒にいたいです。暁の姫としてではなくて唯一、真央という存在でいられるこの場所に…。どこよりも温かいあなた達と出会えたこの場所に…そして由紀のコトを好きでいられるこの場所を…離れたくはありません。だけど…ここは、私たちのいるべき場所ではない。それはわかっています。」
「僕たちは本来ならありえない出会いをした。前は自分の人生すらも投げやりで、なのにあの人は…神は僕達に救いの手を…差し伸べてくださった。澪架にあえて、人を愛することの意味をはじめて知ったよ。これ…は誰にも負けない、僕の誇りだ。だから泣かないで。澪架に泣かれると弱いんだ。」
澪架はぼろぼろと零れる涙を必死に拭った。もうその姿を見る事など出来なくなる。だから忘れないようにこの目でしっかりと見ておきたい。なのに…涙が邪魔をする。
遼介は自分が夕焼けの色だと言ったときの澪架の表情を思い出した。
「澪架…目を閉じてごらん。」
遼介の言葉に習い澪架はそっと目を閉じた。
「澪架は一人じゃないよ。ボクも、真央も由紀も、みんな澪架を忘れない。だって目を閉じれば澪架を見つめてる。」
「本当。みんなわらってる。…でももうお別れなんだね。…ずっと夕日が見たかった。イデムの外にでて、他愛の無い会話をして、遼介と普通に恋がしたかった。ずっと、ずっと…好きでいたい。傍にいたい。」
澪架はまた一筋の涙を流した。今度は本当に少しの綺麗な涙だった。
『その願い。叶えましょう。』
どこからか聞き覚えのある幼く高い声が四人の耳に届いた。四人は辺りを見回したが、その人物の姿はドコにもいない。
「葉月様。どこにいるのですか?」
真央は声を上げて叫んだ。するとスッと目の前に光が現れた。その中心には真央や澪架よりも小さな少女のシルエット。
その姿をみて叫んだのは遼介だった。
「遼子!」
そこに現れたのは遼介の妹、遼子だった。
「遼子…なんでここに…。」
『私が神だからです。本来なら天命で消えるはずだったこの体を私がお借りしました。あなたたちの行く末を見届けるためと…遼介様のお側にいるために…。』
遼子はゆっくりとそして愛しそうに遼介見つめた。そして瞳を閉じた。
「なんでボクなんですか?由紀でもよかったはずだ。傍にいるなら、由紀や真央や澪架でもよかったのではないですか?」
『それはアナタがあの人の生まれ変わりだから。人間は神と約束を交わしてはいけないのです。でも、それを知りながらもあの方は約束をしてくださった。孤独に生きる私の手をとって、決して忘れないと…。私が呼びかければ必ず答えてくださると。そばに居てくださると…叶えられないことも知っていながら…それが嬉しかった。あの方の魂が孤独なまま死んで行くのを見たくはなかった。だからここにあなた方を呼びました。』
そう言って遼介を見て、澪架をみて、真央と由紀を見た。真央と澪架は泣いていた。遼子はそれをみて天使の様に優しく微笑んだ。